第2話 私はお飾り妃?
婚約の申し込みを受けてからというもの、手続きはあっという間に進んで行ってしまい、王太子殿下の住む王宮にこれから私も住むことになる。
実家からの荷物を持って王宮を訪れた今日が、婚約者となってから初めての顔合わせ。
「嫌だ…帰りたい」
「もう後戻りは出来ません。ですが、私もお嬢様の目的が叶えられるように、精一杯お手伝いさせて頂きますから頑張りましょう」
「ヨハナー!!」
嬉しくてヨハナに抱き着くも、馬車の中では危ないと注意されてしまった。
そんなこんなで王宮に辿り着いてしまい、気持ちが思い切り下がる。
(本当に婚約破棄を出来るように頑張るしかないのね…)
「よし!頑張るぞー!」
気合を入れて暗い顔をしないように作り笑顔を浮かべ、杏色の髪をなびかせながら王宮の中へと入って行く。
中では一人の使用人が出迎えてくれた。
「初めまして。私は坊ちゃまの執事をしています、エリアスです。坊ちゃまの居る執務室へご案内致します」
「よろしくお願いします」
エリアスさんとは軽く挨拶を済ませ、言われた通りに案内を受ける。
ここに来るまでもそうだったけど、顔合わせに向かっている今が一番憂鬱だ。
悟られないように顔に出さないが、私は心の中でマイナスの言葉しか吐いてない。
「こちらになります。坊ちゃま、婚約者様がいらっしゃいました」
「あぁ」
エリアスは扉を軽く叩いて言葉を掛け、中からは王太子殿下の低い声が聞こえた。
入るとすぐに王太子殿下の前の席へと促され、流れるように座る。
綺麗な赤髪で、瞳は青緑と紫の混じった色になっていてまるで海のようだ。
「ちゃんとお話をするのは初めてですね。私はエーアリヒ・リアンと申します」
「俺は知っての通り、アインザームカイト・ワーレンだ」
彼の名前は長い為、基本的に王太子殿下と呼ばれている。彼に許された者だけが、愛称でカイトと呼ぶことが出来る。
よろしくお願いしますと、簡単な挨拶と顔合わせだけで終わった。
いや、これ顔合わせ別に要らないでしょ!
ただ挨拶しただけ!
執務室の滞在時間、一分程である。
自分の部屋へ案内されている間も、私は不満な気持ちを心の中でたくさん並べていた。
その顔合わせから数日が経つも、王太子殿下が会いに来たりすることはない。
申し込んできたくせに放置とは、一体どういうつもりなのか。
まぁ、それはむしろとてもありがたいけども。
そこで私はある可能性を考えていた。
王太子殿下はもう心に決めた人が居て、けれどお相手の身分的に正妃にするのが難しい。
そこで恋愛も婚約もしないと謳っている私を正妃し、愛する人を側室とか愛妾に迎えようとしているのではないかと!
つまり私はお飾りの妃という立場を求められているのでは?
こんなに婚約者に会いに来ないんだし。
けど、私の仮定があっているとするならば、私にはとっても好都合!
だって、王太子殿下とそのお相手がラブラブな所を傍で見ることが出来る!!
幸せな未来を想像して、私は薄緑色の目を輝かせていた。
「ヨハナ!私の仮定通りならこの婚約も悪くないかも」
「でしたらそうなると良いですね」
今度王太子殿下と話す機会があったら聞いてみよう。
そう決めてから、ついにその機会が来た。
王宮の廊下でたまたま王太子殿下と出会ったのだ。
「ごきげんよう、王太子殿下。お久しぶりですね、さぞ忙しくされているようでお疲れ様です」
婚約を申し込んできたことには恨んでいるので、作り笑いで皮肉たっぷりに挨拶をした。
「顔は俺のことを労っているように見えて、内心では別のことを言っているよう気がするが?」
「気のせいです」
本当は王太子殿下のおっしゃる通りですけど。
去って行くのかと思いきや、振り返ってとある言葉を言ってきた。
「そういえば、勘違いしてそうだから言っておくが、俺はお前以外に誰も娶るつもりはない。側室などは作らないし、恋人も居ない」
「そうなんですね、それは安心ですね」
嘘でしょ…。嘘だと言ってー!!
私の考えていることを完全に分かってて、わざわざ振り返って言ったでしょ!
自室に戻った私は、ベットの上で意気消沈していた。
「お嬢様…、大丈夫ですか?」
「うぅ…、私の幸せな未来が…」
「他に理由があるかもしれません。でないと、お嬢様にこんなに会いに来ないのはおかしいです」
「そうね…まだ婚約を申し込んできた理由を暴けていないから、何か良い案を考えてみる」
「その意気ですよ」
読んで頂きありがとうございました!
次回は木曜7時になります。




