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高校生がクラス召喚された!?でも俺だけ別ゲーだった。  作者: Rafale
第9章「シャングリラ作戦第3段階」
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第8話「戦後」

第9章第8話「戦後」

……………


 統一歴1892年7月18日。世界に激震が走った。欧州最強の陸軍を持つとされてきた列強の一角である騎士王国が所詮は地域大国でしかないルーメリア王国に屈したのだ。たしかに、独立以来幾度となく騎士王国軍の攻勢をはじき返してきた。だが、前年度より、中隊規模の部隊が前線より約700㎞も後方の首都ノーザンブリアに浸透し、王宮施設に殴り込みをかけたり、あらゆる戦術が無意味になるほどの圧倒的な砲爆撃の援護の元、全ての戦線で20キロ以上もの前線を押し上げ、黒海沿岸では海岸線を包囲の一部とし、13個師団を包囲殲滅した。さらに、海上機動による後方撹乱や主力艦による沿岸都市の殲滅攻撃、空挺部隊による後方浸透とそれによる司令部襲撃、急降下爆撃という新しい航空戦術、首都ノーザンブリアへの核攻撃、迫撃砲と浸透戦術による塹壕戦の突破、鉄道ではなく自動車による補給活動など研究すべきトピックが多すぎた。これだけで十分驚くに値するし、各国の観戦武官はレポート地獄を味わっていたし、そのレポートを基に新しい戦略などを生み出す参謀本部もブラック企業が裸足で逃げ出すレベルの超過労状態へと陥っていた。


 だが、最近その化けの皮がはがれてきたとはいえ、仮にも列強に名を連ねる国家が高が地域大国に敗れたのであった。それも誰がどう見ようと圧勝と言える形で。騎士王国軍は開戦時戦闘可能状態にあった全ての野戦師団(つまり、錬成中であったり再編中であったり、戦闘目的以外であったりを除いた数字である)の内、西部国境配備師団の4割に当たる120個師団が開戦72時間以内に組織的戦闘能力を喪失し、第1軍集団がノーザンブリアに到達するまでに80個師団が壊滅していた。全戦線の報告を合計すると230個師団が壊滅している計算となる。いまだ180個師団を有しているが、そのほとんどが南部(西/中央アジア)東部(シベリア)に所在する部隊であり、装備も劣悪であった。そして何よりも、騎士王国の鉄道網は貧弱であり、東部配備の部隊を移動させるためには単線のシベリア鉄道1本に全て負担させるほかなく、南部配備の部隊はアフリカ植民地政策の対立により連合王国の縦断政策と共和国の横断政策、帝国の三角政策との間に微妙な緊張が走っており、これだけでも相当めんどくさいのに、騎士王国の不凍港政策により参入したたため、バルカン半島以上に弾薬庫となっており、とてもとても引き抜けるような状態ではなかった。


 また、予備役の動員に関しても、兵役期間が25年もあり、予備役の層が極めて薄いことに加え、資源地帯や工業地帯、交通の要衝がルーメリア王国によって占領されているか破壊されつくされているかのどちらかであったため、動員できないし、仮にできたとしても装備を用意できなかった。


 主戦派はまだ戦えると訴えたが、上記のような状況では戦う術は残っていなかった。また、騎士王国が大敗したことを受け、植民地や地方では反乱の動きを見せており、ここで戦争を長引かせることは自滅への道でしかなかった。


 かくして、騎士王国は講和条約を結ぶに至ったのである。


 騎士王国の講和条約署名は本来、騎士王国の首都ノーザンブリア王宮で行われる予定であったが、核攻撃で立入禁止区域に指定されたため、カーングラードの沖合に停泊した戦艦ランドルフ艦上で行われ、ルーメリア王国軍の将官たちと外務省の閣僚と官僚たち、そして現ルーメリア王国国王が出席した。


 事実上の降伏文書調印という屈辱的な外交を、行う騎士王国側の出席者は幸いにも戦火を逃れた騎士王国臨時国王オルクマルク4世(元皇太子)とその側近の6名に護衛の近衛騎士2名であった。父をはじめ多数の閣僚や部下を切り札として頼りにしていた召喚者リン・エサカによって殺害され、わずかに生き残った近衛騎士やメルキャッツの武装侍女たちもその兄によって行われた首都への戦略的核攻撃によって蒸発してしまった。そのため、行商人に扮して脱出を図った9名以外はほぼ全滅していたのだった。


 結局、騎士王国はたった2人の兄妹によってズタボロにされたのであった。そのため、騎士王国ではソ連における日本製のバイクのように黒上黒目の兄妹と言う組み合わせは忌み嫌われ、逆にルーメリア王国ではアフガニスタンにおける日本製バイクの様にありがたがられるようになった。


 講和条約の内容は以下の通り。


1.騎士王国はルーメリア王国を独立国として承認すること。


2.騎士王国は戦時捕虜の身代金として800万金ディナールを支払う事。


3.身代金は各種資源などの無償提供によって相殺可能とする。


4.不要な国境紛争を回避するため、両国国境線より15㎞の地域を非武装地域とする事。


4-2.同地域の治安維持のために国境警備隊及び国家警察の配備を許可する。


4-3.国境警備隊及び国家警察の組織・人員・走尾美・教育・その他は別途締結する国境非武装地域治安維持兵力制限条約において決定すること。


5.不要な軍事的緊張を回避するため、両国国境線より25㎞の地域に永久要塞の建設を禁止する。


5-2.臨時要塞の建設を認めるが、2カ月以内に移動或いは完全解体すること。


5-3.臨時要塞の建設及び移動、完全解体は相手国に事前通達し、相手国の監査委員を受け入れる事。


6.騎士王国がバルト海に配備する艦隊規模を縮小すること。


6-2.主力艦は10隻以内、合計排水量は20万トンまでに制限される。


6-3.主力艦の基準排水量2万トンまでとする。主力艦の主砲口径は38センチ未満に制限する。


6-4.補助艦艇は主砲口径8インチ以下のクラスA巡洋艦4隻、主砲口径6インチ以下のクラスB巡洋艦4隻、主砲口径5インチ以下、魚形水雷10発以下、基準排水量1200トン以下の駆逐艦20隻に制限する。


6-5.戦艦、クラスA巡洋艦、クラスB巡洋艦、駆逐艦の各艦艇は航空機を各2機まで搭載可能する。


6-6.航空機を3機以上搭載する艦艇は航空母艦と定義し、その規模を基準排水量2万トン、主砲口径8インチ以下10門以下、魚形水雷発射装置10門以下に制限される。また、航空母艦は軍備制限より漏れた戦艦や巡洋艦などからの改装を10席以下であれば承認する。これには改造開始3カ月前にルーメリア王国政府に通達すること。


6-7.は沿岸警備及び海洋利権保護用の艦艇に関しては別途締結する沿岸警備用艦艇規定に合致するもののみ軍備制限とは別に15万トンまでの整備を許可する。


7.騎士王国及びルーメリア王国はボスポラス海峡及びマルマラ海、ダーダネルス海峡を非武装化すること。詳細に関しては世界会議隷下の国際海峡委員会が管理するモンスール条約と同様である。


8.騎士王国は陸軍の軍縮を行い、欧州正面配備の野戦師団は30個師団に制限される。


8-2.野戦師団の定員は1万2000名に制限される。


8-3.野戦師団の平時定員は4000名に制限される。


8-4.野戦師団に配備される火砲の定数は合計100門以下に制限される。


8-5.野戦師団に配備される機関銃の定数は合計60挺以下に制限される。


8-6.野戦師団に配備される車両の定数は合計800両以下に制限される。


9.騎士王国は参謀本部及び士官学校の創設を禁止する。また、既に編成されている部隊は2年以内に廃止すること。


9-2.新兵教育及び集合教育など軍人に対して行われる教育の内、安全保障政策、外交政策、軍事戦略、心理学、地理学、気象学、弾道学、衛生学、行政学を6カ月以内に廃止しなければならない。


10.騎士王国は装軌式戦闘車両、航空機、化学兵器、10㎝以上の火砲、ロケット砲の研究・開発・製造・配備・運用を禁止する。


10-2.騎士王国で行われている航空工学、自動車工学、電子工学、機械工学、化学工学、軍事工学の教育を6カ月以内に廃止しなければならない。


11.騎士王国はバルカン半島への干渉を直ちに停止すること。


12.上記各項目が達成されるか確認するため騎士王国はルーメリア王国軍の国内駐留を認める事。また、駐留負担金として年間10万金ディナールを騎士王国に収める。これは身代金と相殺可能とする。


13.騎士王国及びルーメリア王国は別途締結される武力紛争における児童の権利保護に関する条約、商船を軍艦に変更することに関する条約、大量破壊兵器による絶滅的破壊活動の制限に関する条約、戦地における傷病者の待遇改善に関する条約、公海上における要救助者相互救命に関する条約、捕虜の待遇に関する条約、航空戦力の将校直接指揮に関する条約、条約署名国間における不必要な突発的な武力紛争の局限化尽力に関する条約、紛争当事国にたいする特定の軍事転用可能な物資提供を制限する条約に署名すること。


14.騎士王国とルーメリア王国、中立国より同数の裁判官を受け入れ、国際戦争犯罪法廷を開催し、両国の区切り泣く戦争犯罪人を公平にさばくこと。


15.騎士王国とルーメリア王国は共同で「戦災復興支援機構」と「戦災復興支援基金」を開設・運用し、速やかな復興に協力すること。


16.両国間の関係改善の為、合同戦争被害者慰霊式典を行う事。


17.上記の達成状況を監査する国際停戦監視委員会を世界会議安全保障理事会隷下に設置し、これを受け入れる事。


 この講和条約は国内外で驚きをもって受け止められた。何故なら、事実上、現物賠償と駐留負担費用で相殺してしまい、賠償金を一切支払うことなく完済できてしまうからだ。これに国内の新聞社は『王国は歴史に残る圧勝を成し遂げたのだからきちんと賠償金を貰うべきだ』と社説を掻き立て、世論を誘導しようとした。事実、王立中央大学の教授を含む8名の教授らより『七博士意見書』のようなものが提出されたほどだ。まぁ、外務省と国防省は共同で『我々は机上の空論ではなく、砲弾備蓄量(75㎜以上の砲弾は2000発程度しか残っていなかった。これは1個師団が2時間ほどで使い切ってしまう量であった)と相談しているのだ』と日本よりもさらに苛烈な反論をしているのだが。


 だが、騎士王国は既に賠償金支払い能力はない。シャングリラ作戦開始前から財政破綻寸前であった彼らにまともな賠償金支払い能力は期待できなかったのに加え、閣僚や完了がほぼ全滅し、2つの都市が完膚なきまでに壊滅している現状を考えると、しぼり取ったところで大して取れにばかりか、恨みを買うだけだと判断されたのだった。


「復興がうまくいかないのは賠償金の支払いのせいだ」


 などと思われ、ヴェルサイユ条約で途方もない額の賠償金を請求されたドイツが、ナチスの台頭を招き、第2次世界大戦を引き起こしたようなことにはなりたくないのであった。


 せっかく戦争が終わったのに20年後に再軍備宣言を行い、そこからさらに3年後に最後通牒を突きつけられたらたまったものではない。


 第6、第8、第9条及び第10条は一般市民にはスルーされたが、各国軍事関係者はここまでするかとドン引きした。これでは条約無効化したところで再軍備には相当時間がかかるであろうことが容易に想像できた。ドイツ国防軍の不死鳥のごとく復活を見たからこそ規定できるものであり、生き残りの召喚者たちは、『あ…これ、絶対ルーメリア王国上層部に地球人がいるわ』と思った。


 また、第13条から第16条も驚きをもって受け入れられた。第13条は、騎士王国の再軍備を著しく制限するものであり、それら条約に対応させようとした場合、後方支援部隊の増強が不可欠であり、平時においては民間登録を行い、戦時にそれなりの質の装備を急増させるという日本やドイツが行った持たざる者の常とう手段を制限するものであると認識された。


 第14条は最大の驚きだろう。『歴史を作る(プロパガンダ)』のは賠償金と並んで戦勝国の権利として認識されている。勝てば官軍負ければ賊軍と言われるように、勝者が何をしてもいいのはこれがあるおかげだ。そして、ルーメリア王国はこれまで、カーングラードは戦時国際法の穴をついてジェノサイドを行っている。ノーザンブリアにおいても事前に中立地帯や病院地帯の設定により、民間人は事前退避しているという法的解釈を可能としたが、民間人居住地域で戦闘お行ったのは事実である。また、たった1発で都市1つを壊滅させられる広域殲滅魔法を使用し、100万以上の人々を犠牲にしている。これももちろん、退去勧告を発令しているため法律的な保護義務はないのだが、公平にさばくとなると、この戦争の英雄であるシロウ・エサカ陸軍上級大将(ノーザンブリアの事実上の攻略成功により陸軍大将へ昇進したのち、戦勝により軍港の再評価が行われ、陸軍大将昇進8時間後に陸軍上級大将に昇進した)は死刑判決を受ける可能性があった。


『自国の英雄を犯罪者にする』


 これがどれほど難しい事か? 例えるのであれば、プライス大尉に国際指名手配をかけるようなものだろうか? 彼の活躍と献身を知っているものからすれば、それは暴挙と言うモノだ。軍の士気にかかわる大問題である。だが、それを一番に主張した者は被告人であった。彼の信念と認識されたそれは後々映画化されるほどであったが、退役後の2054年に発売した回顧録では全否定していた。では何が真実なのだろうか? それは分らない。








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