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高校生がクラス召喚された!?でも俺だけ別ゲーだった。  作者: Rafale
第2部第1章「軍靴の音が……」
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第3話「いい音でしょう? 余裕の音だ。馬力が違いますよ」

第2部第3話1回目

…………


統一歴1903年

11月2日

午前5時10分

陸軍参謀本部 

戦務局

鉄道部

 


「…あぁ、朝か」


『王都で戦死者が出るとすれば、それは鉄道部からであろう』


 ドーソン陸軍参謀本部戦務参謀次長が語ったこの言葉が、彼らの置かれた状況を端的に言い表している。


 そもそもルーメリア王国陸軍の基本戦略は『火力優勢ドクトリン』である。


 その達成には中央本軍の迅速な鉄道輸送と膨大な兵站輸送が不可欠であり、それゆえ、王国陸軍は兵站と編制を担当する戦務局の中に「鉄道部」と言う、戦時には国内の鉄道ダイヤ、車両配置、果ては新規軌道敷設までをも司る組織を設け、優秀な人材を配置しているのだった。


 だが、騎士王国が再戦の準備をしているという情報を得てから王国軍が準戦時状態に入り、予備役の部分的な動員や常備役部隊の訓練強化、中央本軍の前方展開、武器弾薬の事前集積を開始すると予想外の問題が発覚した。


 必要輸送量が統一歴1896年に策定された作戦平坦輸送需要予測の想定を遥かに上回っていたのだ。


 これは思いの外輸送中の破損が多く、訓練などの配備中の自然消耗が想定の5倍以上に登ったためだ。また、重装備の中央本軍所属師団は作戦兵站輸送需要予測が策定された時と比べ必要な貨車が370両から844両にまで増加していたことが挙げられる。それだけ『国家総力戦』、すなわち、『物量の戦い』における兵站の重要性が大きかったのだ。


 これにより、従前の物動予測は全くあてにならない状況となり、前線で必要とされる物資を手持ちの車両で運ぶため、まさに芸術的と言って差し支えないほどの鉄道ダイヤが必要とされるに至る。


 ちなみに、これは常設されている鉄道、いわば『本線』に限った業務内容である。


 これに加えて本線から最前線に伸びる、あるいは作戦上の必要から臨時的に引かれる『野戦軽便鉄道』の建設計画、それ用の蒸気機関車や貨車、客車の手配、――標準軌とメートルゲージでレールゲージが違うから、本線の車両を使うことは不可能である ――とダイヤ編成に石炭の確保、保線計画、ゲリラによる破壊作戦への対策の立案と言うお仕事もある。




 さらにさらにさらに!


 目下検討を行っている騎士王国再侵攻作戦『オペレーション・ラグナロック』の兵站計画の立案と関係各所への調整というお仕事がある。鉄道の敷設計画と保線計画、警備計画、輸送計画を作成し、想定される許容軸重の低さから地盤改良工事を行う必要があり、陸軍工兵軍団司令部と鉄道部隷下の鉄道連隊との調整を行い、ルーメリア国鉄と鉄道車両メーカーと車両を調達するための交渉、輸送に必要なダンボールやパレット、コンテナという梱包資材の調達を行いそれを保管するための倉庫の建設計画を策定し、競争入札の準備がある。


 ああそうそう、これだけの事業ともなると、補正予算の編成が必要だろう。財務省や会計監査院、軍経理局との折衝も発生するだろう。


 …はっきり言おう。業務過多である。


 無論、人員も可能な限り増やされ、平時200名だった部員は戦時における参謀本部人員配置計画で設定された800名の増強をすでに行い、追加で300名の増強を行っているのだが、それでもなお足りないのであった。また、機械式計算機が60台ほどとタイプライターが400台ほど配備されているが、小手先の業務効率改善策では全く手が回っていなかった。


 だが、実は……


「…いや、これでも昔よりはマシかもしれんぞ」


「これでも…でありますか少将殿?」


 鉄道部最古参大佐(鉄道部の急速な膨張により、目下戦争中ではないにもかかわらず野戦昇進が相次ぎ、『少将たる大佐』なる臨時階級が新設されている)の発言に、冒頭のセリフを言った少佐は震え上がる。


 これより酷い状況などありうるのだろうか、と。だが、そんな彼の内心など露知らぬ先輩はこう続ける。


「ああ、一編成当たりの牽引可能量が10年前のざっと4倍だからな。10年前までなら、この4倍のダイヤを作らねばならんかった」




 少佐が絶句した。今の4倍の編成!? 物理的に不可能だ! と。


「その意味で我々はアーペント侯爵には足を向けて寝られんな。とりあえず今日は、今日は家に帰れそうだからな。少佐、さっさと仕事を終わらせようではないか」


「は、ハッ!」









 牽引量の倍増。そのいきさつを語るには、時計の短針を7000回ほど巻き戻す必要がある。


 時に、統一歴1892年12月。後世の歴史家や量産工学の人々から高く評価されることとなる、ある一つの命令が発布された。







 ___武器規格統一令。これにより、ルーメリア王国軍は世界に先駆けて武器の画一化、大量生産を成し遂げるわけだが、その中にこのような文言がある。


「列車砲については整備計画を凍結し、予算等は野戦重砲兵の機動力改善および自走砲開発配備に振り分けることとする」


 この文言に驚き、有り体に言ってパニックを起こした一つの会社がある。




『クルップ重工業』


 言わずと知れたルーメリア王国の隣国にして同盟国である帝国を代表する重工メーカーである。鉄鋼・化学・鉄道・軍事の分野において帝国産業界のトップを走る有名企業であり、その軍事分野は大口径火砲のリーディングカンパニーであり、ナンバーワンにしてオンリーワンな企業だ。


 武器規格統一令の内容を読んだ同社の経営陣は、自社のビッグ商品が売れなくなることを恐れた。運の悪いことに、ルーメリア王国とのタフな交渉の末に、帝国陸軍に24両が調達された巨大列車砲『パリゥースパ砲』を改造した『ケーニッヒ・パリゥースパ砲』の開発及び6両の販売契約に基づき、工場設備の改修__つまり設備投資をしたばかりであった。


 せっかくの設備投資が無駄になるどころか、不採算部門になってしまう!


 1890年営業利益の145%に当たる販売価格の『ケーニッヒ・パリゥースパ砲』の販売を前提に1892年上半期営業利益の97%を設備投資をしたルーメリア王国軍超巨大長距離列車砲販売計画は、失敗すれば列車砲部門のみならず、会社そのものが破産してしまうような事業規模となっていた。


 慌てた同社はルーメリア王国陸軍にアポイントを取り、緊急協議の開催を要請するとともにリスクマネジメントについて考える領域横断タスクフォースをCOO直轄に編成した。


この手の官僚相手のやり取りは、通常それなりの時間を要する。だからこそ領域横断タスクフォースを作り、再発防止策を検討しようとしたのだが……




 ……なぜか、委員長人事に手間取っている間にセッティングされることになる。困惑する同社をさらに困惑させたのが、この時ルーメリア王国側から伝えられたこの一言である。


「協議の場に蒸気機関車製造部門の人間、出来れば技師職を帯同してほしい」


 クルップ社は、先ほども言ったが鉄道部門を持ち、その営業実績は世界に冠たる我らがクルップというスローガンが嘘ではないと言えるほどである。いや、むしろその技術的土台があったからこそ、数々の列車砲を生み出せたとも言えよう。


 ただし、列車砲自体はレールの上を自走する動力を持たない。つまり蒸気機関車とは製造部門からして異なる。首を傾げるクルップ社の人間だったが、大口ユーザー(なんたって新型列車砲の研究費に6両の本体販売価格、訓練サポート、整備支援プログラム、中核技術情報開示費用、砲弾製造技術習得支援プログラム、独自改修許可、5年間の包括整備支援アセットのプロジェクト全体利益はクルップ重工業の連結利益7年分にあたる)でもある王国陸軍の要請である。言われた通り、協議の場に蒸気機関車製造部門のベテラン技師を連れて行った。


 開口一番、クルップ社は王国政府、陸軍の決定に重大な懸念を表す。


 曰く、『技術開発とは日々の積み重ねである。ゆえに、少数試作でも列車砲を造り続けなければその技術は失われてしまい、いざ超強力な列車砲、重列車砲が必要な時に造れないと言う最悪の事態を招く』と。だが、王国陸軍の回答は、クルップ社の人間を凍り付かせるものであった。



『そもそも、列車砲は強力な火砲を搭載できる反面、その展開に長時間を要し、作戦終了までに展開が完了しない場合が大半である』


『シャングリラ作戦の実績や昨今の研究の結果、その時間を使って大規模な砲兵隊を展開させた方が効果的であるとの結論に至った』


『また射程距離についても、現在実用段階にある空軍爆撃隊の行動半径が既に400キロを超えており、今後も伸長が見込まれる。長射程列車砲の必要性は薄い』


『たしかに要塞を破壊しうる重量弾の発射のため、重列車砲が必要かもしれない。しかし、その様な砲を必要とする要塞は現状、セバストポリのみであり、作戦能力の向上が続く海軍の戦艦部隊に任せた方が良いと判断した』


『また、所詮は地域大国でしかないルーメリア王国がプロイツェン帝国が配備するモノよりもさらに強力な重列車砲を調達配備するのは周辺諸国に対し、軍事的緊張を強要するものであり、かえって安全保障環境に深刻な悪影響を与える恐れがある』


『以上のことから、列車砲は不要であり、列車砲部隊編制委員会も解体する』


 それでもなお食らい付こうとするクルップ社営業部長であったが、そんな彼に、ルーメリア王国陸軍は強烈なパンチを叩き込んだ。曰く、『産業やら技術の保全は帝国の役割であって俺らの仕事じゃねぇ!』とのことだ。


 ルーメリア王国陸軍の野戦騎兵将校服を来た女性将校____ッ!!!!???


 なんと、その女性将校は金色の二重線と2つの星が刺繍された階級章を肩に着けていた。つまり少将の位にあるということだ。左胸には名誉勲章をはじめ陸戦殊勲十字章、独立殊勲十字章、一級殊勲章、二級殊勲章、銀星章、青銅星章、善行章、従軍章などの略綬がずらりと並ぶ。二級殊勲勲章と銀星章は複数回受勲を示す刺繍が4つ付き、陸戦殊勲十字章は3つ、一級殊勲章と青銅星章は2つついている。そのどこに出しても尊敬される軍歴に圧倒される。


 技能章を見ると、体力、射撃、保守格闘、ナイフ格闘、サーベルのすべてが特級で、一般自動車、大型二輪、航空機の操縦資格を持ち、レンジャー、爆発物処理、狙撃、野戦情報将校、無線特技、戦闘潜水、水陸両用基本課程、洋上潜入技能、艇長、爆撃誘導の特殊技能を取得していることを示している。


 従軍章は第4次ルーメリア独立戦争を始め第5次ルーメリア独立戦争、ダゴン会戦、その後数々の継続独立戦争における重要な局面に従軍。継続独立戦争終盤のシャングリラ作戦第1軍集団作戦機動集団従軍章、ノーザンブリア包囲戦従軍章、ランドルフ条約出席章、戦後の第3次バルカン干渉戦争従軍章、キプロス独立蹶起鎮圧作戦従軍章と期間は短いながらも十分に英雄と言えるだけの戦歴の持ち主だ。


 ここまでな伝記ができるレベルの英雄的な兵士ということで終わるが、王国自由戦士勲章のメダルはどういうことなのだろうか。王国自由戦士勲章は『王国の独立と臣民の生命と財産、尊厳を守り抜いた』者に与えられるルーメリア王国最高位の勲章であり、時のルーメリア国王直々に授与する唯一の勲章でもある。現時点の受勲者は97名であり、そのうち89名は小銃とヘルメットが受勲している。つまり戦死者に与えられる。さらに生存者の内4名は文民に与えられているから、存命中の軍人は4名だけにになる。その中で女性と言ったら……ッ!!??


「ま、まさか!!???」


 思わず出てしまった声に、その女性将校は肯定の意を示した。だが、彼女はメッセンジャーに過ぎないのだという。そんな事が出来るのはA類戦犯として軍刑務所に収監されている予備役陸軍中将ただ一人だ。


 とんでもない大仕事に関わることになりそうだ。お思いながら手渡された技術情報が記載されたノートを検分する。


「これは新型蒸気機関車の設計資料ですかな?」


「ええ、その通りです。現在、北ルーメリア重機械工業で開発中ですが御社の列車砲製造ノウハウが必要です。このプロジェクトは完成すれば5000両の発注が行われることになっています。それに加え、帝国国有鉄道や諸外国への輸出を合わせれば1万4000両程度の量産になると考えています。今回の損失も十分に回収可能だと思いますが」


 その蒸気機関車の目標性能は5800馬力だった。JR貨物の電気機関車がおおよそ3300馬力大であることを考えればいかに化け物かわかるだろう。その輸送力は4編成で1個機械化師団を平均時速100キロメートルで展開させること。としている。まさに『軌道上の化け物』と呼ぶにふさわしい計画であった。


 その設計のベースになっているのはガーラット式と呼ばれるいわゆる関節式蒸気機関車と呼ばれるグループに属する形式だった。


 そのコンセプトは、『610㎜の狭いレールゲージでそれなりに強力な蒸気機関車を走らせる』である。だが、コンベンショナルな設計では不可能な要求だった。なぜなら、コンベンショナルな『動輪の上にボイラーが乗る』と言う方式ではボイラーを大きくすると動輪にめり込む。コンピューターゲームではなく現実である以上、その様な構造体を製造することは不可能だ。これを避けようとボイラーを上にあげると、今度は重心が上に来過ぎてしまい、特に狭軌鉄道だと横転の危険が高まる。


 __「大きなボイラー」と「重心の低下」この2つを「狭軌」で両立するにはどうすればよいのか?


 無理難題のように思えて割と簡単なのだ。簡単だからこそ誰も思いつかないのだ。人間工学が戦闘機にのみ使われ、現代人からすれば『うっそだろお前! これじゃ、絶対事故るだろ!!!???』と言う感想以外出てこないやたら四輪自動車に寄せた操作系のオートバイが多数開発されたのもその操作系が当たり前すぎて誰も改良しようと思わなかったし、改良案が思い浮かばなかったのだ。


 話を戻そう。その割と簡単な答えだが、「動輪」と「ボイラー」を別々にしてしまえば良いのだ。これには列車砲を参考にしたと開発者は述べている。だからクルップ者の人間をこの場に引きずり出したのだ。


 「動輪」と「ボイラー」を分離したことで、お互いにお互いの干渉を受けなくなった。付け加えると、前後にそれぞれシリンダーを備えているため前身と交信で同じように動かせる。つまり転車の必要がない。それはつまり、鉄道と言う全体のシステムを見たうえでコスト削減につながるのだ。


 ただ、どうしても前後長が長くなるという欠点があるが、そこは前後の足回りはそれぞれ左右に首を振る機構を備えることで解決した。これにより、むしろ従来の機関車よりもカーブに強くなった。


 ……ここまではいいことだらけなのだ。問題は、


「しかし……」


「何か問題があるのかね?」


 クルップ社の技術者が難色を示し、それをクルップ社の営業部長が聞く。


「これでは構造が複雑になってしまいます。もちろん、設計の自由度の高さを否定するほどの欠点ではありませんが」


 そう、この形式の泣き所はそこにある。本形式は前後に4つのシリンダーを備えている。いや、これ自体は特に問題ないのだ。と言うのも当時、既に帝国内の各機関車メーカーともに4気筒蒸気機関車製造実績を十二分に有していた。とある資料によれば、当時帝国国内で運行中の旅客用蒸気機関車約1000両のうち、85%が4気筒型(!!??)、3気筒型が14%を占めたと言う。


 つまり、日本の蒸気機関車のような2気筒型は1%しかなかったのだ!!


 地球でのプロイツェン帝国の元ネタの一つである、ドイツ帝国及びナチスドイツでは国内鉄道の統一後、機関車の単純化を強硬に主張したリフャルト・ワグナーが技術局長に就任したことで、ドイツの蒸気機関車はほぼすべて2気筒タイプに置き換えられてしまったのだが、それ以前はむしろ4気筒型の天国だったのである。


 またもや話がそれてしまったため話を戻すとしよう。


 だが、本形式は従来の4気筒とは全く異なる配置となる。適当にググって概略図を見つけてよく見てほしい。シリンダーがどこにあるのかを…。


 そう、シリンダーが『左右に首を振る台車』に取り付けられているのだ。つまり、蒸気供給管にコンベンショナルタイプでは不要だった可動性や伸縮性が求められ、さらにボイラーからシリンダーまでの距離も増大しているから、その間に蒸気が冷えて結露することも避けられない。


 これらの様々な問題のクリアには、高度な技術が要求される。21世紀の人間からすれば、労働安全衛生法で定められる資格勉強では自由接手ぐらい出てくるからそれでいいだろう? と思うかもしれないが、まだ19世紀なのだ。工業規格と言うモノが欠片ほどしか存在しない世界なのだ。そもそも上記のワグナー氏が掲げた単純化の一つに部品の規格化があるぐらいだ。この時代は職人が部品のすり合わせを行う必要がある。


 そのせいか、帝国国内の機関車メーカーでこれらを造るところは少ない。同じ関節式蒸気機関車の「マレー式」は史実においてヘンシェル社でそれなりの数が作られることになるのだが、この時点では間接式蒸気機関車自体の概念が存在しない。




 そう言った事情から、言葉を濁すクルップ社の担当者であったが__







「…まぁ、無理にとは言わない。ただ御社への発注が無くなるというだけで__」


「直ちに検討いたします!」






かくして『クルップ=ルーメリア式』の開発がスタートすることとなる。





二人は帰社するや否や、技術職に招集をかけ、北ルメーリア重機械工業へ送るチームの辺背に着手する共に、技術資料の読み込みと考察、問題点の洗い出し、自社が培ったノウハウとのすり合わせを行った。クルップ重工業としても社の命運がかかっている。


 開発完了後は2社共同製造するのだが、その時にせっかく更新した列車砲用設備が使えると言うのも大きい。成功すれば帝国国営鉄道からの発注増が待っているのも大きい。


 これには、プロイツェン国営鉄道の内情も大きく関係していた。そもそもプロイツェン国営鉄道は統一歴1888年、帝国内にあった複数の鉄道会社が統合して設立された組織であり、企業統合や合併をした企業が共通して抱え込む問題を有していた。社員数の多さと、設備の多さである。特に後者は保守整備やダイヤ編成の観点からも可及的速やかに解決したい問題であった。


 この点、ギャレット式は従来機2台分のシリンダー出力を有する、つまり同じ貨物量なら半分の保有台数に出来、転車も不要だから人員や機関車の整理にもうってつけの蒸気機関車だと思われたのである。


 そういう訳で、社運をかけた一大プロジェクトは進められた。


 検討を進める中で、クルップ社と来たルーメリア重機械工業の合弁会社「中央ヨーロッパ鉄道車両製造」の技術陣はガーラット式の設計自由度の高さに驚くこととなる。上記の通り、この形式は動輪とボイラーが別々になっていることからお互いの設計に干渉しない。コンベンショナルタイプであれば、動輪とボイラーがお互いに干渉しあう事になるがそれがほぼないのである。


 実例をあげれば、「メートルゲージなのに、ボイラー直径は2284㎜で動輪直径も1372㎜」と言う化け物も存在する。言うまでも無く、これは従来型配置では逆立ちしても出来ない所業である。


 さらに足回りの自由度に着目した、来たルーメリア重機械工業の技術営業職が天才的なひらめきを出す。


「うちで生産している大衆車の様にボイラーのような基本となる部分を1タイプ用意しておいて、それ以外は大量のオプションで顧客の注文にこたえる方式はどうだろうか?」


 誠に素晴らしきひらめきであった。かくして『化け物蒸気機関車をまるで大衆車のごとく大量販売する変態集団』と呼ばれるようになったのである。20世紀終わりごろに極東の島国で発売されたコンピューターゲームが流行ると、『世界最古の変態企業』と呼ばれるようになるのもある種当然と言えた。


 そして、これが実現できれば、ボイラー部分の量産化により低価格が達成され、そこに顧客の要望に合わせてそれ以外を選択するオプションパーツと言う、今までにない効率的で、販売価格を抑える生産方式がとれるではないか!!??


 量産試作担当の技術者たちは直ちに準備に取り掛かり、ルーメリア国営鉄道向けの量産初期ロット16両を納入期日の7カ月前に全車納入するという驚異的な量産能力を見せつけた。




 また、ボイラー部分を担当したチームはクルップ社の協議で渡された技術資料とは別のノートを同じ女性将校__レシア・アーペント陸軍少将から受け取っていた。そこにかかれていたのはキャメルバック式蒸気機関車等に採用されるウーテン式火室を基にさらなる改良を施した。


 このウーテン式火室は『細かく砕かれた無煙炭を燃やすのに適している』という経済的に優れた特性を持っていた。この細かく管から多無煙炭と言うのはこの時代では所謂産業廃棄物と言うモノであった。要は金を払ってでも処分してほしいものであった。


 このウーテン式火室はデカすぎて通常の蒸気機関車に搭載できないという欠点を有していたがやろうと思えばかなり大きくできるガーラット式では特に問題にならなかった。子の化け物をボイラー設計チームは更なる改良を施した。通用の石炭だろうが薪だろうが、石油だろうがなんでも燃やせる汎用火室に再設計したうえで自動給炭装置を標準化した。


 これは、ルーメリア国営鉄道の発注予定数が5000台であり、オプションで7000両と言う大規模発注を予定しているためだ。どう考えても機関誌や機関助手の育成が間に合わないし火室の面積が燃焼効率改善のために約17平米と人力投炭がほぼ不可能(一般的に人力で刃4平米が限界とされている)であったためだ。もちろんオプション扱いで、自動給炭装置を取り外して人力とすることもできたが、ほとんどのユーザーは購入後しばらくすると自動給炭装置を追加装備することとなった。


 この自動給炭装置には様々な問題がある。一つは、故障したときにどうにもならなくなるという問題だ。(実際ドイツであった)これに関しては強力なブレーキで解決された。(と言うよりも解決したことにされたが、その後凄惨な事故が発生することになる)二つ目の問題は、自動給炭装置を使う上で、石炭を最適なサイズにする必要があるのだが、この時に細かいチリの様な微細な石炭が発生し、それが沿線火災につながる可能性だ。これに関してはウーテン火室そのものがそういったものを燃やすためのモノであったため問題ないとされた。


 次に、石炭を蒸し焼きにして一酸化炭素ガスを発生させてこれを燃焼させるガス化燃焼システム(GPCS)とキララセパレータの採用である。これらの採用により従来の機関車が熱効率4%台で優秀とされていたのが8%と倍増した。さらに、開発チームは独自の改修を行いペチコートと言う円筒を設置し、より効率的な排気を目指した。また、ボイラーの大型化に伴いトンネルなどで余り高さを取れないため、煙突を3つ並べて配置し、煙突効果を高める設計がとられた。


 ここまでは、エサカ=アーペント特務予備役少佐(当時)が執筆した技術資料にかかれていたのだが、帝国最高の重工メーカーを自称するクルップ重工業の技術者が暴走し、更なる魔改造を加える。……と、言ってもやったことは単純。


「機関車の前後を入れ替えた」


 それだけだ。所謂キャブ・フォワード式と言うモノだが、これにより煙突が運転台より後方に来るため前方視界が良好になるというメリットがあった。これはガーラット式では車体長が長く、前方視界が悪くなりやすいためだ。その解決法として運転台を前方に持ってきたというわけだ。


 ただし、キャブフォワード式にも弱点があった。問題となったのは石炭をくべる給炭作業だ。だがこれは自動給炭装置によって解決された。先述の通り、ルーメリア国営鉄道は急速な拡大の結果、機関誌や機関助手の育成が明らかに間に合わないため、自動給炭装置は必須とされていたためだ。かくして、初期生産ロットはルーメリア国営鉄道専用として、自動給炭装置を使わないモデルは作らないことにより一応の解決を見た。その後、クルップ重工業の技術者が単独で改良モデルを作ったことで、根本的な解決を図ることとなる。


 とされていたが、実運用の結果、その弱点はほとんど問題がなかった。ガーラット式をバック運転すればほとんど解決できるのだ。ということでクルップ重工業単独での改良モデル設計はお流れとなり出力向上型モデルの開発に注力することになる。


 ただし、このままで、運転室に強風が吹き荒れ、風邪との戦いになってしまうため、運転台前方の給炭車を運転台に固定することで運転台を密閉し、逆にベンチレーターを設けるほどに密閉性が増した。


 以上の鉄道オタクひいては蒸気機関車間ににとってよだれを拭くことを忘れる。…あるいはそれが間に合わなくなるようなロマンオブロマンが完成した。1895年に納入された量産初号機は3800馬力を達成した。その後、蒸気損失の改善など様々な改造を施したことで、1903年の最新ロットでは5900馬力を達成した。さらにルーメリア国営鉄道に圧力を加えた結果、自動連結器が採用され、牽引可能重量の大幅な向上にも成功しているため、2編成で重装備の機械化師団を輸送可能で線形改良により平均時速130キロメートルで輸送可能となっていた。


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