未来が見える俺と見えないカノジョ
皆さんこんにちは!抹茶風レモンティーです!
覗いて頂きありがとうございます!楽しんで頂けたら幸いです!
あなたは未来が見えるようになったらどう思うだろうか?
自分の人生の終着点が見えたら何を思うだろうか?
答えは人それぞれだろうが俺の場合は只一つ。
「あー、暇だ」
俺はそう呟いた。
俺には他の人にはない不思議な力がある。それは未来が見えるという力だ。自分や他人が死ぬ少し前までの未来を正確に知ることが出来る。
ある人がどのような人生を辿って死ぬのか、その全てを見る事が出来てしまう。
例え俺がその未来と違う事をしようとしても、ナニカによって決められた道筋に戻る。
例えば俺の人生はこの後、"史上最高の天才ドクター"と呼ばれて多くの命を救うらしい。
これだけ見れば人生勝ち組にしか見えないが最初から全てが分かっている人生なんて暇で暇で仕方がない。
将来学ぶ知識だって見たからもう今すぐにでも大学に合格出来る自信すらある。
まぁ、そもそも試験問題が分かっているから落ちる訳がないのだけれども。
っと、そろそろ友人が話しかけてくるから思考を中断しよう。
「なぁ、知ってるか黄昏!今日転校生が来るらしいぞ!女の子だったら良いなぁ!」
ちなみに"黄昏"というのは俺のあだ名だ。暇すぎて窓際から空ばっかり眺めていたらいつの間にかそう呼ばれてた。…解せぬ。
…いやむしろそう呼ばれるのが分かってたのに窓の外ばっか眺めてたんだから本心ではそう呼ばれたかったのかもな!
「ほーん。転校生ねぇ」
「なんだよ、興味ないのか?まぁ、あの黄昏だから仕方がないかぁ」
…そもそも転校生なんて居ないんだよなぁ。
そんな都合良く転校生が来るなんて小説の中だけってことをそろそろ学ぶべきだと思うぞ。
「興味ねぇ。本当にいるんなら興味しかないぞ」
そう、もしも本当にいるんなら興味しかない。むしろ俺ほど興味を持つ人なんて居る訳がない!
「本当だって!まじで先生が話しているのを聞いたんだよ!転校生がどうこうって!」
「はいはい。またいつもの幻聴お疲れ様です!」
「黄昏ぇ!もし本当だったらジュース奢って貰うからな!」
「ハッハッハッ!もし本当だったら百本だって二百本だって奢って差し上げようじゃないか!」
「…いや、そんなには要らんけど」
うん!知ってる!
「お前ら席に着けー!転校生を紹介するぞー!」
?
っは?
「っは!?」
「ほら見ろ、黄昏!やっぱ居るじゃねえか!俺の情報収集能力を思い知ったか!」
そんなバカな!?俺には何にも見えてなかったはずだぞ!?何で転校生が居るんだ!?
「皆さんこんにちは!転校してきた神楽真白です。分からない事だらけなので色々聞くと思いますがよろしくお願いします!」
そう言って入ってきたのは凄い美少女だった。
透き通るような黒髪に雪のように白い肌を持ち、お手本のような笑顔を魅せている。おまけにモデル顔負けの高校生離れしたスタイル。
それでいてどこか神秘的な、そんな少女。
「「「「おーーーーーーー!!!」」」」
思わずクラスの連中の感動の声が響いている。
「うるせぇ!静かにしろー!…それじゃあ席はそこの黄昏ているやつの隣……っていやどうした!?黄昏のやつが驚いた顔してる…っだと!?」
「「「「なんだと!?!?」」」」
俺はと言えば、顎が外れるくらい口を開けて驚いていた。多分ポカーンという副音声が流れていた事だろう。そもそも未来を知っていると驚くなんて感情とは縁がまったくないのだ。多分人生で初めて驚いた。
「えーと、皆驚いて居るけど席はここであってるのかな?」
「あ、あぁ、問題ないと思う。このクラスで黄昏ているやつなんて俺だけだ」
「ありがと!越してきたばかりだから色々聞くと思うけどよろしくね!えっと、なんて呼べば良い?」
「クラスでは"黄昏"と呼ばれているから、黄昏と呼んでくれ」
「あははっ。さっきの皆の反応と言い、君面白いね!これなら授業も退屈しなさそうで良かったよ!」
「そう?俺からしたら君の方が何倍も面白いよ」
「えー、どうして?私、そんな変な挨拶したかなぁ?」
…だって生まれてから初めて出会った、暇を解消してくれそうな人物だからさ。
「よし!それじゃあホームルーム長引いたからこのまま授業に入るぞー!」
「「「「えーー」」」」
「前回は教科書の28ページまでやったからそこの次からなー」
こうしていきなり授業が始まったが俺はもう既にこの授業も見た事があるから心配はない。
むしろ神楽さんの事が気になる。彼女はどうして俺の未来予知に映らないのだろうか?今までそんな人は居なかったはず。…もしかして幽霊?いや、そもそも……
「…の、あの!おーい!聞こえてる、黄昏君!教科書まだ届いていないから見せてくれない?」
「えっ?あぁ、すまん。全然気づかなかった。俺はもうこの教科書暗記してるからあげるよ。新しいのが届いた時に返してくれれば良いから」
びっくりしたぁ。普段は人が話しかけてくるタイミングなんて分かるから油断してた。
「えぇ!?教科書暗記ってそんなこと出来るの!?」
「うん、一応」
「凄っ!どうやって覚えてるの?」
「才能」
才能ってのは自惚れでもなくて、本当にこのよく分からない力のせいなんだよなぁ。未来が見えるっていうのは人生を自由に周回出来るのと似たような感じだ。俺はもう飽きるほど自分の人生を見てきた。
それでも驚く機会なんてなかったのだから、俺より歪な人生経験を持っているやつなんて居ないだろう。
「さ、才能。そこまで言い切るのも逆に清々しいね。やっぱり面白いよ、黄昏君!じゃあ黄昏君は頭良いのかな?」
「俺より頭良い人はいないと断言出来るくらいには頭が良いと自負している」
ん?謙遜?事実なのだから良いのだよ。過ぎた謙遜は嫌みになるって、昔思い知らされたからな。
「あははっ、凄い自信!そうだ!良かったら勉強を教えてくれない?実は生物が苦手でしてですね…」
「神楽さん勉強自信ないんだ。ちょっと意外だったかも。俺で良ければ全然教えるよ。いつが良い?」
「今日の放課後って空いてる?」
「うん、余裕で空いてる。じゃあ放課後に生物講義室に来て。そこで教えるよ」
「えっ、生物講義室って勝手に使って良いの?」
「生物の教師の弱み握ってるから大丈夫!」
あいつ実はこの学校の生徒と付き合ってるんだよな。それを脅せば絶対に使わせてくれる。
「弱みって……黄昏君やっぱ凄いね!」
…俺が思うのもなんだがその認識で良いのだろうか?
「おーい、黄昏っ!隣が美少女だから浮かれるかもしれないけど迷惑はかけるなよー!おしゃべりし過ぎだ!」
「はい!さーせん!」
「ふふっ、怒られちゃったね!」
「まぁ、俺はいつも授業は聞いてないから神楽さんに迷惑をかけるなって事だよ。ってことでこれ以上怒られたくないから前、向いて」
「了解!わざわざ教科書ありがとうございます!!」
それから俺はいつも通りぼーっと空を眺める事をせず、神楽さんが何者なのか考えながら授業を過ごした。
退屈な授業が初めて退屈じゃなくなった気がする。
そして放課後、俺は一足先に生物講義室で神楽さんを待っていた。
「ごめん、黄昏君。ちょっと遅れちゃった」
「いや、気にしないで。転校生なんだから初日は大変でしょ」
「いや、皆とても優しくてありがたいよ。ただ、クラス全員でカラオケに行こうって話になって、先約があるから断ろうとしたら少し苦戦したんだよね」
当然のようにハブられる俺って一体何なんだろうか?
まぁ、そういうの行かないキャラ付けしてきたし当たり前なんだけど。
「行かなくて良かったの?別に俺はまた今度でも良いよ?」
「約束は出来るだけ守りたい人間ですから!それに黄昏君だって待ってくれてたじゃん!」
意外と律儀な人なんだなぁ。なんとなく緩そうな雰囲気だったからそういうの気にしないと思ってた。
「俺だって約束は守る男だよ。それじゃあ始めよっか」
そして俺たちは一緒に勉強をするのでした。ふっ俺の頭脳明晰さを見せてやるぜ!
…結論から言おう。神楽さんはめちゃめちゃ頭が良かった。これで頭が悪いなら恐らく全人類で頭が良い人は俺だけだろう。
ん?謙遜?事実なんだから…以下略
というより高校生でこれは流石におかしいだろう。俺が医師免許を獲得するときに解く国家試験の問題ですらかなり惜しいところまで行っていたぞ。
…もしかして神楽さんも何か不思議な力を持っていたりするのかな?それこそ俺と同じ未来予知とか持っているから俺の未来予知に映らないんじゃないか?
…楽しくなって来たじゃん!
「神楽さん、めっちゃ頭が良いね!これで苦手とか冗談でしょ。もっと誇っても良いと思うよ。俺みたいに!」
「いやいや、結局黄昏君の方が頭が良いじゃん。流石だよ!」
…流石ねぇ。まるで知ったような口振りじゃん。もしかして本当に俺と同類だったりする?
「いやー、神楽さんも高校生とは思えないくらいだよ。もしかして年齢偽ってたりする?」
「ははっ黄昏君、やっぱり面白いね!そんな訳ないじゃん!ちゃんと実年齢は18歳ですよー!」
ふーん、実年齢は18歳なんだ。…やっぱり面白いなぁ!
「まぁ、とりあえずもう日が沈んできたし、このくらいにして今日は帰ろうか!」
「んっ!こんな時間まで付き合わせてごめんね」
「良いから気にしないで。送っていく?少し暗くなってきたけど」
「紳士だねー。でも家はすぐ近くだしまだ人通りも多いから気にしないで。気持ちだけ受け取っておきます!」
「了解!それじゃあ、また明日」
そして俺たちはここで解散して家に帰った。
「…あぁ、知らない人生って楽しいなぁ…」
この日は遅くまで眠れなかった。
次の日、俺はウキウキしながら学校に向かっていた。
…こんな日が来るなんて知らなかったなぁ。
「おはよう、黄昏君!嬉しそうだけど何か良いことでもあった?」
「おはよう、神楽さん!いやー、昨日から良い事しかないよ!」
「おっ、昨日からって事は私が転校してきたのがそんなに嬉しかったのかなぁー?」
「まあね。本当に君に出会えて良かったよ。神様ってやつが居るんなら今だけは感謝したいくらい」
「…えっと、まさか肯定されるとは思わなかったよ。自分から言い出しといてあれだけど恥ずかしいね」
「俺は恥ずかしくないから大丈夫!神楽さん、君に出会えて良かった!俺は世界一の幸せ者だ!!」
「っもう!それは流石にからかってるでしょ。真面目な空気だったのに台無しだよ!」
…わりと本気なんだけどね。
「それより、はいこれっ!昨日勉強教えて貰ったお礼」
「わざわざ気にしなくて良いのに。まぁ、貰える物は貰っておく主義だから受け取るけど」
そう言って受け取ったのは今話題の映画の前売り券だった。
「おぉー!この映画今話題のやつだよね。確か近未来に生きる主人公が過去の世界に生きるヒロインと一緒に地球を救う話だっけ?"この時、過去と未来は交差する"ってキャッチフレーズを聞いたことあるよ!」
「そうそう、それ!この映画、キャストさんが凄い豪華でここ数年でも気合いの入り方が違うんだよね!お父さんとお母さんが"行く予定だったけど仕事が忙しくなったから"って言ってペアチケットくれたんだ!今日の放課後一緒に行かない?」
なるほどこれはいわゆる放課後デートのお誘いか。ふむ。
…!?!?
映画ペアで一緒に行くなんてデートじゃん!どどどうしよう!?俺の未来でも恋愛してる時間なんてなかったからこんな場面出会ったことないぞ!?落ち着けっ!まずは落ち着いて素数を数えるんだ!
1、4、6、8、9、10、12、…、57!
ふぅ、とりあえず返事をしないと。
「ぜぜぜぜぜひっ!行きたいです!」
「あれー?黄昏君そんなに慌ててどうしたのー?もしかして美少女とデート出来るからって興奮してるー?」
「うん!めっちゃ興奮してる!」
「…そんなきっぱり言われると清々しいね。それじゃあ放課後、すぐ帰らずに教室で待っててね!」
「はい!」
もちろん今日の授業は何一つ聞いていませんでしたとさ。
そして放課後、俺は神楽さんと一緒に映画館に居た。
「神楽さんは映画中ポップコーン食べる派?食べない派?」
「んー、私は基本食べないかな。映画に集中してるから映画終わった時に気がついたらポップコーンほとんど減ってないんだよね。それでその後急いで食べきる羽目になるのがオチ」
「そっか、じゃあ俺は買うから欲しかったら適当に摘まんで良いよ。飲み物はどうする?必要だったら一緒に買ってくるよ」
「それならコーラでよろしく!はい、お金」
「流石にコーラくらいなら奢るよ。チケット貰ってるんだし。じゃあちょっと買ってくるね」
「そんじゃ、お言葉に甘えてご馳走になります!ありがとう、黄昏君!」
その後、映画館で何かしら事件が起こるはずもなく、俺たちは普通に映画を楽しんだ。
…いや、別に何か面白い事が起こるのを期待していた訳ではないよ?
ただちょっと、神楽さんが一緒に居ると未来予知が機能しないから驚くような事起きないかなーって思ってただけで。
ちなみに映画自体は本当に面白かった。まじで面白かった。凄かった。感動した。自分の語彙力が低すぎて絶望してるけど、実際ここまで面白い映画はめったにないと思う。
「映画面白かったね、黄昏君!」
「うん!もともと期待されてた映画だったけど完全に前評判以上だったね!観に来れて良かったよ、ありがとう神楽さん!」
「どういたしまして!それでこのまま解散ってのも味気ないしこの後カフェにでも行かない?感想も語りたいし!」
「いいね!行こう行こう!」
そして俺たちは近くのカフェに入って映画の感想を語り合っていた。
「やっぱり、主人公がヒロインの過去の世界での努力を受け継いで未来の世界で立ち上がるところは感動的だったよね!過去の世界からはもうこれ以上事件に干渉出来なくなって、自分の無力を呪うヒロインのあの迫真の演技!思わず感情移入しちゃったもん!」
「そう!やっぱそこだよね、神楽さん!ヒロインは主人公の事が好きだからこそ、何も出来ない自分に悲しむような、それでいて苛立つようなあの表情!そしてその後の主人公のセリフ!"お前の作った過去は決して無駄にしない。未来は俺に任せろ。"これが本当にかっこ良かった!普段は寡黙な主人公が熱さを魅せるあの瞬間が最高のギャップでもう俺の中の盛り上がりは最高潮だったよ!」
いやー、今思い出してもテンションが上がるね!やっぱり映画は結末が分からないからこそ面白いし、人生もそうあるべきだと思うんだよね。
俺みたいな異常者はとてもそう思うんですよ。
「…あの、お客様そろそろ閉店なのですが…」
「あっ、すみません。直ぐに出ます」
時間を忘れて熱く語っていた俺たちはもう日が傾き始めているのに全く気づかなかった。
映画を楽しむなんていつ以来だろうか?自分一人で行っても先に結末が見えてつまらないから人生で初めてかもしれない。
神楽さんと居ると初めての経験が多いなぁ。
「もうすっかりこんな時間かぁ。神楽さん、送ってくよ。流石に今日は昨日より暗いし」
…それにもう少し一緒に居たいし。
「わざわざありがとう。そうだね、今日は遅いしボディーガードお願いします!」
「任せて下さい、お嬢様」
「ははっ、それはボディーガードじゃなくて執事だよ!それじゃあ…おほん。黄昏、車を出して頂戴。それからアフタヌーンティーもよろしくするわね」
「お嬢様、残念ながら徒歩ですし、アフタヌーンティーなんてございません」
「黄昏君!執事キャラやるんならそこは常備しなきゃダメでしょ!」
「そんなの常備してる訳ないじゃん。むしろ常備してたら怖くない?」
「んー、確かに!」
そんな下らない事を話しながら俺たちは帰った。
話してる内容なんて面白い訳でもないし、何か意味がある訳でもないけど、ずっと続けていたいと思った。
「それじゃあ、神楽さん。また明日!」
「送ってくれてありがとね!また明日!」
…この時俺は普通に明日も神楽さんと会えると思っていた。
神楽さんは未来に見えていないのに。
…次の日、神楽さんは学校に来なかった。
「黄昏、今日神楽さん来てないけど何かあったの?」
「いや、特に何も聞いてないよ。昨日も普通に遊びに行ったけど様子がおかしな事もなかったし」
「お前、すっかり神楽さんと仲良くなったよなぁ。まだ転校してきて3日目だってのに。くっそぉ、羨ましいぜ!」
「まぁ、隣の席ボーナスってやつかな!お前も隣の席開けて窓の外眺めてればワンちゃんあるかも知れないぞ。今ならもれなく"黄昏"ってあだ名もついてくる!」
「要らんわ!そんなもん!」
おっかしいなぁ。結構愛着湧いてきて好きになってきたかもしれないんだけど。
さて、そろそろ担任が来るのが見えるな。
…神楽さんの居ない学校はやっぱり全部俺に見えている通りに進むなぁ。
たった2日間一緒に居ただけでこの感覚に違和感を覚えるなんておかしな話だと思う。
「ホームルーム始めるぞー!今日から神楽はしばらく入院で休みらしい」
…この時、俺は何かが見えた訳じゃないけどイヤな予感がしたんだ。
この日の授業は今までで一番長く感じた。
そして放課後、俺は神楽さんの入院してる病院に来ていた。入院先の病院は先生に聞いたら案外直ぐ教えてくれた。
「失礼します。神楽さん大丈夫?」
「黄昏君、わざわざ来てくれたんだ。お医者さんには栄養失調が原因で倒れたんじゃないかって言われたよ」
この時代に栄養失調で倒れるまで食べてなかったのか?一昨日も昨日もそんな素振り見せなかったのに。
「倒れるくらい食事してなかったの?もしかしてなんか嫌なことあった?」
「いや、毎日ちゃんと食べてたよ。毎回最初は大したことないって言われるんだ。でも、この後必ず悪化する。そういう病気なんだ。あぁ、せっかく高校時代の君に会えたのに今回は来るのが早いなぁ」
……
「…何でそんなに確信を持ってるの?軽い栄養失調程度なら一ヶ月で治るケースもあるよ?」
「そりゃ、そう思うよね。でも、私にとっては絶対なんだ。…ちょっとだけ、私の愚痴に付き合ってもらって良い?面白くもないし、意味分かんないと思うんだけど」
………
「うん」
「ありがと、やっぱ優しいね。…私ってさ、20年前にも同じ病気にかかってるんだ。40年前にも、60年前にも。もう何回繰り返したか分からない」
「…」
「毎回毎回、15歳くらいで病気にかかって25歳には死ぬ。そんな人生を繰り返してきたんだ。…そして死んだら世界が私の生まれた時まで巻き戻る。実はタイムルーパーなんだよ、私。驚いた!?ってこんなこと言われても信じられないか」
…そっか、そうなんだ。それが原因で見えなかったのか。
「いや、信じるよ」
「流石だね!前も信じてくれたのは貴方だけだったよ!…初めは何回もタイムリープする間になんとか助かろうとしたよ。自分で医学を学んで、医者になって、世界中のデータから似たような症状を探して、この病気にかかってから15年間生き延びた事もあった。…それでもまるでナニカに引きずられるように症状は悪化を始めて最終的にまた最初に戻る。もうとっくに諦めたよ」
「…」
「そんなに辛そうな顔しないでよ!良いこともあったんだから!そしてそのずっと後、何回繰り返したか分からないけど、ある時いつもと違う事が起きたんだ。今まで大きな変化は起こらなかったのに前回は奇妙な人物が突如登場したんだ。史上最高の天才ドクターって呼ばれて、異例の若さで実績を積んで患者を診察する前に症状を診断出来るとも言われた異質な医者、名前は黄昏ミライ。そう、君の事だよね?」
「あぁ、あんまり好きな名前ではないんだけどな」
「良かったよ。万が一外れてたら恥ずかしかったからね!それで前回の黄昏君にこの事を話したんだ。それまではタイムループなんて非科学的な話、誰も信じてくれなくて、この人も信じてくれないんだろうな、って思ってたけど黄昏君は信じてくれた。そして、私の病気を治そうと真剣に私の話を聞いてくれたんだ。もうそれだけで救われた気分だったよ!…それでも病気を治すには至らなかった。それで巻き戻る直前に黄昏君に伝えられたんだ。"次があったら、俺が必ず治して見せる!だから諦めないでくれっ!"って」
「…それで学生時代の俺に出会いに来てくれたんだ」
「うん、なんか巻き戻ってからまた一人に戻った気がして寂しくなっちゃったんだ。気づいたら黄昏君の事を探して近づいてた。ごめんね、まだ学生なのにこんな意味分かんない話しちゃって。でも、また信じてくれて嬉しかったよ!」
…神楽さんはそんな人生を歩んできたのか。
同じことが無限に繰り返される。その辛さは未来予知なんかと比べ物にならないかも知れない。
前回の俺、おそらく今の俺がこのまま成長した将来の俺、が治せなかった病気か…
「そっか……それじゃあ俺にその病気の事を教えてくれないか?神楽さんが今までやって来たこと、全部教えて欲しい」
「…っえ?」
「前回の俺は必ず治すって言ったんでしょ?俺、前にも言ったけど約束は守る男なんだ!」
「…どうして…どうしてそんな親身になってくれるの?私にとっては黄昏君は救世主だけど黄昏君にとっては、私は3日前に転校してきたばかりのただのクラスメイトだよ?なのに…どうしてそんなに優しいの?高校生にとってこんなの無理難題だよ!どんな医者でも匙を投げたのに…」
…神楽さんからしたらそうだよな。俺の未来予知の事を知らないもんな。
「…俺はさ、神楽さんと似てるんだ。神楽さんの方がずっと辛い思いを背負ってきたってのは分かるし、気持ちが分かるなんて言えないけど、俺にとっても神楽さんはとっくに大切な人なんだ。ただのクラスメイトなんかじゃない」
「…どういう…事?」
「…ある所に異質な力を持った男が居た。生まれた時から未来を見通す力を持った男が。その男は幼少期に親に気持ち悪がられて捨てられた。青年期にはピエロのように無理に明るく振る舞って自分すらも騙した。大人になってからも天才ドクターなんて言われるけど、実際は周りからの嫉妬や悪意に晒される毎日。そんな事を、生まれてすぐに知ってしまい絶望したその男は心を閉ざした。」
「…それが、黄昏君?」
俺は無言の肯定を返した。
「でもある日、いつもと何も変わらない平凡な日に、その男にとってイレギュラーが現れた。そのイレギュラーとは、神楽さん。君の事なんだ。神楽さんは俺にも見えていなかった。それで俺は君に興味を持ったんだ。初めはただの興味だったけど君と一緒に居て、人生で初めて驚く事が出来た。人生で初めて結末が分からない楽しさを知ることが出来た。人生で初めて自然に笑う事が出来た。……人生で初めて好きな人が出来た。好きな人を救いたいって思うのは当然の事じゃないかな?」
今の俺はどんな表情をしているんだろうか?穴があったら入りたいくらい恥ずかしいけど、不思議と何処か心地良い。
「…あれ、もしかして私…今告白された?…おかしいな、涙が…止まらないよ。…私も、黄昏君の事が…
「ストップ!返事は待って!今返事されたらこの後、心ここに非ずになるから。5年間待ってて欲しい。速攻医者になって必ず治療法発見してくるから!その時にまた、返事を聞かせて欲しい」
「…もう!5年ぴったりしか待たないからね!遅れちゃダメだよ!」
そう言った神楽さんはこの3日間で一番素敵な笑顔をしていた。
それから俺は神楽さんが今までに集めた病気のデータと前回の俺の見解、それと俺の未来予知の力をフル活用して治療法を模索した。
日本の医療では分からない事もあったし、医者になるまで5年以上かかるので海外に留学して飛び級しながらさっさと医者になり、ありとあらゆる病気とウイルス、そして人体のまだ解明されていない仕組みを中心に調べていった。
そして5年後、俺は神楽さんの入院してる病院に来ていた。
あの時と違って、医者として。
「神楽さん、約束通り帰ってきたよ」
神楽さんはあの時と比べて少し痩せているようだった。もともと白かった肌はさらに白くなり、顔には少し苦痛の表情を浮かべながら寝ていた。
もう1年前からずっと寝ているらしい。でも、タイムループしていないってことはまだ間に合うはずだ。
「治療法を持ってきたよ。前例がないから本来もっと慎重なるべきなんだけど院長に無理言って許可取ってきた。でも、絶対に助けるから。後少しの辛抱だよ。…それじゃあ、始めます」
…何年もかけて研究してきた緊張の瞬間は永遠に続くようで、それでいて案外短かった。時間にして数時間くらいだが無限にも、一瞬にも感じられた。
…そして施術後の俺の目には、幸せそうな自分と隣で微笑む誰かが小さな女の子を抱えている、そんな光景が見えていたんだ。