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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

両極性メイデン

作者: 黒うさぎ
掲載日:2020/02/14

「南田さん、進路調査表まだ出していませんよね。

 今日の放課後までに私のところまで持ってきてください」


 凛とした声に視線が集まる。


 冷ややかな瞳をした彼女、北野深雪は一方的にそれだけ伝えると自身の席に戻ってしまった。


「……委員長は相変わらずだね。

 もう少し言い方ってものがあるでしょうに。

 ねえ、陽香」


「あはは。

 まあ、忘れてたあたしがいけないんだし」


 友人の指摘に陽香は苦笑を漏らした。


「まったく、陽香はお人好しすぎ。

 もう少し怒っていいと思うよ。

 なんか委員長、陽香にだけやけにあたりが強いし」


「そんなことないよ。

 それよりほら、お昼早く食べちゃお」


 不満そうな友人をなだめ、弁当を口に運ぶ。


 人懐っこい性格の陽香と孤高の存在である深雪。

 周りから見たら2人の関係は対極の存在に映るのだろう。

 陽香としてはそんなことないと否定したいところだが、なかなかそうもいかない。

 ずっとこの関係でやってきたというのもあるし、それに……。


 ままならない現状に対する歯がゆさをお茶で流し込んだ。


 ◇


「いいんちょー、進路調査表持ってきたよ」


 西日の射す静かな教室で、一人机に向かっていた深雪に声をかけた。


「放課後までとは言ったけど、いったいこんな時間までどこで油を売っていたのかしら」


「ごめん、ごめん。

 ちょっと話すだけのつもりが、つい盛り上がっちゃって」


「……ふん。

 あなたにとって私との約束はその程度のものなんでしょうね」


 深雪は陽香から視線を逸らすと、再びシャーペンを動かし始めた。


「そんな怒らないでよ、いいんちょー。

 ほら、この通り」


「別に怒ってなんかいないわ」


「どう見たって怒ってるじゃん。

 ほら、こっちを向いてよ~」


「……」


 ついに反応すらしてくれなくなった深雪に対して肩を竦める。

 仕方がないので、いつものように深雪の席と向かい合わせになるように机を動かして座る。


「……名前」


 陽香が自身の鞄から教材を取り出したところで、ようやく深雪が言葉を漏らした。


「はぁ。

 ねえ、深雪。

 あたしとしてはみんなの前でも「深雪ぃ~!」って呼びたいんだけどな。

 そうすれば、きっとみんなも深雪のことを恐がらなくなると思うんだけど」


「私は陽香さえいてくれれば、他の人なんてどうでもいいわ」


「そう言ってくれるのは嬉しいけどさあ~。

 私はみんなに深雪のことを嫌いになってほしくないし、深雪にもみんなと仲良くしてほしいよ、やっぱり」


「でも……」


「大丈夫だって。

 みんな悪い子じゃないからさ。

 ちょっと言葉を柔らかくするだけでも全然違うと思うよ、ね」


 しばしの間考える素振りをした深雪であったが、「……善処するわ」とそれだけいうと机に視線を戻した。


「それ、絶対変える気ないじゃ~ん」


 背もたれに体を預け、天井を仰ぎ見る。


 深雪が大切に思ってくれていることはわかる。

 だが、それと同じように陽香も深雪のことが大切なのだ。


 今の深雪とクラスメイトの関係が、健全なものだとは思えない。

 どうにかしなくてはと思う。


 しかしながら、この問題が解決しないのは陽香の側にも問題があった。

 現状の深雪を一人占めできる環境を、陽香は心地よく感じてしまっているのだ。

 深雪を独占したい。

 その思いが、深雪に対して強く出ることを躊躇わせていた。


 深雪も陽香の独占欲を感じているのだろう。

 だからこそ、今の関係を変えようとしない。


「そういえば、どうして提出が遅れたのかしら。

 私と同じ大学に行くのでしょう?」


「ああ、それ。

 だって提出しなければ、教室で深雪から話しかけてきてくれるでしょ。

 こうでもしないと、絶対に自分から話しかけてきてくれないし」


「そんなことのために提出しなかったの?

 相変わらずやることが子供じみてるわね……」


「なにを~っ!

 深雪だってあたしが他の子と話してるだけで、すぐに焼きもちやいて拗ねるくせに」


「べ、別にそんなことないわ……」


「嘘つけ~!

 目を逸らさずにこっちをみろ~」


 さっと身を乗り出すと、両手で深雪の頬を挟み無理やり視線を合わせる。


「ちょっと、止めなさい」


 抵抗する深雪を無視して、そのまま自身の額を深雪の額に合わせる。

 焦点も定まらないような距離で静かに視線を重ねる2人。


「……好きだよ」


「……私も好きよ」


 重なる影を夕日が染め上げた。





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