第11話 絶対に好きじゃない
(み、見られたー!!)
思っていたよりも王太子殿下が早く帰って来たことに焦り、何か言い訳を考えなければと思うのに思いつかない。
でも、まだ弁明の余地はあるはずだ。
「…王太子殿下にお話があって来たんですけど、居なかったら暇つぶししてたんです!」
「漁ることが暇つぶし…」
「なっ!漁ってません!観察してただけです」
「観察してたんだな」
「うぅ…」
これは墓穴を掘ってしまったし、恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそうだ。
ならば開き直るしかない。
王太子殿下はこの状況を面白がっている様子で、怒っているような感じはしない。
「私に見られて困るものもないでしょう?」
「そうだな。"俺は"困らない」
「え?どういうことですか?」
私は王太子殿下の言っていることがわからなかった。
実際、この国の機密情報でもあったら私でも見られたら困るはずだ。
(それを王太子殿下は困らないとわざわざ強調してまで…)
「知ってしまったのなら、婚約破棄したとしてもここから出す訳にはいかないな」
王太子殿下の言葉によって思考が停止したが我に返り、事の重大さに気づき思わず叫んでしまう。
「―わぁあああ!!私は机の引き出しとか開けてないので機密情報なんて知りません!見たことも口外しないですからぁ!!」
つまりどういうことかというと、例え私が王太子殿下を惚れさせることが出来たとして婚約破棄しても、ずっと王宮に閉じ込められたままか、一生監視の目がある中で生活しなければならないということだ。
(そんなことあってはいけない…!)
今すぐこの場から逃げたいと思うも、唯一の出口は王太子殿下が塞いでいる扉だけ。
こうなったらもう方法は一つしかない。
(ここは二階だから窓から出られる!幸い下には低木があるしどうにかなるよね?)
あまりにも動揺しすぎて冷静さを失いパニック状態だ。
思考が正常ではない。
「う、うわあぁああ!」
「っおい!」
走って窓に向かうも王太子殿下に行動を予測され、窓に辿り着く前に両腕を掴まれ作戦は失敗に終わった。
腕を掴まれたまま、両手で恥ずかし過ぎて真っ赤になっているであろう顔を覆う。
しかしそれもすぐに剝がされてしまって、とても綺麗な海色の瞳で真っすぐ見つめられる。
「俺から逃げるな」
真剣で切実な言葉と表情に、私の鼓動が速くなっていく。
「大体、話があるから来たんだろ」
「もう話すことなんてないです…」
観察していたところを見られる、墓穴を掘る、逃げるのに失敗する、さすがに意気消沈しきって俯かずにはいられない。
(終わった…完全に終わった…)
「ふっ…冗談だ。約束通り婚約破棄したらお前に関わったりしない」
「本当ですか?!閉じ込めたりしな―」
再確認しようと顔をあげようとした私に落ちてきたのは優しいキス。
「な、なにするんですか!?」
「ん?これまでと反応が違うな。俺に惚れたりでもしたか?」
「惚れてません!!」
意地悪そうに笑う王太子殿下を見てもう色々耐えきれず、隙を見てちゃんと扉から出て行った。
廊下を走っていた時にお茶を持っていたエリアスと会うもそのまま通り過ぎ、自分の部屋に戻ってベッドにダイブする。
「お嬢様?どうされたんです?お話は出来ましたか?」
「今は何も聞かないで!あんなやつもう知らない!!」
「…わかりました。何かあったら呼んで下さい」
気持ちを察したヨハナは静かに部屋を出て行った。
(なんなの!?どこまで意地悪なのよ!!)
鼓動の速さが治まらないのをさっき走ったせいだとか、恥ずかしいせいだと自分に言い聞かせる。
(絶対好きじゃない!)
けれど、鼓動も顔の火照りも治まるまでしばらく掛かってしまった。
読んで頂きありがとうございました!
次回は木曜7時となります。




