2話し合いの果てに
話し合いの果てに
では、お話し致します!
と重大な話しを始めようとはしたものの
彼ら4人は一階奥のバーカウンターの様になっているスペースに飾られたポールゴーギャンの絵画について話し始めてしまっており、絹子の声は虚しく空に溶けていく。
漫画じゃないんだからと絹子は思いつつも、まあいつもの光景なのでそちらの会話に参加する事とした。
結子がゴーギャンの絵画に対し
「相変わらず何度みてもいまいちピンとこないわ」
と腕組みしながら言うと
「待ちなさい」とアルト声が響く、
ハグリッドが
「ポールゴーギャン晩年の集大成、我々はどこからきたのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか
このタイトル、アートというもの自体を集約している事がわからんかね」
結子は難しい顔をしながら、んーと唸る。
すると明智くんが悪びれず、真顔で
「結子さんはモネ大好き人間ですもんね」
と言うと
結子が顔をしかめて
「あー、明智くん、それちょっと馬鹿にしてない?いいじゃん、なに」
明智くんがオーバーに手を広げ
「いえいえ、落ち着いて下さい。僕は決して馬鹿にはしていませんよ。ただ、芸術に関わる人間にしては、モネにだけ注力しすぎなのではと思ったまでですよ」
ハグリッドも大きくうなずく、大きくうなずきすぎて地震が起きそうだ。
「ちょっと待って。はい、はいはいはーい」
結子が手を上げる
絹子がいちお、
「はい結子さん」と促す
「クロードモネは印象派の巨匠よ
日常のなかでも睡蓮の一連の作品を代表する様に、最も絵画を目にする機会の多い画家よ、皆、世間一般的にもアートの世界に入る入口がモネだったって人はたくさんいるはずよ、そしてもっと言わせてもらいますけど、アートはモネに始まりモネに終わる、これね、はい纏まったわ」
「結子さん、それは待って下さい」
ここまで黙ってにこやかに聞いていただけの広末がもの申す
「結子さん、モネに始まる、まではよく理解できます、私もまさにそうでした、ですが、終わりは違います、終わりは王子です。アートは王子に帰着します」
一同迫力におされ少々沈黙
明智くんが感心して
「広末さんのセガンティーニ熱はさすがにすごいと思いますね」
そう、広末が言う王子とはセガンティーニの事であり、彼女はずっと王子と呼んでいる。
絹子は彼らのやりとりを微笑ましくみている
ハグリッドが
「たしかにね、モネに始まりセガンティーニで終わる、か、渋くていいな」
すると明智くんが、
「いえ、それならモネに始まりゴーギャンかゴッホで終わる、ではないでしょうか、エドガードガもありですが」
「なるほど」ハグリッドは納得する
結子は
「んー、まあゴッホならありかな」
広末も
「王子以外だとするなら。たしかに」
これには絹子も
「ゴッホかもしれないですね」
するとハグリッドが
「ときに、ゴッホ、ゴーギャンと言えば、先週議論した耳切り事件の決着がついてなかったな」
結子が
「だからね!耳を切ったりしちゃうのがだめなのよ、アートと関係ないじゃない」
明智くんがすかさず言う
「ですが、あの耳切り事件は大変興味深いんですよね、出ていったゴーギャンに対しての意思表示なのでしょうが、その後にその耳を送りつけたところに何か真実に繋がる意味がある様な気がして」
と、いよいよ盛り上がりというか、深い谷底に向かっていくというか、これはとめないとゆうに数時間は終わらない事を確信して、絹子が声を上げる
「あの、ストップ!ストップです!
ゴッホの耳も大変興味深くはありますが、ストップして下さい」
皆一様に絹子に注目する
絹子、ホッとして
「今日は皆さんに提案したい事があって集まってもらったんです、話しますよ」
第2話 話し合いの果てに 完
第3話 始まりのファンファーレ へ続く
自由人達の終わらないアート議論
絹子の提案とはいかに、願いは叶うのか