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怪物少女と狩人  作者: 遠藤 ボレロ
——北を目指して—— 第3章
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第二十話 説得

 十数名の大人達が、大小様々な銃を構え、冷たい銃口と視線をこちらへ向けている。緊迫した状況を自然が知っているが如く、先程まで柔らかく吹いていた風がぴたりと止んだ。


 ミリナはぐっと手を握り、まっすぐにリーダーらしきセシリーの父親のことを見ていた。口はきつく結んだままで、先程少女に見せた笑顔はどこかへ消えている。

 アーリは右手を握り込み、いつでも能力を発動できるように構えた。銃撃戦になってもミリナを庇えるようにしておかなければ。


「……お前らは何者だ、どこから来た」リーダーの男が声を張り上げる。

「私はアーリ、そしてこっちがミリナ。南にある街から来たの」アーリは真面目な顔で喋る。

「南には本当に街があるのか、それは本当か?」

 リーダーの問いかけの後ろで銃を構える人々は、その情報を聞いてか、若干のざわめきを立て始めた。彼らの反応とセシリーとのやり取りを見ると、きっと彼らはメトラ・シティという過酷な場所から逃げ出し、安息の地を探しているのだろう。


「あるよー! カバンの中に缶詰とか、食料が入ってる、それが証明だよ」そういうとミリナは鞄から魚の缶詰を取り出して見せた。「街にはいっぱい人がいて、食べ物もいっぱいあるんだよー」

「……なるほど」男は銃を構えたまま続けた。「では、なぜその街の住人がこんな場所にいる? 我らを殺しに来たんじゃないか?」 


「それは……」アーリは一瞬ためらい、ミリナを見やる。

 話しても良いのだろうか。未だに彼らが、クイーンズ・ナインズとの繋がっているという可能性を拭い切れないのだ。彼らが自分達の街へ出向き、破壊の限りを尽くそうとしているかもしれない。

 しかし、そんな事に子供を連れてくるだろうか。まず無いだろう。


 ミリナはアーリの目を真っ直ぐに見つめ返し、ゆっくりと頷く。

 彼らの敵ではない事を証明して、何か情報を得るのが重要だ。アーリは包み隠さずに全てを話す事にした。

「私達の街はクイーンズ・ナインズに襲われた。彼らは人間を怪物に変えて、食料にしようとしていた。だから逆にメトラ・シティを調べて、可能なら彼らを壊滅させるためにきたの」アーリはバイクに手を伸ばし、アラとクラの鋼鉄の尻尾を取り上げ、彼らと自分達の中間ほどに投げた。「これで信じてくれる?」


 彼らは投げられたそれに一瞬たじろいだが、リーダーがゆっくりとそれに近づき、陽の光を反射するそれを覗き込む。それを見る彼の表情は、戸惑いと疑念が混じっていた。


「本当にアラとクラと戦って破壊したのか? お前らみたいな細い奴が、ナインズと対等にやりあうとは、俄かには信じられないが……」彼はゆっくりと首を振る。「怪我すらも負っていないのにどうやった?」


 アーリは一瞬ためらったが、右腕にぐっと力を込める。彼女の右腕が黒く硬化し、獣のようなけたたましいシルエットを映し出す。長い爪は流れる風をも切り裂き、鋼鉄のような皮膚は冷たく日差しを反射している。

 彼らはアーリが見せた異常な姿に驚き、それぞれに畏怖や好機の反応を見せた。何人からは武器を持つ手を緩め、また逆に何人かはさらに警戒を強めたのだ。どちらにせよ、響めきが沸き起こったことには違いない。

 何より目を輝かせて一番喜んでいたのは、他でもなく男達の後ろで覗いていたセシリーであった。


 そして、グループのリーダーは目を丸くして驚いていた。口をあんぐりと開け、アーリの腕をまじまじと見つめている。

「私達がクイーンズ・ナインズなら、腕は機械で出来ているはず」ミリナは怪物のものとなった手をゆっくりと閉じたり、開いたりして見せた。「これでどう? 信じてもらえる?」


 異常な能力を目の当たりにして、彼は驚きを通り越し、感嘆すら覚えているようだ。

 それからレイゴは周りにいた数名の仲間と小声で何かを話し合う。話し掛けられた男達は小さく何度も頷いている。どうやら彼らにも自分達が怪しく無いと伝わったらしい。

 彼はふっと向き直って構えていた銃を下ろすと、「下ろせ」と周りに短く伝えて武器を下げさせた。


「本当に実在したのか、怪物の力が……」男が声を漏らす。

「……知ってるの?」アーリは彼らの反応に戸惑い、問いかける。

「ああ」男は短く答え、ゆっくりとアーリ達に歩み寄る。「付いてこい、食事をしながら話をしよう」


 アーリ達は男に言われるがまま、彼らの簡易的な拠点に——と言ってもテントなどはなく、巨大な橋の下に彼らの持っていた鞄や毛布などが置いてあるだけだ——案内され、一緒に食事をする事になった。地面に投げ落とされた鞄は、どれもぐったりとしており、彼らの物資が潤沢では無い事が判る。

 


 場を支配していた複雑に絡み合っていた緊張の糸が解かれた後、すぐにセシリーが駆け寄ってきて、アーリの右腕を新しい玩具を見つけたようにぶんぶんと振り回した。

「ねーねー、おねえちゃん! あれ、どうやってやったのー?」

「うーんと、どうやってって言っても……」

 アーリが返答に困っていると、ミリナが代わりに答えた。

「いっぱいご飯を食べて、練習をしたら出来るかもよー?」ミリナは惚けがちに言った。「まぁ私もまだ出来ないし、セシリーちゃんはあと二十年くらい必要かなぁー」

「えー、にじゅうねん、ってどれくらいー?」セシリーはミリナの言葉を鵜呑みにしたようだ。

「うんとねー」ミリナは自分の身長よりも五センチほど上に手を広げた。「セシリーちゃんがこれくらい大きくなったらかなー」

「そんなにー?」少女は頬を膨らませた。


 彼らは武器を置き、火の周りを取り囲むように各々座り込んだ。数名は焚き火からこんがりと火の通ったココットリスの丸焼きを取り出し、皿代わりの大きな葉の上に乗せた。彼らがナイフを入れるたびに、胃袋が悲鳴をあげるほどの香ばしく、そして荒々しい野生の鶏肉の匂いが周囲に弾ける。


 アーリ達も火から少し離れた場所で男が止まったので、同じ様に、そして少し距離を取って地面に座った。ひんやりとした地面の感覚が直に伝わってくるが、近くに火があるためかあまり気にはならなかった。

「セシリー、あまり彼女達を困らせるんじゃない」彼女の父親はそういうと、少女に手招きをした。

「はーい」と少女は元気に返事をして、あぐらをかく父親の膝の上に座った。




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