第32話 王太子妃に相応しくない
「それが最適な案だな」
「ですよね!?もっと細かく考えましょう!」
「そうしよう」
私たちは作戦を練るためにこれから作戦に関わりそうな人たちも含めて、恋愛相談を行っていた客間から執務室へと移動した。
とはいっても、どうするのか考えていく主軸は私と王太子殿下であって、他の人たちは聞いてただ実行するだけなのだが。
「まず、あいつは俺とお前を引き離してから俺を狙うはずだ。だが王太子は王宮に居ないから探し回るだろう。それからその間に証拠を見つけないとな」
「そうですね…。私はイアンを連れてグロース公爵家に出向くのがいいと思います。王宮に呼んでから実行を頼むよりも、こちらから向かった方がグロース公爵が王宮に行くまでの時間も有効に使えます」
再度手紙を送り王宮にグロース公爵を呼ぶと、王太子殿下と引き離されることになるならどこに連れて行かれたりするかわからない。
けれど、家に向かえば連れて行かれることはなく、その家に留まれるだろう。
そのあと、主人であるグロース公爵は王宮に向かうのだから、家の中を探し回ることが出来る。
情報も得られるし、決定的な証拠だって見つかるかもしれない。
「それだと俺はイアンのままあいつと顔を合わせることになるが、そこはどうするんだ?」
「街でも気づかれていなかったし、大丈夫だと思いますよ?グロース公爵は絶対にイアンを知らないと思うから、私に前から仕えている秘密の護衛とでも言っておきましょ」
街で貴族たちも二人で歩いているところを見たことがある人たちがいるはずだ。
目撃した人がいるなら疑われにくいし、調べられたとしても大丈夫だろう。
気づかれたとしても時間稼ぎになるし、私と王太子殿下が離れることはない。
「でも…髪と目の色が心配ですね。グロース公爵なら怪しむかもしれません」
「あぁ、それなら何とか出来るから大丈夫だ」
「そうなんですか?なら心配いらないですね」
(被り物でもするのかな…?)
それだと見た人の証言と食い違ってしまうから、さすがにそんなことはしないだろうけど、一体どうやって誤魔化すつもりなのだろうか。
疑問に思うが決行日になればわかることだから今は聞かないでおく。
それから作戦の内容はあっという間に決まり、他の人がどう動くのか王太子殿下が指示していくだけだ。
それらのことは私の出来ることではないため、その様子を見ているだけだった。
(何気にこんな風に仕事してるのを見るのは初めてだな…)
過去に王太子殿下が執務室に居る時に訪れた時も、私が入れば手を止めてしまうのだ。
他の仕事は大抵外で、仕事中を目にすることはほとんどなかった。
すごく真剣な表情で騎士たちと話をしている。
(小説で時々だめだめな王太子が出て来ることもあるけど、王太子殿下はちゃんと仕事が出来る人だよね)
国民からも貴族からも厚く支持されているし、とても立派な王太子だ。
(そんな王太子殿下の婚約者が私って…、周りから見てどうなんだろう?)
今まで勝負のことや恋愛に夢中になってばかりで考えていなかった。
恋愛に興味がないと有名な令嬢が婚約者とは、将来が不安だと批判が多かったりするのでは。
身分的には問題ないけど、後に家門は無くなるし。
内面が王太子妃に相応しくない気がしてしまう。
仕事中に王太子殿下も、何で婚約しようと思ったのか何度も聞かれているかもしれない。
結局婚約を申し込んだ理由は怖くて聞けていないから知らないが、他の人は知っていたりするのだろうか。
そんなことを考えている内に王太子殿下は話を終えて、私の元に戻って来た。
「お前はなかなか頭がいいな」
「頭が悪いわけないじゃないですか。生きて来たなかでどれだけの本を読んでいると思ってるんです?恋愛小説以外にもたくさん読んでるんですよ。だって―」
『―お母様に言われて読んでいたから』
私はそう言おうとしたが口を噤んでしまった。
別にその言葉を言っても変ではないし、何も問題はない。
けれど口に出すことが出来なかった。
(おかしいな…。まだ話す勇気が出ないなんて…)
急に黙ってしまって、王太子殿下が次の言葉を待っている。
不自然にならないように話し出さないと。
「…だって、恋愛小説を理解するのに他の知識も必要ですから?それなりに読んでたといいますか…」
誤魔化しているのは明らかだが、特に何か言われることはないだろう。
「…そうか。頼りになるな」
「そうでしょう?」
今は自然に微笑んでいるが、さきほど取り繕ってしまったからだろうか。
そうか、と答えた時の王太子殿下の表情は曇っていた。
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次回は木曜7時となります。




