第40話 今日の王太子殿下はどこか違う
秘密だと言われていた場所は街だった。
普段は馬車でしか通らない道を歩いているから、街までかなり歩いただろう。
街に着いてからどんどん奥の方に行ってみると、どうやら街の様子が違う。
「もしかして、お祭りですか?」
「そうだ。お前は忘れているだろうと思ってな」
「うっ…」
さすが王太子殿下、ご明察だ。
お祭りはカップルがいつもよりも多く見れることで、毎回日程をちゃんと確認して楽しみにしていた。
けれど、グロース公爵の一件ですっかり忘れてしまっていたのだ。
この前街に出たというのに、それでも気がつかなかった。
「お祭りは貴族も多いし、正体に気づかれたらどうするの?」
「そのために変装したのもある」
「でも私たち結構有名人ですよ?」
王太子殿下と、自分の恋愛に興味がないと有名な人。
だから変装していても気づかれるのではないかと心配なのだ。
王太子殿下はグロース公爵が気がつかなかったくらいだから大丈夫かもしれないが、私は服装が違うのと髪の纏め方を変えただけだ。
気づかれたっておかしくない。
「大丈夫だろう。皆の関心は祭りの方に向いている」
「そうですかね…?」
「じゃあ、お前だったら俺が変装して街を歩いてても気づくのか?」
「あ、それは気づきません」
「そういうことだ」
投げかけられた質問には即答してしまう。
私は王太子殿下が変装して歩いてても絶対に気づかない自身がある。
なぜなら、カップルと癒しのことしか考えておらず、カップル以外の人に目を向けていないからだ。
「そうは言っても、イアンは顔がいいじゃないですか!街を歩きながらかっこいい人を探している令嬢だっているんです。令嬢から視線を集めるに決まってます!」
「俺が他の令嬢から見られるのが嫌なのか」
「それだと私がヤキモチ妬いてるみたいになりますけど、違いますからね?顔ばかり見ている令嬢なら気づくかもしれないという話で…」
そういう令嬢たちはお祭りではなく、顔に関心が向いているからだ。
私はカップルしか見ていないから王太子殿下を見ることはない。
でも顔を見ていれば、見かける度に男性の顔をよく見ることだろう。
「だが、顔はいいと思ってるんだな」
「思ってますよ?!恋愛小説に出て来る王子様と言えばイアンみたいな人のことを言うんだろうなぁって」
「お前にとってタイプな方なのか?」
「え?ん~、タイプとか私にはわからないですけど、これまで会った中だと一番かっこいいんじゃないですか?だからこそ、愛する人だけに向ける熱い眼差しはどんな感じなんだろうと、考えてましたから」
「…そうか」
王太子殿下は片手で顔を隠し、そっぽを向いてしまった。
もしかして照れているのだろうか。
そうかと言った声も、嬉しさが混じっていたように感じた。
(顔を褒められたことはたくさんあるだろうに…、照れるほど嬉しかったの?)
疑問に思って聞き返したかったが、聞くのは止めた。
なんだか聞いてはいけないような気がする。
「あ、あれいいんじゃないか?」
「何がですか?」
そう言って王太子殿下が近くにあったお店に近づいて行った。
「これお前に似合いそうだ」
手に取って見せてきたのは薄緑色のリボンだ。
それを王太子殿下は買い上げ、私が髪を纏めているところに結んでくれた。
「うん。似合っているな」
「ありがとうございます…」
貴族が買うようなものじゃないから、値段も最初のデートのようなとんでもない値段じゃないし、何より私に似合うと思って選んでくれたことが嬉しい。
赤色でもなく、私に任せるのではなくて、王太子殿下自身が似合うと思ってくれたもの。
(随分と王太子殿下も変わったな…)
あの時は会話をほとんどしていなかったまま迎えたデートだったから、私のことなどあまり知らなかったからだろう。
でも今はある程度知っているし、気持ちが好意的になっているから、私に似合うものがわかるようになってきたようだ。
「センスあるじゃないですか」
「元からあったと思うが?」
「いや、あれはセンスあると言いませんよ」
照れ隠しで可愛げがないことを言ってしまったが、王太子殿下のことだし私の嬉しいという気持ちは伝わっていると思いたい。
それに王太子殿下はデートが始まってからもご機嫌だったが、時間が経っていくにつれて更に機嫌がよくなっているような。
それから、リボンを結ぶ時に一度手が離れたのに、結び終わってすぐにまた手が繋がれた。
本当にデート中ずっと手を繋いでいるつもりみたいだ。
ここまでの会話や流れ的に、ノアが言っていたように王太子殿下は本気で落としに来ているかもしれない。
読んで頂きありがとうございました!
次回は火曜7時となります。




