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怪物少女と狩人  作者: 遠藤 ボレロ
——北を目指して—— 第3章
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第二十二話 情報交換

「交渉成立だ」レイゴは頷く。「一つずつ知っていることを話そう。まず、俺らがいるこの周辺は半島になっているんだ。海に突き出た地形って言えば分かるな」


 そういうと男は地面の植物を退かし、石で絵を書き出した。それは前脚をあげたムムジカのようにも見えるが、それよりは太く短かった。


「今いるのはこの辺りだな」彼は膝の関節辺りに大きく印をつけた。「オルランディって名前だったらしいが……今はこんな感じだな」そして男はゆっくりと石で線を描く。「この辺りにメトラ・シティがある。大体ここからなら光子二輪(フォトン・バイク)で三日掛からないだろう。近づけば大きな建物が見えてくるはずだ」


 レイゴが指したのは、半島の入り口辺りであった。彼らがいるこの場所から、大体北北東辺りだろうか。先ほどよりも大きく円を描き出したので、きっと広い街なのだろうということは分かった。

「クイーンズは街の何処が拠点なのか、分かりますか?」

「中心だ、一番大きく崩壊具合も少ない建物だから、すぐに見分けがつくだろう」


 彼は真ん中に小さく丸を描いた。


「ガジェインはメトラ・シティの周囲が荒廃していると言っていましたが……」アーリは周りの景色を見やる。「この場所はちょっと違うみたいですね」

「ああ、ここから一歩先に進めば、真っさらな大地が広がっている。一面、赤茶色の砂に覆われた荒野になっていて、怪物もほとんど生息してないんだ。ここに来て自然に触れた者も多くてな、セシリーも同じだ」レイゴは鶏肉を美味しそうに頬張っている少女の頭を撫でた。「……追手さえいなければ、ここで暮らすことも、視野に入れていたのだが。君らの街に行けば、きっとそうしなくても良いみたいだ」


 アーリはその情報を持っていたノートに走り書く。「どうして、そんな場所に街があるんでしょうか……」続けて質問をする。「この辺りに街を作ればいいのに。そしたら人間を怪物に変えたりとか、しなくてもいいのに」


 男はゆっくりと首を振る。

「クイーンズとその上のキングと名乗る人物の意図は分からない事が多い。……だが、奴らは街の人間を強制的に働かせて、パーツやら機械部品やらを製造させているんだ」男は顎の髭を撫でた。「メトラ住人の噂では、外敵に対抗する為に、兵器を用意しているのではないかと言われている」

「……だから半島の入り口で防衛しているんでしょうか」アーリは地面に描かれた地図を見て、そう思った。

 

 メトラ・シティの場所を今一度確認すると、あながちその噂も間違いではないのかもしれない。防衛ラインを引く以外に、その場所を陣取っている理由が思いつかないのだ。

 だが、外敵が存在するのかも定かではないのだ。


「かもしれない、といった所だな」レイゴは続けた。「それで……街に行くなら、機械警備機構(オートマトン)には気をつけろ。街の至る所に配置されていて、武装もされている。街に入り込んだ怪物や犯罪者は問答無用で撃ち殺されちまうからな」

「オートマトン……?」

「ああ、機械を埋め込む改造されて、自我を奪われた人間、機械人形って呼ばれることもある。自分で考える事はなく、疲れることもない機械の兵士だ」レイゴは少し躊躇ってから続けた。「……メルラさんも機械警備機構(オートマトン)だったが、彼女だけは自我が残っていたんだ。特別な事例らしいが、クイーンズは機械兵を纏める役をメルラさんに与えていたらしい」

 

「……お母さんもオートマトン、だったんだ」

 アーリは母親の姿を思い出した。黒い機械の体に青く光るライン。そして人間以上の機敏さに、手のひらから突き出すように生える武器。

 母親の体を引き摺ったあの日の月とそよ風。


 不思議と悲しみは湧いてこない。きっと、自我がなくてもお母さんだったら、悪い事はしなかっただろうという、証拠もない確証だけがアーリにはあったからだ。

 それに母親とはもう別れを済ませている。これ以上悲しめば、死んだお母さんも悲しむかもしれないと思った。


「それとだ、街に入るなら俺らの仲間を探すと良い」レイゴはメトラ・シティの右側に小さく円を描いた。「街の東側のはずれに、反クイーンズ派の隠れ家があるんだ。荒廃した大きな工場跡地だ、行けばすぐに分かる。きっと君らの計画を手伝ってくれるはずだ」


 男は薄汚れた瓶に入った水を飲み、口を拭う。「俺が持っている情報はこれくらいだ。君たちの街について、聞いてもいいかい?」

「はい」アーリは本を閉じ、ゆっくりと話だす。「私達の街には、名前がありませんでした。みんな、ルークズの街とか、ボックスシティとか、それぞれの名前で呼んでます」アーリは街の場所を指差した。「他の街がなかったので、名前なんて要らなかったんです」

「……名前が要らなかったか」レイゴはゆっくりと頷いた。「それだけでも、こちらの街を知らなかったのが、真実味を帯びてくるな」

「はい。私達の街は四方を高い壁で覆われていて、それが街を怪物たちから守ってます。きこのまま南下して行って、沼を抜けて山を一つ越え、森を抜けたら着きます」アーリは石を拾って、同じように地面に絵を描いた。「歩いて移動するなら、二週間かそれ以上は掛かるかもしれません」

「ここまで歩いてきたんだ、街があると分かっていれば仲間達の士気もあがるだろう。」レイゴが続ける。「それに、道中には木の実やらの食べるものがあるんだろう?」


「……はい」アーリはそこである事を思い出す。「怪物は……いるかと思います」

 黒い外殻を持つ怪物の事だ。レイゴ達が街へ向かうのであれば、もしかすると奴らに出くわすかもしれない。 

「ここに来る途中の湿地で、巨大な怪物の襲撃を受け、調査に出た手練れ兵士二十九名が死亡しました」アーリは地面の地図に、沼地の大雑把な場所を描く。「それが、この辺りですね」

「……どんな怪物か教えてもらえるか?」

「黒い外殻を持った細長い怪物で、顎に鋭い鋏を持っているらしいです。それ以外は、直接見た訳じゃないですし、あまり情報がなくって——」

「そりゃ、ギガントミレピードだな。巨大な昆虫種で、たまに街に入り込んできた奴を倒して食う事がある」レイゴは腕を組んでいう。


「……それ、美味しいんですか?」

 アーリはなんとなく答えが分かっていたが、一応とばかりに聞いてみた。

 レイゴは横に首を振った。「貴重な食料ではあるが……鶏肉を食べちまった今、お世辞にも上手いとは言えないな」

「そうですか……」アーリは苦笑いを返すばかりだ。「ですが、私達が通った時には出現しなかったので、もしかしたらあそこにはもう居ないのかもしれません」

「まぁ、遭遇しないのを祈るばかりだな」レイゴは一瞬難しい顔をした。「他にはないのか?」

「あとは……昨日私達はこの辺りで、なんだか奇怪な彩の建物群を見つけました」アーリは指で印の少し左下を指した。「コースターっていう巨大な金属のものがあったり、変な絵が書かれた看板が落ちてたり、大きな爬虫類の像があったりしました。あとは大きな門とか青いボールとか」

「……それは」レイゴは上を向いて考えこむ。「説明を聞く限りでは、テーマパークらしいな、古代の文献で見た事がある。詳しくは知らないが、人間達が楽しむためだけに、広い敷地を割いて建物を乱立させた場所らしい。古い時代の人間達が考えることは分からんな」

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