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怪物少女と狩人  作者: 遠藤 ボレロ
——機械の怪物—— 第4章
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第二十六話 砂の街の城

 出発した時には東の地平から顔を覗かせていた太陽も、いまや彼女達の真上にあり、代わり映えのしない周りの景色を眩いばかりに照らしている。


 彼女達は半日をかけて目的地である砂の城の近くにまで届いた。親指の爪ほどの大きさに見えていた城は、今や視界の殆どを占領している。それでも城まではまだ十五分ほどかかりそうだ。


「やっと着いたー」

「ああ、長かったな」

「ループ、バレントやナーディオさん、他の人は居そうなの?」

「ああ、ここに居る」

「そっか! やっと会えるんだね」


 幾つかの棟に分かれた城の敷地はかなり広く、それだけでもミリナの暮らす街以上に広大だ。砂埃に塗れた城壁に取り囲まれ、塔や円形の巨大な建物が城壁の奥に見える。そのどれもが砂と同じ色をしているが、他の場所よりは守られていたのか被害が少ないようで、年数に寄る劣化以外は見られない。


「でも、なんでここに留まってるんだろう……?」

「多分だけどー、怪物の調査してるんじゃないかな。ここら辺から来てるんでしょ、あいつら」

「会って話を聞いてみれば分かる事——」

 

 その時ループは周囲の砂が擦れる音を聞きつけた。明らかに自分達のものではなく、一つでもない、複数の足音。それら全ては道の両脇にある崩れた家の中から聞こえてくるのだ。

 一瞬で変わる周囲の空気の匂い。殺意と闘争本能が入り乱れるそれをループの鼻が捉えた。


「銃を構えろ! 何か来るぞ」

 ループは咄嗟に戦闘の体制を取り、牙を剥き出しにする。


 アーリとミリナが銃を構えようとするより早く、足音の正体は隠れていた壁の裏からぬるりと姿を現わした。赤い複数の目玉が彼女達を捉えるなり、五体の壁の裏から飛び出して彼女達を包囲する。

 体長は男性の平均身長ほどで、人型の骨格を有しているが、頭部は爬虫類の様な流線型だ。肌は砂に同化するくすんだ黄色の鱗で覆われている。細く引き締まった胴体から伸びる四肢と頭部は、体に見合わない黒ずんだ金属の装甲に守られている。


 怪物達は強化された脚部に力を溜めている。ギリギリと金属装甲が擦れピシピシと人工筋肉が軋む。

「……ユマンリザードか、マズいな」


 アーリ達が恐怖を覚える間もなく、怪物達は大きな口を開けて威嚇している。ワニの様な巨大な牙が唾液に塗れてぬらぬらと輝いている。


 グルグルとループは喉を鳴らし、全身の毛を逆立てる。爪と牙から染み出した緑色のドロリとした液体が地面へぽとぽとと垂れ、地面の砂に染み込んでいく。


 怪物の登場にアーリとミリナを乗せていたオクトホースは暴れ出す。抑えようと手綱を引くが、オクトホースはそれでも止まらず、上に乗せていた騎手を振り落とさんと荒れ狂う。

「うおあ」

「る、ルズ! 落ち着いて!」

 そんな状態で銃を構える事など到底できない。数的不利に加え、抵抗の余地も残っていない。

 ループは奥歯を噛み締め、アーリ達に叫んだ。

「ぐっ……逃げろ、二人共!」


 怪物は好機だと言わんばかりに鋭い爪を突き立てようと、金切り声を上げながら飛びかかってくる。

 アーリとミリナを守ろうと、ループは怪物に反撃をしようと唸る。

 鉄の爪は白狼を引き裂こうと、空中で鋭い輝きを放っている。怪物達の筋肉と金属装甲がギュンと唸っている。


「ループ!」

 アーリの叫びが空にこだましたかと思うと、複数の火薬が炸裂する音がそれを掻き消したかと思うと、弾丸が城の方向から飛んでくる。

 空中にいる怪物に打ち込まれた弾丸は、怪物の首元や胴体にめり込み、一秒も立たずに爆発と炎を生み出した。

 衝撃で怪物は空中で怯んだ。


「お前ら! 早くこっちへ来い!」

 城壁の上から男の渋い声が投げかけられる。

 声の元にアーリ達が目をやると城壁の上には五人の人影が見えた。


「し、師匠!」

 渋い声にミリナは聞き慣れた物だった。

「ナーディオさん!」

「お前らか! 早く城の中へ!」

 男らしく野太い声が導くように城壁の中へと滑り込むアーリ達。

 その背後を追ってきたユマンリザード達は、城壁の上にいる男達の追加射撃によって、うめき声を挙げながらしぶしぶと散り散りの方向へ退いて行った。

 

 決死の思いで城壁の中に入ると、馬達も落ち着きを取り戻したようだ。小さく浅い呼吸から大きく深い呼吸へ戻る。

 ループの体からは


「……危なかったな、大丈夫か二人とも?」

「うん、ナーディオさんが助けてくれなかったら……危なかったね……」

「はい! でも師匠が助けてくれましたから」

 まだ浅い呼吸をしていたミリナだったが、城壁の上を指差しながら安堵に満ちた声を挙げた。


「おうおう、お前らどうした? 何でこんな所にいるんだ?」

 城壁にある階段からナーディオとバレント、そして三人の熟練ハンター達が降りてくる。全員、顔や衣服が砂に塗れ、かなり長い事休めていない事が分かる。

「アーリ、ループ、こんな所まで……何で来たんだ」

 バレントはそう言いながら頭を掻きながら、不安そうな表情を浮かべている。


「バレント!」「師匠ー」

 アーリとミリナはオクトホースから飛び降りて、階段を降りきろうとしている彼らの方へと走っていって、飛び込む様に抱きついた。

 抱きつかれたナーディオとバレントはどこか恥ずかしそうにしている。何で来たんだと言いつつも、久しぶりに家族に会えたのが嬉しいらしい。


「バレントが帰ってこないから心配したんだよ!」

「そうですよ、師匠! 街に鉄の怪物が——」

「ああ、改造された怪物達だろ。それを調査してたんだ、どうやらこの近辺で生み出されてるらしいんだがな」ナーディオは首の後ろを摩って、居心地の悪そうにはにかんでいる。「……まぁ見ての通り……見つかってねぇんだ」

「ああ、師匠の言う通り。それで俺達はここに居座ってるって訳だ。調査が終わるまでは戻れなさそうだな」

 バレントはそう言うとアーリの頭を軽く撫でた。

 暖かくゴツゴツとした手が、優しくアーリの心を持ち上げてくれるような気がした。ここまで抱えていた不安という暗雲が、一気に晴れ上がり清々しさすら覚える。

 

 ループはゆっくりと後ろから近づいてきた。

「……なるほどな。で、後どれ位掛かりそうなんだ?」

「まぁ、後二、三日って所ですよね、師匠?」

 バレントが尋ねると、ナーディオはにこりと笑って頷いた。

「そこまで長く掛からないかもしれないけどな」そう言うとナーディオは歩き出した。「さあ、お前らも疲れただろう、終わるまではゆっくりとして行け。ここにはベッドも缶詰なんかの食料も残されていた」


 食料という言葉に反応したのか、はたまた再会できて安堵したからか、ミリナとアーリの胃袋が怪物の呻き声の様な音を鳴らす。

「ふ、腹が減ってたんだな」バレントはアーリを見て優しい笑顔を浮かべた。「飯でも食べるか?」

「うん!」

「食べます食べます!」

 二人は馬を連れ、バレントと他のハンター達に付いていく。

 

 ループはどこか訝しげな表情を浮かべたまま、残されないようにとぼとぼと距離を開けて付いていく。



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