第21話 たまにはこういうのも悪くない
朝が早い時間のため、あまり音を立てないように扉を軽く叩いて中に入った。
「おはようございます、王太子殿下」
「おはよう。どうした?」
こんな時間に私が訪ねて来るなど思いもしなかっただろう。
姿が見えた時には驚いた表情をしていた。
けれど何かあったことを悟った様子。
「グロース公爵とのことで思い出したことがあって、それで予想にはなるんですけど…」
私は椅子に腰を下ろしながら話を続けた。
「私と結婚したいのはグロース公爵家を大きくしたいのかな、と。リアン家には跡継ぎが居ないでしょう?本来なら私が結婚した相手が跡を継ぎますから…」
王太子殿下は考え始めた。
その時、私は別のことを考えていた。
まだそれほど日が昇っておらず少し暗いが、王太子殿下は執務室で公務をしている。
忙しいとは知っているけど、ここまで忙しいものなのだろうか。
(そういえば王太子殿下がどんな仕事をしてるか知らないなぁ…。ここまで根詰めてると身体とか心配になる気がしなくはないけど…)
座っている位置から、王太子殿下の机の上にどんな書類があるのかわからないが、難しいことがたくさん書いてあるのだろうと関心しながら見つめていた。
「そうだな…。その可能性はある。それで王家を狙っているかもしれないということだろう?」
「はい。そう考えてます」
「グロース公爵については詳しく調べ、鎌をかけてみる。それからお前は極力部屋から出ないでくれ。またグロース公爵が王宮に来ることがあるだろうからな」
「そうします」
外へ出られないことは残念に思うが、グロース公爵に会ってしまう方がよっぽど嫌だ。
幸い、王宮暮らしになってからあまり外に出ないことには慣れてきているし、数週間ずっと部屋の中だけで過ごす訳ではないだろう。
夜は王太子殿下と食事をとるし、王太子殿下が居るなら外へ出ることも出来るはず。
「これから外へ出られるんですか?」
「ああ。…寂しいのか?」
「違います!朝が早いんだなぁと思って。忙しい中訪ねてしまいましたし…」
早く伝えなければとすぐに執務室向かったけれど、仕事の邪魔をしてしまったかもしれないと少し気になっていた。
一緒に食事をとる時でもよかったかもしれない。
「気にすることはない。お前の身に関わることだ。俺のことは気にせず思い出したらいつでも訪ねて来てくれ」
「…基本的に王宮に居ないじゃないですか」
「今度は拗ねてるのか?」
「拗ねてません!」
私が申し訳ないと思う気持ちを悟ってほぐしてくれたのか、いつも通りの会話に戻っている。
(いつもいつも、こういう時だけ感情を読むのやめて欲しい…)
顔が少し赤くなっているような気がするが、これはきっと気のせいだ。
そういうことにしておこう。
「門まで見送ります」
「珍しいな。今日は雨でも降りそうだ」
「失礼な!せっかく起きているから見送ろうと思っただけです!要らないなら部屋に戻りますけど?」
「いや、お願いする」
王太子殿下は何だか嬉しそうだ。
やっぱりもう好かれているとか?
けど勝負の話はして来ない。
ならいつも朝が早くて見送ってくれる人が居ないから嬉しいのだろうか。
「では、いってらっしゃい!」
「見送られるのは悪くないな。これから毎日見送ってくれたりはしないのか?」
「朝早くに起きたくないです」
「ははっ…そうか」
起きてから時間がしばらく経って、太陽が昇って来て明るくなってきていた。
「あぁそうだ、大事なことを忘れていた」
「何ですか?」
「そんな恰好で俺の部屋に来るのは最後にするんだな。何をされても文句は言えないぞ」
「なっ?!もういいから早く行って下さい!遅れますよ!」
「行って来る」
「…いってらっしゃい」
王太子殿下は馬車に乗り込み、どこかへ向かって行った。
(なんか見送りに来て損した気分!言い出したのは私だけど…)
動揺させられてばっかりで負けているような気がしてならない。
どうにか王太子殿下を動揺させれる方法はないだろうか。
これはシュリヒトに相談しても良い答えは出なさそうだし。
(でも確かにこの恰好はまずかったかもしれない…)
下を向いて、改めて自分の恰好をよく見た。
起きて着替えていないため寝間着のままだ。
生地は薄いし、ドレスと違って身体の輪郭もわかりやすい。
キスをされたことだってあるのに、この恰好のままで行ったのは軽率だった。
何もされなくて本当によかったと安堵する。
その分散々意地悪なことを言われたような。
けどそれが、これ以上手を出さないように抑制した結果なのかもしれない。
(まあ、たまには見送ってあげてもいいかな?嬉しそうだったし)
そう思いながら私は自分の部屋へと戻って行った。
読んで頂きありがとうございました!
次回は日曜7時となります。




