卒業までのカウントダウン 【月夜譚No.115】
夜食にと作ったおにぎりは、無駄になってしまった。寝惚け眼の視界に入った皿に、咄嗟にそんなことを思った。
重たい頭を持ち上げ、自分の下敷きになっていた机の上を見ると、途中まで読んだ本がページを開いたままぺちゃんこになっていた。どうやら、資料を読んでいて、そのまま寝落ちしてしまったらしい。
欠伸を漏らして、うんと伸びをする。癖のある長い髪が頬を擽るので、軽く手で払う。
昨晩の内にこの一冊は読んでしまいたかったのに、まだ半分も読めていない。時計を見遣ると、本日最初の講義までまだ時間はあった。だが、寝惚けた頭で読んでも身にはならないだろう。
彼女は資料を読むのは諦めて、おにぎりの皿を手に取った。あわよくばこれを朝食にと思ったのだが、ラップもしていない米粒は表面が乾燥して、確実に美味しくはないと訴えている。
彼女は溜め息を吐くと立ち上がり、皿をそのままシンクの中に置いた。少し考えてから、鞄に資料を突っ込んで身形を整え、家を出た。
駅前のコンビニでパンでも買って、余力があれば資料を読みながら大学で読もう。暢気にそう考える彼女の卒業論文の完成は、まだまだ先になりそうだ。