第20話 グロース公爵との出会い
幼い頃のある日、母に言われて令嬢のお茶会に仕方なく参加していた。
幼い子らが集まるお茶会であったが、規模が小さく警備が手薄で抜け出すのは容易いことで私はお茶会から逃げ出した。
会場から離れた木陰で大好きな小説を読んで、お茶会が終わるのを待つ。
これが昔の私のお茶会での過ごし方。
けれどこの日は変わったことが。
「何を読んでるの?」
一人の男の子が話しかけて来たのだ。
離れたところに居るのに、何故ここにいるのか。
立ち去る姿を見て後をつけて来たのか、当時は不思議に思っていた。
「恋愛小説を読んでるの。あなたは恋愛に興味ある?」
質問に答えて、昔も恋をしている人たちを見ているのが好きだったため、男の子に恋愛に興味があるのか聞いてみた。
もちろん、興味があるなら男の子が恋愛している姿を見たいから。
「うん!興味あるよ!」
答えが返って来て嬉しかったのか、男の子は笑顔でそう答えた。
でも私はその返答に嬉しい気持ちを抱かなかった。
確かに望んでいた答えだったはずだ。
それでも、素直に喜べなかったのには理由がある。
「どうせあなたも恋愛がしたいんでしょ?将来好きな人と一生を添い遂げることを望む」
「そうだよ。君は違うの?」
「…私は違う。恋愛も結婚もしたくないから」
私は言い残してその場を去った。
これ以上男の子と話しているのは辛いから。
(私が結婚したい人はこの世に居る訳ない…)
男の子の返答で気付いてしまった。
私と恋愛に興味があるの方向性が違うことに。
大抵の人が自分と違う方向で考えていることなんてわかっている。
自分が恋をするんじゃなくて、ただ見ていたい人が少ないことなど、まだ十数年も生きていないのに呆れるほど実感していた。
(どうしても結婚しなくちゃいけないのなら、私の趣味に何も言わなくて私をほっといてくれる人…)
悲し気な表情で、私の後ろ姿を見ていた男の子は紺色の髪に橙色の瞳。
その色の持ち主は。
「はっ!!思い出した!」
私は夢から醒め、目を開けてすぐに体を起こした。
ついさっきまで寝ていたのに頭が働いている。
「あの男の子はグロース公爵だ!」
昨日のことを考えながら寝たせいか、夢にまで影響してしまったようだ。
けれど、思い出せていなかったことを夢で見れたのは幸運だった。
(やっぱり離れたところに居た私話しかけて来たのはおかしい…。初対面で顔も名前も知らなかったから)
考えられるとしたら、誰かに話して来るように言われたのかもしれない。
(じゃあ誰に?)
そもそも私に話しかけて仲良くなったとして得られることはあるのか。
あの頃といえば、グロース公爵は今のグロース公爵の父親が務めていたはずだ。
(前グロース公爵の得になりそうなこと…)
貴族が結婚するのは家門のため。
グロース公爵家が大きくなるのに必要な相手は『公爵家』。
私はリアン『公爵』令嬢。
しかも、私には兄弟が居ない。
それはリアン家を引き継げる者が居ないことを意味する。
リアン家を残すには私が身分の高い相手と結婚する他ない。
でもお父様は私の意思を尊重してくれていて、だからお父様の代で終わることはある程度決まっていた。
このことが逆にグロース公爵家にとって得かもしれない。
リアン家を引き継ぐ者が居ないなら、グロース公爵が掌握出来る。
しかも公爵家同士の結婚だ。
かなり大きな家門になるだろう。
貴族の中で頂点に立てると言える。
王太子や国王は何かしら影響を受けるだろう。
なんなら王室の座を狙うなんてことも…。
「これは王太子殿下に報告しないと…!」
仮定の話にしても、辻褄が合うため話していて損はないはずだ。
まだ朝早い時間。
きっと王太子殿下も公務に出て居ない。
軽く身だしなみを整えて執務室に向かうことにした。
(そういえば、昔に考えていた理想の相手は私の趣味に何も言わない人でほっといてくれる人だったなー、…ん?)
夢を思い返していて、私は歩いていた足を止めた。
(趣味に何も言わないでほっといてくれる人?)
そんな人が居ないと昔は思っていたが、今確実に思い浮かぶ人物が一人。
(私の癒しに付き合ってくれて、趣味に何も言わないし…。放置されたりしているような…)
気づきたくなかった事実。
こんなことまで夢に見なくてよかったのに。
(いやいや…勝負してるし、どこに出かけてもついて来るし、最近はそんな放置されてないし!)
昔の理想だし、今は違う…と思いたい。
理想だなんて絶対に認めない。
(意地悪な人は理想じゃない…!)
私は執務室に向かいながら猛烈に頭を悩ますのだった。
読んで頂きありがとうございました!
次回は木曜7時となります。




