第25話 カイトの本心
彼女と出会ったのは、不審な男が居ると聞き街に潜入した時だ。
カフェで待ち伏せしていたら、一人の令嬢が言っていたことが耳に入って来た。
『王太子殿下が愛する女性に向ける言葉とか視線を眺めているのとか最高に癒される気しかしない』
そう言っていた彼女を見つけてからが全ての始まりだった。
これまでどんな令嬢に一切、興味も関心もないほどだというのに、彼女のことがあれからずっと気になってしまった。
一目惚れしたわけではない。俺が恋愛をしているところを見るのが癒されるという言葉も理解は出来ないし、ただ気になる、それだけの感情だった。
そろそろ婚約者をはっきり決めないと周りはうるさく、それなら生きて来た中で唯一気になった彼女を婚約者にしようと考えた。
恋愛も婚約もしたくないと言っていたのも知っていたから、彼女には散々嫌われるだろう。
そう思っていたが、俺に恋人が居るのではないか、側室を作る気なのではないかと考えて、やっぱり俺が恋愛している様子を楽しもうとしていると察した。
夜会ではあの男にダンスに誘われて、しかも仕方なく踊ろうと考えていそうな彼女を見て、間に入ってしまうし、初めに挨拶を交わした日から彼女はずっと仮面を被っているように愛想笑いばかりで、その仮面を外したくなって勝負まで仕掛けてしまった。
明らかに自分が不利だということもわかっているし、惚れさせる絶対な自身があるわけでもなかったのだが。
例え婚約を破棄することになっても、この勝負をしていた期間は良い思い出になる。
忙しい中ようやく時間を見つけることができ、急だったがデートではいいものが見られた。
彼女が本当に恋愛の様子を見るのが好きなんだと伝わって、本当に恋愛も婚約もせずに一生そうして生きていたいという彼女の願いの妨げになってしまったことに、罪悪感が湧き始めていた。
けれど、次は俺の行きたいところに行こうと、どこに行きたいと聞いて来た彼女の本当の笑顔を見た時は嬉しい気持ちで満たされていた。
ようやく彼女の仮面が剥がれたと、罪悪感は増していきながらもここから日々は充実していった。
(帰りの馬車の近距離でも、顔色一つ変えなかったのは少しショックだったがな…)
このデートのことがあってから自分が段々とおかしくなっているのは実感していた。
俺が仕事を終えて執務室に戻って来た時部屋をうろうろしていて、俺が帰って来たのを知ってから表情は次々変わっていくし、窓から逃げようとするし、反応が面白くてつい意地悪してしまう。
触れるつもりはなかったのに、恥ずかしがって頬を赤く染めている彼女を見て我慢出来ずにキスをしてしまったのは後で後悔した。
あの時の唇の感触が、熱が忘れられない。
それから早く仕事が終わった時に彼女と過ごそうと思っていたのに、庭に居ると聞いて行って見れば仲良さげに愛称で呼び合い、楽しそうにしている彼女を見てしまい立ち尽くし、呆然とその姿を見つめることしか出来なかった。
部屋に戻ってから気を紛らわせようと急ぎではない仕事に手をつけるも、全然集中出来ず一向に進まない。
しまいには、楽しかったと語る彼女に冷たい物言いをしてしまった。
もう気になるどころの感情じゃないことなど、とっくに気づいている。
だが、もうこの勝負を終わらせるのは惜しい。
婚約期間が終わる時に負けを告げたっていいのではないかと思う自分がいた。
幸いにも彼女は自分の方が負けていると思っていたようだし、もしかしたらこのまま順調に行けば両想いで結婚出来るかもしれないと、淡い期待まで抱いてしまう。
本当は前から俺の方が負けていたと知ったら、今度こそ彼女は俺を嫌うだろう。
そうなったら彼女と話すことも、会うことも出来なくなる。
今、負けを認めたら、そんな関係にまでなることはないはずだ。
それでもまだ彼女と居たいと思ってしまう自分勝手な俺をどうか許してほしい。
読んで頂きありがとうございました!
時系列はエアの実家に行く前までの話です。
もうカイトはこんな感情ですから、グロース公爵に対して相当怒っていることが容易に想像できますね^^
カイトの負けは決まっていますが、まだまだ二人の勝負は続きます。
次回は火曜7時となります。




