第3話 最高の夜会は苦痛の夜会に
あれから二人の関係に何かがあった訳もなく、時は過ぎていく。
そして私に大きな壁。夜会が待ち受けていた。
王太子殿下のパートナーとして出席しなければならない。
「もう本当に嫌だ…」
「欠席は出来ませんし、これは仕方ありませんね」
夜会は大好きだ。けれど、今は本当に嫌すぎる。
「こんなにも夜会に行きたくない日が来るなんて…」
「今までのお嬢様からは想像できません」
今までの私とは、誰とも踊ることなく、ただ端っこの方でカップルの様子を堪能して癒されて過ごしていたことだ。
夜会は貴族がたくさん来ていて、その分街よりも多くのカップルを見ることが出来る素晴らしい催し物。
一生夜会ではそう過ごしていたかったのに…。
王太子殿下の婚約者として参加してしまったら、今までのお茶会で恋話を共にしていた令嬢たちからの怒りをかってしまう!
だって恋話をしている令嬢の中に、王太子殿下に気持ちを寄せている方が大勢いるのに。
その話をいつも楽しく聞かせてもらってたのに、もう皆の恋話を聞けなくなる可能性大。
絶対にそれだけは避けたい。
夜会に向かう準備はヨハナの手により着々と進められ、私は赤いドレスを身に纏っていた。
「これから先も自分の色のドレスしか着ないと思ってたのに…」
これまでのそれを知ってか、夜会があるとエリアスから聞いてからすぐに、赤いドレスを仕立てる準備がはじまった。
仕立て屋が来た際には、王太子殿下の考えに気づき、物凄く腹が立ってその日の夜はかなり不機嫌だったと思う。
「準備が終わりました。頑張って下さいね、応援していますから」
「うん、行って来る」
重い足取りで馬車の所へと向かった。
着いてから真っ先に視界に飛び込んだのは、王太子殿下の恰好。
白い服装に薄緑の宝石があしらわれている。
(ごめんヨハナ、頑張れそうにないかも…)
その姿を見た瞬間、元から低かった気分が更に下がって行く。
「お待たせしました」
「行くぞ」
王太子殿下の手を取り、馬車に乗り込んだ。
正直に言って、馬車の中で二人だけなのは苦痛。
癒しの欠片も無い!
「怒っているな?」
「怒ってます」
「ふっ、正直だな。怒っているとは思っていたが、聞いたら怒ってないと答えるかと思っていたのに」
怒ってると分かってて質問するなんて!
しかも笑ったな?!
(王太子殿下って結構腹黒…)
「何を考えてる?」
「いえ、何も」
危ない、危ない。もう少しで口から言葉が出るところだった。
会場に到着し、王太子殿下にエスコートされながら入って行く。
入れば会場に居る人たちの視線が私たちの方に。
(やめて!見ないで!私がこの光景を見る側になりたかったのに!!)
貴族たちからの婚約を祝福している言葉も聞きたくない。こんな夜会は本当に苦痛でしかないじゃないか!
挨拶を受けていてはカップルの方へ目をやれないし。
私の楽しみ、癒しが遠ざかっていく…。
「俺は少し離れる」
「はい」
(早くどっか行っ…、これ以上は言わないでおこう)
王太子殿下が離れ、私が心配していたことが。
「あなた婚約者になったんですね?」
彼女はレープハフト侯爵令嬢。
私がお茶会で恋話を聞いていた中で、一番王太子殿下への想いが強かったのは彼女。
「…そうですね」
「まさか好きになってしまったとかありませんわよね?」
「無いです!王太子殿下は私に全く会いに来ませんし、私には勿体ないので!」
「あら、会いに来てくれない上に、婚約しているのに愛称で呼んでいないなんて、どうして婚約したのかしら」
(それは私が聞きたい)
「本当に変わって欲しいですよ…。私はあなたが王太子殿下の横で幸せそうに恋している姿も見たかったのに!」
「あなたのその性格は相変わらずですのね…。でしたら、王太子殿下とはもっと距離を取って頂いて、私の入る隙を与えて下さらない?」
「喜んで!!」
私の変わっていない姿に安心したのか、傍を離れて行った。
思ってたほど関係は悪化しなさそうで良かった…。
彼女とお茶会で会った時は、王太子殿下との関係がどれだけ進歩しなかったのかという話でやり過ごそう。
読んで頂きありがとうございました!
次回は日曜7時となります。




