外伝30話 デートの準備
次の日の夜には溜まりかけていた仕事を片付け終わり、少しの休憩時間にデートの行く先について考える。
(もうすぐ街で祭りがあるが…)
カイトがグロース公爵の一件が終わってからしていた仕事というのが、まさに祭りに関する仕事だ。
騎士を配置する位置を考えたり、危険な場所がないかあらかじめ確認するなど。
今までは相手が居なかったため、カイトも警備にあたっていた。
しかし祭りは彼女とのデートに相応しいだろう。
だから今回は警備にあたらず、その代わり警備を強化する方針だ。
(祭りならカップルが見られるから彼女は喜ぶだろうな)
いい行き先を考えついたものの、それからどうするのか。
祭りに行くことだけ決めて、着いてからは彼女に任せるのはどうも違う気がするのだ。
カップルが多い所に行くなら彼女に任せるべきだが、カイトは街のどこにどんな店があるか把握している。
途中で何か買うかもしれないことを考えて、道順も考えておかなければ。
(彼女が喜ぶもの…)
街で食べられるものの中で彼女が好きなものがわからないし、ドレスも装飾品も喜ばない彼女に、一体何を渡せばいいのか。
本当にこればっかりはレイにも考えてもらうしかなさそうだ。
「彼女と今度のデートで祭りに行こうと思うのだが、どう思う?」
「お、いいですね!それはとてもいい判断だと思います」
「それからどうするのかなんだが…」
「そうですね…」
デートの行く先を考えただけで褒められるとは、余程レイにも期待されていなかったのかと思ってしまう。
それは、レイがデートの行く先まで助言する可能性を考えていたようにしか見えない反応をしたからだ。
「まず、今回は騎士の格好ではいけませんね」
「確かにそうだな」
イアンとして行くつもりになっていたが、言われてみれば騎士が街の警備にあたっているのに、一人だけ令嬢とデートしていたら明らかにおかしい。
「ならレイの私服を借りていいか?」
「構いませんが、今から作っても間に合うと思いますよ?」
「借りれるなら借りた方がいいだろう」
「まぁ、そうですね」
作るにしてもカイトが着るとなったら、結局いい素材で作られてしまいそうだから、レイから借りた方が街に馴染むはず。
それに彼女もドレスではなく街に馴染む格好をすることになるから、彼女の分を作ることを考えれば間に合わないかもしれない。
彼女が侍女の服を借りると考えれば、カイトだけ新品なのも怪しまれるため、どちらも既に着られているものがいいだろう。
「それから街を歩く時に手を繋がれてはいかがですか?身分を隠すため馬車に乗らず街まで歩いた方がいいですし、人が多いことを考えてはぐれてしまわないためにも、手を繋ぐのはいいと思います」
「なるほど、それはいいな」
手を繋ぐなら、彼女も少しくらい意識してくれるかもしれない。
しかし全く反応がなければ、それはそれですごく悲しくなる気がするが。
「後はエーアリヒ様にお任せしていいと思います」
「なぜだ?」
「これまでのデートの話を聞いた感じだと、エーアリヒ様はカイトがどこに行きたいか言わない限り、自分の行きたい所へ一直線に向かう気がしますから」
確かに一度目は始め、彼女の行きたい所に連れ回されたし、二度目は彼女に言われ草むらに隠れたり、本屋に行った。
彼女は最初からどこに行きたくて、何をしたいかはっきり言う人だ。
だからレイの言う通りに、歩いている最中で気になるものがあれば彼女はカイトを引っ張ってそこへ向かうだろう。
「となると、後は彼女に何を渡すのかだな…」
「彼女に何か贈るつもりなんですね」
「そうなんだが、何を渡せばいいのか本当に考えつかないんだ」
カイトにとって何よりも難しい問題だ。
それにレイも女性に品を贈る経験がないかもしれないことを考えると、当日になっても決まらない可能性が。
ティオに言われた言葉で傷ついていたからその励ましと、お疲れ様という気持ちも込めて、絶対に何か渡したい。
「事前に何をあげるか決める必要はないんじゃないですか?」
「デート中に決めるってことか?」
「はい。実際に自分の目で色々な品を見て、彼女に贈りたいと思えたものを渡せばいいと思います。カイトの色を身に纏わせるよりも、カイトがエーアリヒ様にいいと思って渡されたものなら、必ず喜ばれると思うので」
「それは思いつかなかった…」
レイも恋愛経験がないはずなのに、ここまでいい回答をされると実は恋愛しているのかと疑ってしまう。
(…彼女に贈りたいと思えるものが見つかるか不安な気持ちもあるが)
それでも今のカイトには彼女を愛する気持ちがある。
だからたくさんある品の中で、彼女にはこれだというものが見つけられる気がした。
「レイが居てくれて本当に助かる。ありがとな」
「力になれて良かったです」
「レイは恋愛しないのか?俺は実は相手が居るんじゃないかと疑いの気持ちが芽生えているが」
やっぱりレイが恋愛に詳しいのが気になって聞くことにした。
しかし、返ってきたのは意外な言葉で。
「カイトよりも先に幸せになるつもりはないので居ないですよ。今のところ恋愛をして愛する人と歩むよりも、カイトとこの国を良くするために働くことが僕の生きる道ですから」
ここまで主君を想う忠実な部下はそう居ない。
なんだかんだカイトは周りの人に恵まれている。
彼女もレイも王宮に住まう者も、そして国民も、全てカイトの大切なもので守らなければいけないもの。
(まだまだ精進しないとな)
休憩を終え、カイトはより一層仕事に励み始めた。
読んで頂きありがとうございました!
次回は火曜7時となります。




