第10話 こんなはずでは…
「はあぁぁ~やっぱり恋話聞けるのって最高…!!」
気を引き締めなければ頬が緩んできてしまう。
それほどまで満円な笑みを浮かべている。
「お嬢様のアドバイスで大丈夫でしょうか…」
「大丈夫!私は恋愛博士と言っても過言ではない!」
「ご自分は恋愛をしたことがないと言うのに…」
「うっ…」
(大丈夫…、絶対大丈夫…なはず)
ヨハナからの言葉に自分が言ったアドバイスで本当に大丈夫か心配になってきたため、椅子に座り直し改めて今までことを深く考えてみた。
(私の予想では二人は両想いだと思うんだよね)
その理由は、お茶会で私が恋話を聞いて回ったり語っている時に、ファインはこちらを気に掛けているようだった。
このことから、ファインは恋愛に興味があるのか、または恋をしているのかもしれないと思ったのだ。
王太子殿下の婚約者になる前にあったお茶会の出来事。
だからわりと最近の話で、シュリヒトがアピールをしていた時期と重なっている。
(私に相談したかったのかもしれないけど、他に令嬢がいるお茶会では聞けないよね…。私から聞いておくんだった…)
後悔してもしょうがない。
二人のためにもこれから先は後悔を作ってしまわないように頑張らなければ。
「あ、そういえば今回のこと王太子殿下に話しておいた方がいいよね?」
「是非そうして下さい。本来ならば約束をする前に話しておくべきなのですよ」
「ごめん…」
確かに嬉しすぎて忘れていたので、本当に申し訳ない。
よく考えなくても二人きりでないとはいえ、婚約者のいる身が相手の居ない男性と何も相談なしに会うのはまずかった。
(怒られるかな…。それとも意地悪なことを言われるのだろうか…)
自業自得なんだけども気が進まない。
「じゃあ行って来ます…」
「いってらっしゃいませ。しっかりとお話してきて下さいね」
「う、うん」
私は部屋を出て行き、王太子殿下の執務室へと向かった。
執務室に行くのは挨拶以来で、ちょっと緊張する。
軽く扉を叩いて中に入った。
「失礼します」
「おや、エーアリヒ様。どうかされましたでしょうか?」
「エリアスさん!王太子殿下はいらっしゃいますか?」
周りを見渡してみるものの、執務室にはエリアスしか居ない様子だ。
「坊ちゃまは外へ公務に出られていて不在でございます」
「そう…ですか」
そういえば昼間は忙しくて居ないと言っていたことを思い出した。
(疑ってた訳じゃないけど、本当に忙しいんだな)
居なくてちょっと安心したと言ったらヨハナに怒られそうだ。
しかし、しっかり話してくるようにと、すぐに話を切り上げるつもりだった私は釘をさされたにも関わらず、居ないのなら一言も話せないではないか。
このまま部屋に戻る訳にはいかない…、が。
「どうしよう…」
「坊ちゃまはもうすぐお帰りになさりますよ」
そう迷っていた私を見計らって優しく声を掛けてくれた。
「じゃあここで待っていても大丈夫ですか?」
「はい。お茶をお持ちしましょう」
「ありがとうございます」
エリアスは部屋を出て、執務室には私一人。
(ずっと座っているのも退屈だし、ちょっと観察しちゃおうかな…。新たな発見があるかもだし?)
執務室自体はすごくシンプルで、王太子の執務室とは思えない。
それにとても綺麗にしてある。
(これは王太子殿下が綺麗にしているのか…、エリアスさんが綺麗にしているのか…)
きっとどちらもだろう。
だって、王太子殿下が毎日使うであろうこの机。
傷も汚れも一つもない。
汚れがないのはわかるが、傷が一つもないとはむしろ怖い。
「本棚とかも難しい本ばっかりね…。ロマンス小説があったら面白かったのに」
それからも部屋の中を見回って少ししてから、扉が開く音を聞いて振り返った。
「エリアスさ…」
エリアスだと思い声を掛けようとしたが、視界に入って来たのは王太子殿下。
「げっ!」
「ここで何をしているんだ」
「えぇ~っと…、これは…その…」
王太子殿下に怪訝そうに見つめられながら、沈黙が続いた。
読んで頂きありがとうございました!
次回は火曜7時となります。




