第4話 その勝負、受けて立ちます!
さて、ここからはお楽しみの時間。
(隅っこの方でラブラブなカップルを堪能するぞ~!)
会場には腕の良い演奏者たちの音楽が流れ始める。
それと共に皆が相手を誘って踊り始めた。
(皆、好きな方や気になっている方と踊られて幸せな顔をしてる!)
この空間に居られることが幸せ。
本当にずっと眺めていられる。
幸せな光景を眺めて幸福感を味わっている私に、声を掛けて来た人が。
「リアン公爵令嬢、どうか僕と踊って頂けませんか?」
彼はティオ・グロース公爵。
十九歳という若さにして公爵にまで上り詰めた、努力家で真面目な人だ。
彼は私に縁談を申し込んできた数少ない人で、今までの中で一番断りづらかった。
跪いて手を差し出している彼は、会場の照明に照らされてより一層輝いて見える。
若く、身分も高い彼の婚約者の座を狙っている人も多く、会場はざわつき私に視線がまた集まって来た。
(だから目立ちたくないんだってー!!)
再びカップルを楽しむことが出来なくなってしまった。
それよりも返事を考えなければ。
(今は嫌でも王太子殿下の婚約者だし、他の男性と踊るのはまずいかな?けれど、縁談も断っているし、ダンスまで断ってしまうのはなんだかなぁ)
気が引けてしまうというか。
早く答えを出してあげなければいけないのだが、つい色々と考えてしまう。
すると、突然後ろから肩を抱き寄せられて、背中が誰かの身体に当たった。
「彼女はまだ私とも踊っていない」
その声を聞いて、私は振り返って顔を確認する。
「王太子殿下?!」
「それに、他の男に譲るつもりもない」
一体どうしたのだろうか。
(そんな牽制しなくてもいいのでは?譲るつもりがないなんて…)
グロース公爵は手を下げ立ち上がった。
「そうでしたか。それは失礼しました。リアン公爵令嬢、また機会があれば踊って頂けると嬉しいです」
「はい…」
少し悲し気な顔を浮かべながら、グロース公爵はその場を去って行った。
やっぱりちょっと、そんな悲しい顔を浮かべられると申し訳ない気持ちが。
でも、彼が別の令嬢と踊っているところを見たいというのが、一番強い気持ちだけど。
整った顔立ちで、ファンも多いのに。
どうして私に申し込んで来るのか、考えても分からない。
「で、俺と踊ってくれるな?」
周りに聞こえないように、あえて耳元でそう囁いて来た。
(あ、これ流石に絶対断れないやつだ…)
皆の前で王太子殿下の本性を曝け出してしまいたい!
「…喜んでお受け致します」
そして私たちも、音楽に合わせて踊り出した。
周囲からは先ほどとは違う意味で視線を集めている。
(早く終わらないかなぁ…)
ダンスを踊っている最中は勿論、気に掛けることが多くて周りを見ている余裕なんてない。
視界に少し入るくらいだろうか。
(今が一番癒しを求めてるのに…!)
「ちゃんと踊れたのだな」
「なっ!一応、王太子殿下の婚約者として練習はしてます!!」
さては、馬鹿にされてる?
いつも隅っこでカップルを見てるだけだから、ダンスが下手だとでも?
「上手くも下手でもないな」
「…そうですか」
作り笑顔を浮かべているけど、表情を崩してしまいそう。
王太子殿下って本っ当に性格悪いですよね?絶対!
踊り終わるまでが物凄く長く感じた。
いつもは夜会でラブラブを楽しんでいれば、時間なんてあっという間でもっと続いて欲しいくらいなのに。
今日は早く終わって欲しくて仕方ないかも…。
音楽も終わり、周りからは盛大な拍手が送られる。
よし、逃げよう。
「では、疲れたのでここを離れさせて頂きます」
私は速足でその場を離れ、テラスへと出た。
ここには誰も居ないし、少し暗くてあまり目立たなさそう。
良い場所発見!
さて、今度こそラブラブを堪能…
「踊り終わってすぐに逃げるとは」
その声を聞いて、肩をビクリと跳ねさせる。
「に、逃げてません」
「目が泳いでいるぞ」
今日はどうしてこんなにも邪魔されるの?!
「邪魔されたと思っているだろ」
「思ってません…」
何でこんなに私の心を読むのが上手いの?!怖いんだけど!
もうこれは気にしたら負けだ…。
王太子殿下から視線を外し、私はカップルの方へ目を向けた。
(はぁ~やっぱり普段よりカップルが多くて良いなぁ)
今のうちにたっぷりと癒しを堪能しておこう。
頬が自然と緩んだしまいそうだ。
「そんなに男女が恋に夢中な姿が好きなのか」
「大好きです!!」
私は王太子殿下の問に、顔を見ずに即答すると顎を持たれ、無理やり王太子殿下の方へと向けられた。
「俺にその表情が向くことはないのか」
「ないです」
私はきっぱりと告げた。
というか、顔近いな。
他の令嬢なら顔を赤らめて照れるような場面。この光景、是非第三視点で拝みたい。
「この近さでも表情も顔色も一つも変えないとは…、更に興味が湧くな」
「湧かなくて結構ですが?」
「ははっ、面白い」
(そんな笑わなくても…、面白い返答だったかなぁ)
「そうだ、俺と勝負をしないか?」
「…どのような?」
「絶対にお前を俺に惚れさせてやる。先に惚れた方の負けだ」
私絶対に惚れない自身しかないですけど…、でも惚れられる自身はない。
この勝負、果たして決着が決まることある?
「私絶対に負けないですよ?私にはその勝負を受けるメリットが…」
「俺が負けたら婚約を破棄してやる」
え?!
「それは本当ですか?!」
「あぁ」
「むむ…、分かりました。その勝負受けて立ちます!その代わり、婚約破棄をやっぱりなしだなんて駄目ですからね?」
「約束しよう」
絶対に勝ってやる!
あれ?でも、私が勝つには王太子殿下に惚れてもらわないといけない?
だ、大丈夫かな、この勝負…。
急に不安になって来たかも…。
読んで頂きありがとうございました!
次回は火曜7時となります。