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怪物少女と狩人  作者: 遠藤 ボレロ
——機械の怪物—— 第3章
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第二十一話 その先は 

 真っ暗な洞穴は四十分ほど進む彼女達。

 本当にバレント達が通ったのかと疑うほど、この場所はしんと死んだ様に静かだ。アーチが周囲を覆っている以外は何もない暗闇。押しつぶされそうな黒。


 空気のは無味。普通の人間にとっては恐ろしいほど何の匂いもしないのだ。


 アーリの暗闇を見通す能力を持ってしても先をみる事はできない。どうやらこの場所は大きく右へカーブしている様だ。


「進んでるか全くわかんないね。どこまでも真っくーらー!」

「結構進んだと思うけど……終わりは見えないね」

「ああ、不気味な場所だ。生き物が住んでいる訳でもない……むしろ人工的というか」

 ループは訝しげに洞窟の地面を嗅いでいる。

 何も言わないと言うことは、バレント達の痕跡はまだ続いているらしい。そもそも、脇道などはなかったのだから、当たり前なのだが。

「ねぇ、バレント達はなんでここを通ったのかな?」

「怪物の出所を探る為じゃないか? あんな奴がいるとなればここの開拓にも、支障が出るだろうし、怪物の住処から駆除しようとしたんだろう」

「て言うことはこの先にあの怪物の巣があるのかな……?」

「わかんないけど、実は別の街があったりして!」

「まぁ、それであれば、まだマシだがな……まぁ行ってみれば分かるだろ」


 それから一分も経たない内に、ループはなにやら嗅ぎつけたように耳をピクピクと動かしている。

「どうやら終わりが近いようだ」


 ループの言葉通り、カーブを曲がると洞穴の奥に光が見えた。小さなアーチ状をそのままくり抜いた様な光であった。それまで何も見えなかった周囲の景色が少しずつ彩られていく。

 暗闇に慣れた目に痛い光であったが、同時に外に出たと言う安堵も与えてくれる。


「やっとだー!」

 ミリナの声は洞窟の奥へと反響するが長くは続かなかった。もう壁が終わるのだ。

「山を一つ超えたらしいな。ここから先は未知の怪物がいてもおかしくはない。一応準備はしておけ」

「……うん」


 アーリは背負った銃を取り出す。ライトニング弾が込められている。

 果たして見たことのない怪物にこの弾が効くのか、そんな疑問が口をついて出そうになるが、ゴクリと飲み込んだ。これ以上不安を募ってはいけないんだと。


 光の奥へと進んでいくと、真っ白に見えていた外の景色が段々と輪郭を取り戻していく。そして、それは彼女達が見たかった景色ではなかった。

 地面を覆い隠す黄色いジャリジャリとした砂。なだらかに上下する大地。乾燥した茶色の木々。空一面の青。乾いた少し肌寒い空気。

 そして、目の前には薄灰色の建物群。それらのほとんどは朽ちて原型をなしておらず、扉や窓の面影がなければ建物だとすら分からなかっただろう。それらは見渡す限り奥まで続いており、遠くの方には一際大きな建物が見えている。

 彼女達が通ってきた道は、その一番大きな建物へと続いているらしい。

 

 死んだ街。そう呼ぶのが一番正しいのだろうか。

 

 見たことのない景色、そして明確な人類の痕跡を前に、彼女達は口を噤んだ。

 圧倒、恐怖、探究。様々な感情が浮かんでくる。

 

 彼女達はしばらくその洞穴の出口で唖然としていた。日はすでに彼女達の後ろへと沈み始めていて、山が大きな影を街に落とし始める。

 

「……すごい」

 ミリナもしばらく考え込んでいたが、それ以上は何も言わない。


「別の街か……それにしては何もなさすぎるが」

「きっと……怪物に破壊されたんだ」アーリは僅かな記憶を手繰り寄せる。「バレントのレシピメモに走り書きがあったの、別に何ともない落書きかと思って気にしてなかったんだけど……『怪物が現れる前の世界?』って。きっと、ここが……そうなんだと思う」

「怪物が現れる前の世界にあった街ってことか?」アーリを見上げていたループだが、地面に散らばる砂に目線を動かした。「確かに……それ以外、この場所の説明がつかないな」


 謎は深まるばかり。

 再び沈黙が訪れる。サラサラと風が砂を運ぶ音だけが耳に届く。


「行ってみません?」

 ミリナは遠くに見える巨大な建物を指差した。

 おとぎ話に出てくる城にも似ているが、砂と同じ色以外の色味がない黄土色の城は静かにその周りの街を見渡している。

「……ああ、バレントもここを通った様だ。まだ匂いの痕跡は続いている」

「行く、バレントと一緒に帰るって決めたんだもん」


 少女達は砂の上を歩き出す。吹き付ける風が砂を体に(まぶ)してくるのも気にせずに、一心不乱に砂の上に立つ城へと進んでいく。

 



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