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怪物少女と狩人  作者: 遠藤 ボレロ
——機械の怪物—— 第4章
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第二十七話 再会

 砂の城の敷地内は物見櫓代りの塔や、入り口に剣と盾の飾られている兵士駐屯所らしき場所、渡り廊下など様々な建物がある。そのどれもが砂を吹き付けられて、同じ色に染め上げられている。何も知らなければ、砂で建物が作られていると勘違いしてもおかしくはないだろう。

 地面は砂に覆われているが、大きな敷石が埋め込まれていて、馬達も幾分か歩きやすそうにしている。


「馬はここに留めておく、貸してくれ」

「うん、ありがとう」

 アーリとミリナから手綱を受け取ると、バレントは別の馬も止められている厩舎に歩いていく。そこには八匹の馬が止められており、餌や飲み水を入れる箱なども置かれていた。所どころ板が無くなってはいるが、日差しや雨を避けられる屋根もあり、馬達には絶好の休憩場所の様に見える。


「この城、かなりおっきいね」

 城は近くで見るとかなり大きく、砂に塗れる前であればかなり豪華絢爛な場所であったのだろうと容易に推測できる。

「ああ、そうだな、見つけた時はかなり驚いたぞ。周りの街も調べたんだが、かなり広範囲に広がっていた」バレントは城の上を見ながら続けた。「怪物によって破壊された王国……って所だろう。文献などは残っていないから事実は分からないがな」


「おおー、巨人用の扉みたい!」

 半開きになった五メートルほどの扉を見上げ、ミリナは喜んだ声を挙げた。


 そこから中に入ると、埃は溜まっているものの、砂は全て遮断されていたのか綺麗だった。両脇と正面には別の場所への扉があり、こちらは普通の人間サイズだった。

 ツルツルとした床の上に敷かれた薄汚れた朱色の絨毯は、広大な玄関ホールの両脇にある階段の上まで続いている。二階部分はバルコニーの様になっており、ホール全体が見渡せる。

 金色で絡み合う花が描かれた天井からは、小さなガラス玉が山ほどあしらわれたシャンデリアが吊るされているが、明かりは付いていないため昼であっても少し薄暗い。

 階段の壁には汚れた金色の額縁に入った、如何にも高級そうな絵画や皿などが飾られている。ホールの(すみ)と階段の登り口の両脇には、白い石を削り出して彫り込んだ台座に、高級そうなゆったりとしたシルエットの壺が置かれている。


 アーリとミリナはホールをぽかんと見つめていた。初めて見る異様だが豪華な場所に目を奪われ、しばらく息をするのも忘れるほどだった。

「どうだ、すごいだろ?」

 バレントが二人の肩をポンと叩くと、彼女達はハッと現実に引き戻されたようだ。

「……これが、お城なんだね。本でしか見た事なかったけど……綺麗な所だね」

「すっごい場所だね。アーリちゃん、ループ師匠!」

「……ああ、そうだな」

 扉のすぐ近くにいたループは、内装などあまり気にも留めてないようだ。不機嫌な表情にも見える。

「そうか、ループはあんまりこういう物は好きじゃなかったな」

 バレントは男らしく高らかに笑うと、ホールに音が反響した。


「おい、こっちだぞ」

 アーリ達が見上げるとナーディオがバルコ二ーから身を乗り出している。かと思うと、彼は左に歩いていく。

 白髪の老人の姿が見えなくなったかと思うと、上から食欲を唆るスパイスと肉の匂い、魚の焼ける匂い、そして優しく野菜を煮立てたスープの匂いが漂ってくる。

 

 バレント達が階段を登り、左の廊下を進んでいくと、廊下の突き当たりには広い食堂があった。

 二十人は同時に食事ができそうなテーブルの上には、脂の滴る鳥の丸焼きや魚のグリル、綺麗な器によそられたスープとこんがりと狐色に焼き上げられたパンなど、豪華な食事が並べられている。金色の燭台にはオレンジ色の炎が灯されていて、それら全てをキラキラと照らし出している。

 

 ナーディオと他の三人の狩人達は、既に一番奥の席に付いており、入ってきた彼らを笑顔で出迎えた。

「せっかく来たんだ……まぁ積もる話はあるだろうが、ひとまず飯にしよう。まぁあり合わせだが、無いよりはマシだろう?」

 

 決してお金を掛けている訳では無いのだろうが、旅で疲労した彼女達の目には、高級レストランの様な光景に映った。

 ミリナはナーディオの反対側に飛び込むように座り、即座にナイフとフォークを握る。

「いただっきますー!」

 彼女は誰に言われるまでもなく、素早く鶏肉を切り、口の中に放り込んだ。咀嚼も半分にそれを飲み込むと、彼女は目をパッと輝かせた。

「これ、美味いっすねぇ師匠!」

「よっぽど腹を空かせてたんだろうが……ミリナ、もう少し行儀良くな」

「……は、はい。すいませんでした」

「まあいい、さぁみんなも飯にしよう」

 

 ナーディオの言葉に、バレントとミリナ、ループも席に着く。ループはあいも変わらず、椅子には座らず、椅子をどけた場所に座った。

「いただきまーす!」

「いただきます」

「……いただこう」


 アーリはナイフで鶏肉を切ってみると、皮はパリパリで、肉からはじわりと脂が溢れる。ループの皿に鳥肉とパンと魚を盛ってあげる。

「ありがとうな」

 ループはそう静かに言うと、匂いを嗅いでからゆっくりと食べ始めた。


 アーリが鶏肉を口の中に入れると、ジューシーで弾力のある肉質とこんがり焼けた皮が絡み合う。しっかりと塗り込まれたスパイスが、脂の上質な甘みと絡み合って濃厚な旨味が広がった。

「んん〜、美味しいです!」

 知らずのうちに笑顔になっていたアーリを見て、バレントは小さく笑った。

「だろ、腕利きのシェフがいるんだ」

「ナーディオさんが作ったの?」

「いや、きっと驚くぞ?」

 バレントがそう言うと、食堂の奥の扉がゆっくりと開き、中から一人の女性が厳かに出てきた。

 金色の滑らかな絹の様な髪の毛。赤茶色の瞳と柔らかそうな白い肌。薄いが発色のいい唇。まるで絵画から飛び出してきた様な美しい見た目。白いブラウスと茶色のパンツを着ているが、ドレスを身に纏っていれば、おとぎ話の姫に見紛うだろう。


「……え」

 アーリは唇からそう漏らすと、手にしていたフォークを地面に落としてしまう。


 少女の両目に映ったその女性は、母親の日記に挟まっていた写真に映っていた母であった。

 



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