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怪物少女と狩人  作者: 遠藤 ボレロ
——怪物化事件—— 第3章
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第十八話 機械いじりと怪物少女 第3部・最終話

「これ、北の森の深い所で見つけたの」アーリは自分が押してきた機械的な乗り物を店の前で止めた。「お母さんは北からフォトン……なんとかってやつで来たって言ってたのを思い出して、狩りと能力の練習も兼ねて探してたの」

「……ったく、こんな機械は初めて見たが」ロッドはそれに向かって歩いていく。「もう驚くこともできねぇな。んで、どうすればいいんだ?」

「これが乗るための物っていうのは分かるんだけど、使い方が分からなくって……」アーリは首を小さく横に振る。「機械に詳しいロッドさんなら、どうにか分かるんじゃないかって持ってきたんだ」

「フォトン・バイクだったな。しっかし、持ってきたって言ってもよぉ……」ロッドは首を傾げた。「そんなん俺が分かる訳……」


 ロッドはアーリが持ってきた黒い流線型の乗り物を、舐め回すような視線で観察した。腕を組みながら訝しむような眼差しで見つめていたかと思うと、急にしゃがみこんで顔を近づけて、新しい玩具を買ってもらった子供のようなパッと明るい表情になった。

「ちょっといいか?」ロッドはアーリに一声かけると、彼女が握っていた角らしき部分を握った。


 左右にひねってみると、それに連動して機械の前部が連動し、車輪が同じように左右に動いた。前へ押してみると、意外とすんなりと前へ動き、逆に後ろに引けば後退する。上にぐっと持ち上げようとするが、見た目通り金属でできているようで重たく、数センチ浮かせるのがやっとであった。

 機械の中央部分には、金属ではなく、何か柔らかめの素材で出来ている部分があった。どうやら生き物の革になにか塗料のような物を塗りたくって艶を出させているようだ。


「なるほどなぁ」そういうとロッドはそれに跨った。「こうやって乗るもん……っぽいな。しっかし、どうやって動くのか、いまいち分からねぇ」

「今の所押していくしかないけど、お母さんが重いだけの物を持ってくるなんて考えられないんだよね」アーリは腕を組んで少し考え込んだ。「ミリナさんにも、バレントにも見せてみたんだけど、何にも分かんないって。ループなんか匂いを嗅いだだけで、『爆発するんじゃないのか』って近寄らなかったよ」

「そりゃぁそうだ、あいつらは機械の事なんか、これっぽっちも理解してないからな」ロッドはバイクの上で、人差し指と親指の間に小さく隙間を開けてみせた。「通信機が便利だから渡してやったのによぉ、一度も使ってねぇんだろ?」

「うーん」アーリは少し下を見て考えた。「言われてみれば、たまに掛かってきたら使ってるくらいだね」

「だろ? アイツにすごい腕甲を作ってやったが、一回使っただけで突き返されたぜ」ロッドはバイクから降りながら言った。「んじゃぁ、こいつも調べておけばいいんだな?」

「うん、お願い」アーリは快諾され、すこし嬉しそうな顔をした。「今度、お肉取れたら持ってくるね!」

「ああ、楽しみにしてんぜ」ロッドは「しばらく預かっておくぜ。何か分かったら……」

 ロッドはそこまで言って、アーリがこれを使いたい理由を思いついてしまった。

「どうしたの、ロッドさん?」ぴたりと動きを止めたロッドに、アーリはいつもの調子で話しかけてくる。

「一つ聞いていいか?」ロッドはバイクを停めた。「こいつを使って何をするんだ?」

「え、えっと……」いつも人の目を見て話すアーリだが、ロッドが振り返ると視線をふと外した。「それは……お母さんの物だったから……」

 確信を突かれたのだろうか、少女の言葉の歯切れが悪い。だが、逸らした色の違う両目は曇っている訳ではなく、むしろ何か明確な意志を持っているように見える。

 鈍感で機械ばかり弄っている無骨な職人でも、彼女が嘘を付いている事は分かった。彼女とは十数年の付き合いがあり、彼女が適当な嘘を付かない正直な子であることも知っている。

 そして何より、遠く離れた北の土地に別の街があり、そこの住人達がこの街を火の海にしたという事も。


「バレントやループには話したのか?」ロッドは神妙な面持ちで聞いた。

 アーリは少し顔を強張らせて、首を横に振るばかりであった。この言い方で彼女にも伝わってしまったのだろう。だが、それでもはぐらかさないのに、ロッドはアーリの覚悟の重さを感じた。

「まぁ、俺は止めねぇよ。本当は止めるべきだが……」ロッドは静かに、落ち着いた声色でそう言った。「アーリちゃんは頑固なのは知ってる。やめろって言っても行くってんだろ、北の地によ。バレントがなんて言うのか、大体想像は付くぜ、行くなって言うだろうが……俺はアーリちゃんの親じゃねぇからな、好きにするといい」


「え、あ……うん」アーリは一瞬戸惑ったようだが、『好きにするといい』というロッドの言葉で安心したようだ。「もうこれ以上、この街に危険が及ばないようにしたいの。私が行かなきゃ、もっとひどい事をしてくるはず……それにはお母さんを殺したあのクイーンズ・ナインズってやつらを止めたいの。いつまでも相手の計画を待ってるのは嫌……だから、行かなきゃ。私じゃなきゃできない事だと思うの」

「……そうか」ロッドはアーリに小さく微笑んだ。「まぁ、バレントやループには、この事は黙っといてやるよ。俺にできることは機械をいじる事だけだからな」

「うん、ありがとうロッドさん」アーリは少し落ち着きを取り戻し、表情が柔らかくなった。

「おう、なるべく早めに使えるようにしとくからな」ロッドは軽く、バイクを叩いた。「おせぇからってオクトホースで飛び出すなよ? どれだけ離れてんのかわからねぇからな」

「ジェネスさんにも相談して、今日から兵団の訓練に参加するの」アーリはきっぱりと言った。「だから、毎日見にくるよ」

「頑張れよ」ロッドは言った。「俺はアーリちゃんが、外の世界で野垂れ死ぬのには、賛成してねぇからな?」

 ロッドがきっぱり言うと、アーリは元気に返事を返して、中央街(セントラル)方面へ走っていった。


 ロッドは勇敢な一人の少女の背中を見送った。そして自分もまた、特殊な力を持つアーリに多大な期待を寄せて、彼女の行動に運命を委ねているちっぽけな一人である事を理解した。

 そしてこんな自分ができるのは、彼女の背中にのし掛かっている、計り知れないほど大きな負担を、少しでも減らしてあげるだけだと言う事も。

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