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怪物少女と狩人  作者: 遠藤 ボレロ
——狼の墓—— 後編 第1章
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第四話 意見

 日はすでに登っているはずなのだが、この部屋は薄暗かった。乱雑に置かれたいらないゴミや瓦礫などがそこでぐったりと息を潜め、話し合う四人の話を聞き流している。

「それで百体近くの機械人形を破壊された上に、敵を取り逃がしたと?」黒いボディスーツの上に白衣を羽織った女が呆れた口調で吐き捨てるように言った。「誰がその数を直すと思っているの」

「勘弁してくれよ、ラグリス。ウルヴスの奴らの乱入もあったんだぜ? まさか奴らが結託するとは思いも寄らなかっただろ? それに壊わしたのは俺じゃない、文句なら奴らに言ってくれ」割れた仮面をつけた男は背もたれに寄りかかり、机の上に足を乗せた。

「……もういい」彼女は呆れ果てた表情を浮かべて首を振った。何か言いたげに口の端を歪めていたが、観念したのかどさりと椅子の上に崩れ落ちるように座る。

「だけどよ、この状況はこっちにも好都合だ。あの二人は東側に向かったってことは、奴らの隠れ家がその辺りにあるって言ってるようなもんだぜ? 下水の中か瓦礫の下を探させれば、すぐに見つけられるだろ」

 アラネードは弄んでいたナイフを放り投げると、それはくるくると縦に回転し、机の上に広げられた地図の右側に突き刺さった。

「隠れ家を発見し次第、一気に叩くって寸法だ。侵入者と裏切り者の両方を同時にぶち殺せる、我ながらいいアイディアだろ」アラネードは不気味な笑い声をあげながら、自分の肩を自分で叩いた。

「脳味噌も蜘蛛ぐらいなんだな、あんたは」薄緑色の髪を後ろ手に束ねた中性的な顔立ちの男は——人によっては女だと言うかもしれないほどに女性的な特徴と男性的な特徴の両方を兼ね備えていて精悍な印象を持っていた——馬鹿にしている風に人差し指で頭を小突いてみせた。「ねぇ頭も改造してやってよ、ラグリス。思考ユニットを五枚ぐらいぶっさせば、今よりは少しマシな計画が思いつくはず」

 哀れな怪物の死体を見る時と同じ眼差しが、仮面の男に向けられている。

「んだと?」アラネードはジャケットの内側に手を突っ込んだ。「じゃあ、お前のクソみたいな顔面をぶち抜いて、見せしめに飾っておくか? ビビって一生穴ぼこから出てこなくなるだろ!」

「それより早くあんたの顔面をみじん切りに出来るってご存知?」ポニーテールの男が腕を振り上げると、前腕下部からカマキリの鎌に似た形状のブレードが跳ね上がった。「あんたのぐちゃぐちゃな顔面を切り裂いて、フェイスパックにでもしてやる。感謝しなさい!」

 黒いジャケットの内側から手に余るほどの拳銃が抜かれ、コンマ一秒遅れで刃渡り二十メートルほどのブレードの刃先が眼球の前に突き出された。

「……落ち着け」ストリクスが二度テーブルを叩いた。赤い二つの目と整った楕円の目元が老紳士に向けられるが、厳格で鋭い視線が二人の顔を睨み返す。「後にしてくれ、敵を倒した後でな」

 ラグリスをちらりと見れば、彼女は頬杖を付いてその様子を見ているだけだ。いつものことなのだろう。

「ったく……」アラネードは拳銃をジャケットの内側に仕舞い込む。

「ラゼルタも座れ」老紳士は足を組み替える。「お前らが相容れないのは分かる。だが、今は損失を出さないように敵を排除しなければいけない、喧嘩をしていて勝てるような相手ではないのはお前らも分かっているはずだ。瓦礫の山に捨てられた虚しい石のようにただ電源が切れるその日まで空を見上げて生きていくか、一時でも協力して戦いを終わらせ敵の骸の上で決着をつけるか。それ以外の結末は我々にはない」

「次に私の顔面を馬鹿にしたら、砂つぶほどの大きさになるまで切り裂いてその上でタップダンスをしてやるから。覚えておきなさい」

「おー、怖い怖い」アラネードは困ったと言った感じで、演技ったらしく手のひらを振って見せた。「……んでだ、俺の作戦がダメなら。追い込んだ奴らの処理はどうすればいい? 指を咥えて見ているだけって訳にもいかねぇだろ」

「奴らはただ待っているか怪物ほど馬鹿じゃない。昨夜の動きを見ても、情報をどこからか仕入れている大方誰かを潜り込ませているか、盗聴器がどこかに仕込まれているはずだ」ストリクスは静かに机を撫でた。「そうじゃなくても自分達が追い込まれていることには気づいているだろう。既にどこか別の場所に逃げる算段は立てていると考えても可笑しくない。最悪の場合は……罠を仕掛けて自分達は既に逃げているという可能性もある。どちらにせよ大軍を一気に送り込むのには賛成できない」

「……罠だった場合は、送り込んだ分の手駒全部を失うかもしれない」白衣の女は静かにそう言った。「そうなったら、修理で手一杯。武器やらの生産が間に合わなくなって、行き着くところは外の奴ら(アウター)の襲撃も侵入者達の排除もできなくなる」

「じゃあ、見過ごせってことか?」アラネードは若干不機嫌になりながら訪ねた。

「あんたは武器を撃ちまくりたいだけでしょ?」ラゼルタは自分の腕から鎌を出し、それをあたかも自分の爪かのごとく手入れし始めた。仮面の男の忌々しい物を見るような視線を受け流している。

「何も攻撃するなと言うことじゃない」ストリクスは機械の指で机の上の地図を指差した。「あいつらの巣穴を発見し次第、少数の自立式警備機構(オートマトン)を送り込むんだ。そうすればあいつらは別の巣穴に移動しようと出てくるはずだ」

「そこをぶっ叩けば、いいってことだな!」

「端的に言えばそうだ。這い出してきた所を囲い込むことで、こちらに有利な状況で戦えるだろう?」老紳士がマップの右側で大きく丸を描く。「この辺り一体を閉鎖すれば、奴らは出られないはずだ。入り口を発見し次第、全員でこの周囲四箇所を閉鎖し、少数の機械兵とイゲールに突入させ、前後から挟み撃ちにするのが今回の作戦だ」

「だが、どれほどの出口が何処にあるかまでは把握できていないんじゃないの? もしかしたら敵が全然別の場所から出て行ってしまうかもしれない」

「我々には今ある情報で動くしかない。不測の事態が起これば、その時は個人の判断で対処しろ」ストリクスは席を立つ。「各自準備をしておけ、今夜中には敵の隠れ家を発見できるはずだ」

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