第41話 何か仕掛けようと試みる
王太子殿下がその気なら、私も何か仕掛けることを試みよう。
負けてばかりじゃいらない。
(どうしよう…、とにかく褒めてみるとか?)
褒められるのは男性に限らず嬉しいだろうし、恋愛小説でも褒める場面がたくさんあったはずだ。
「王太子殿下は仕事が大変そうですよね」
「まあ、そうかもしれないな」
「いつも国のために頑張ってて偉いなぁと」
「それが俺の役目だからな。で、急にどうした?」
(うぅ…、褒めるのが下手かもしれない…)
褒め方がおかしかったのか、王太子殿下に不思議そうな顔をされてしまっている。
何か変なことに、すぐ気づかれてしまう。
「…人の感情を読むのも得意で凄いです」
「お前がわかりやすいからだろう」
(ん~?!何が駄目なんだろう?!)
褒めているのに、褒められてると王太子殿下が思っていないのか。
それともやっぱり、私が褒めるのが下手すぎるのか。
「わ、笑った顔が普段より更に美しく輝いていて、低くしっかりとした声も聞いていてとても心地がいいです!」
(これならどう?)
自分が言える最大限の褒め言葉を言ったつもりだ。
「ははっ…、ありがとな」
王太子殿下は涙が出るほどに笑っている。
(何で笑うの?!さっき顔がいいと言った時は照れてたのに?!)
たくさん褒めて惚れさせるのは、私には少々無理があったようだ。
となれば、次の方法を考えるしかないのだが。
(小説で主人公はどんな行動してたかな…)
可愛い服装や髪型は出来ないし、さりげなく王太子殿下に触れてみるとかもあれだし。
手は繋いでいるから今も体はかなり密着している。
これ以上どうやって距離を詰めればいいのかすらわからない。
(とりあえず顔を見つめてみる?)
そう考え、王太子殿下の瞳を真っ直ぐに見つめてみた。
その視線にすぐ気づいた王太子殿下は意地悪な顔をして言い放つ。
「キスでもして欲しいのか?」
「なっ!違います!!」
まさかその返答が返ってくると思っていなかったし、キスされた時のことを思い出してしまう。
(そう来るかぁ…)
仕掛けてみて、結局全て返り討ちにされた気分だ。
でも考えてみれば、私がこれまでカップルを見ることに心酔していただけで、特に何もしないまま王太子殿下の気持ちは変わって来ていたのだし、むしろこのまま何もしないほうがいいのでは。
純粋にこのデートを楽しんでいるだけで、王太子殿下にとってはその方がいいのかもしれない。
そしてその後も、日が暮れるくらいの時間まで二人でお祭りを楽しんだ。
以外に時間が過ぎるのも早く感じて、あっという間にデートが終わってしまったと思っていた。
終わることが寂しいという訳ではないと思うが、こんな時間をもっと過ごせたらと思ってしまう自分がいる。
色々考えていれば、もう王宮に着いてしまって私は思わず立ち止まってしまった。
(デートの最後にまだ終わって欲しくないと言ったら、別の意味になってしまいそうだね…)
そう思うだけで口に出さずに居れば、王太子殿下が先に口を開いた。
「今日は本当に楽しかった」
「…私も楽しかったです。王太子殿下に全てお任せして良かったですね。私じゃこんなデートは考えられないですし」
今だったらカップルが多い場所、カップルが好きな場所しかしらない私よりも、王太子殿下の方がいいデートプランを立てれるだろう。
実際、今回のデートは前とは比べ物にならないほど本当に良かったのだから。
今日はいつもより素直になれる気がした。
それはきっと、王太子殿下が色々私のために考えてくれたから、それに感謝の気持ちを返さないと、と思ったからだろう。
「今日は本当にありがとうございました。これより楽しいデートなんてこの先無さそうです。私のいい思い出ですね」
私は何となく思っていることがある。
このようにデートするのは最後になるのではないかと。
これから後もう少しの婚約期間を終えるまでに、シュリヒトの婚約発表のお茶会に出席したりで忙しくなるし、王太子殿下の予定が空かなければデートは出来ない。
となれば、残りの期間でデートすることが難しいのだ。
そう思っていたことを勘付かれたのか、王太子殿下は怪訝そうな顔でこう言った。
「これが最後みたいに言うな。絶対にこれで終わらせたりしない。…じゃあ、ゆっくり休めよ」
「え?あ、はい…」
(終わらせたりしないって…残りの期間でデート出来る時間を作るってこと?)
あんなに仕事が忙しそうなのに、時間を作ることは容易ではないはず。
ならば別の意味があるのだろうか。
(でも婚約は破棄するんだから…)
しかし、婚約破棄出来る自身は無くなってきているし、婚約破棄するということに少し寂しさを感じてしまった気がする。
読んで頂きありがとうございました!
次回は木曜7時となります。




