第3話「真打登場」
第9章第3話「真打登場」
……と行けばいいのだが。というのが書く前の率直な思いであって、本当に登場するのは次話にもつれ込むかしれない。何しろ海戦は1話でまとめる予定であったのだから。またないと言い切れない。というあきらめを抱きつつ書いている。というかこれから書く。(前書き終わり)
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王宮に直接乗り込んだSRCのオペレーター達は熱烈な歓迎を受け、難戦を強いられた。……等という事実はなく、誰にも歓迎されなかった。…否訂正しよう。正確にはツーマンセルの保障に何度か遭遇し、その都度処分しているのだが、それを歓迎の範疇に入れていいわけがなかった。
後続のヘリ部隊が第241軽歩兵連隊(何と全員レンジャー持ちである)が展開し、降下地点を起点にじわじわと占領地域を広げていった。実を言うとこの時点で、面倒な召喚者たちはほぼ全滅していると言っていい、全27度に及ぶ召喚よって2239名が召喚されたが、そのうち追跡できているのは1875名。内1202名が騎士王国から他国へ亡命、278名がルーメリア王国軍特殊部隊によって暗殺されている。残り395名は騎士王国軍の一部として参戦し、全縦深同時打撃の前に蒸発してしまっていると推定される。この追跡にはのじゃ神が教えてくれたことであるからして間違いはほぼあり得ないと言えるだろう。残り364名が所在不明であるが、ルーメリア王国情報省の調査によりそのうち最低80名前後は騎士王国によって処刑されているのではないか。という報告がなされている。
戦場とは優秀なものから死んでいくものである。全縦深同時打撃は優秀だろうがそうでなかろうと構わずそのすべてを粉砕させていくものであるが、戦場に配置されたということは優秀である証拠であり、わざわざ特殊部隊に暗殺されたということはそれだけ厄介であるということであった。また、追跡できていない364名は『正直、追跡するまでもない』と情報省が匙を投げるほどの使えなさを持っているものとどうも召喚早々処刑或いは監禁されているようだ。と判断したものが大半であり、本当に徹底的に隠ぺいされているものは皆無であった。これにはルーメリア王国の領土が大きく影響しているといえよう。
ルーメリア王国を地球の国家で例えると、ポーランドの東側半分、リトアニア、ベラルーシ、ウクライナの西側3分の2、ハンガリー全域、ルーマニアの8割程度。これがすべてであった。そして、この領土と領土の能力はどうもリンクしているようであり、例えば地球で言うところのルーマニアを募兵担当区とする第17・22・54連隊区の練度や士気はすさまじく低い。
その、ルーマニア地方であるが大きな利点がある。ゆうしゅうなちょうほういんを多数輩出していることだ。それはもう優秀な諜報員らしい。なんでも、騎士王国軍高官の嫁が諜報員だったりすることもあるらしい。そういえば特亜連合加盟国の一つに東洋のルーマニアと呼ばれる国があるが、むしろその国と長年休戦状態が続いた分断国家のもう片方の方がそれっぽいことやっている気がするな。まぁ、男という生き物は酒・金・女のどれかで身を崩すらしいから自分の地域の特色を生かしたその生き残り戦術も間違えではないどころか最適解ではある。だが、誰が首都まで押し込まれている状態でも正確な情報をすっぱ抜き、それを迅速に伝えるほどの能力を持てと言ったのか?
__情報省通達・ノーザンブリア攻撃厳禁地点一覧。そう銘打ったリストにはルーメリア王国の情報資産が書き込まれている。例えば、侯爵当主クラスが足しげく通う高級娼館とか。初期の作戦計画において包囲が始まる前に情報省エージェントは全員退去する予定であったのだが、情報省はこれを拒否した。理由は『戦闘において最も重要な軍事情報の適切な提供が行えないのは耐えがたき苦痛である』と言っていた。その啖呵に恥じぬ貢献をしてくれたわけだが、そろそろ本気で危ないとして退避することに同意してくれたのだ。もはや、活動の中核拠点である高級娼館が存在する歓楽街は戦闘エリアであり、客入りなど期待できないからであった。その脱出支援を行うのは第201混成機甲旅団より抽出した予備部隊の1つであるが、回収のために進発した直後に緊急通報があった。曰く『南西方面軍隷下にあったメルキャッツ及び転生者部隊の一部が騎士王国に向け進発していた模様。時間的に王宮にいてもおかしくはない』
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場面をSRCに戻そう。歩哨以外に敵と遭遇していないのは言うまでもないことであった。だが、城内のどこを探してもいないというのはおかしい。近衛兵だけではない。使用人も含めて誰一人としていないのだ。流石におかしいと思いつつ、謁見の間に入った瞬間、彼らは理解した。なるほどこんなものがあるならば誰一人いないはずだと。
<<グミ! 情報省より緊急報告! 南西方面軍より転生者部隊が着ている可能性大! 警戒しろ!>>
「こちら、グミ。もう遅い。……既に遭遇している。アンタの妹に」
そう、謁見の間にいたのは通信のあいて、江坂志郎の妹である江坂凛とニャルラトホテプとしか言いようのない気持ち悪い生物。……いや、あれは生物なのだろうか?そして、その邪神が補職している人間達。…あれって国王じゃないのか?
「クッソ。…HQ、こちらSRC。騎士王が死亡している。早期講和どころか国そのものがなくなってそうなんだけど。HQ、そのまま垂れ流す。切らないように。……それで? これは説明していただけるのかしら?」
さすがに、冗談きつい。これが偽るざる感想であり、絶対勝てないだろうという予感がした。現有戦力で対処不能。ならば、増援到着まで粘るしかない。
「高木さん? あんた何やっているの?」
向こうも、時間稼ぎに乗ってくれるようで何より。もしかしたら、隣の化け物の補給タイムが終わればパワーアップするかもしれないけど…。ともかく、生存戦略第1段階はクリアできそうだ。
「それ、私が聞いているんだけど。…まぁいいわ。見てわかる通り、亡命してルーメリア王国軍に志願したのよ。……さあ、答えたわよ。そっちはどうなの?」
知り合いのネゴシエーター曰く、出来るだけ穏やかに、相手を怒らせないようにが鉄則らしい。額に垂れる脂汗で気持ち悪い。背中にも緊張で汗びっしょりだ。絶対に選択肢を間違えるな。間違えたら一巻の終わりだ。
「…本当に見たまんまね。まぁ、答えても問題ないし答えましょう。ちょっとした兄妹喧嘩をしようかと。ちょうど兄も近くに来ているようなので。さっさと呼んできてもらえませんか」
兄妹喧嘩で街が吹き飛ぶかもしれなかった? 冗談言わないでよ。街どころか国ごと亡ぶわよ。
「……それで、お兄さんをここに呼んで何をする気なの? まさか、仲良く親睦を深めようなんて言わないわよね?」
そうよ。喧嘩するほど仲が良い。方面で行きましょう。…絶対違うけど。
「…あの『仲良く親睦を…』って意味かぶってますよ。…はぁ、まあいいか。何方が上か? それを決めるだけですよ。地球では両親に止められてできなかったので」
うっさいわね! …いけないけない。ここで激高したら、その瞬間私の人生が終わっていたかもしれない。…とにかく、生存戦略第1段階がクリアできそうな今、第2段階の段取りもしないと。
「……できれば、この世界でもやめてもらいたいというのが、一人の小市民としての意見なのだけど……。私にも任務と言うモノがある。一つだけ確認させてほしいのだけど。よいかしら?」
説得においては、犯人の要求を素直に実現する用意があると見せかけることで、自暴自棄な行動を抑制する方法もあると聞いた。
「私としては、何方が上かはっきりできるのであれば、他に望みはありませんが?」
だからと言って、ラグナロクだかハルマゲドンだかが目の前に現れることを狂できるはずがないでしょ!?
「私たちの任務は騎士王以下、政府および軍の高官の拘束なの。誰か生き残りはいるのかしら?」
そんな、はかない願いは所詮はかない願いに過ぎないのであろう。ただ、今すぐにでも戦争を終わらせないと王国が財政破綻しちゃうのよ。お願いだからだれでもいいから、最悪片腕と目と口だけ残っていればいいから誰かいて!!!???
「いませんよ? 何か問題でも?」
あるに決まってるでしょ! 誰と講和条約を結べばいいのよ!?
「そう……。私は、貴方のお兄さん直属の部隊に所属しているの。直通の専用周波数が割り当てられている。此方のお願いを聞いてくれたら、その無線機を渡す。いつどこでやるかそれで打ち合わせをするといい。此方も自衛を除き、手出ししない」
本来であれば支援すべきなんでしょうけど、地獄に突っ込むほどお人よしではない。
「…はぁ。私としては、白黒はっきりさせられるのであれば文句はありませんが、何ですか? 聞くだけ聞いてあげましょう」
なんだかんだ、時間稼ぎと情報収集に付き合ってくれるだけマシだ。会話以前に意味のある言葉をしゃべらない敵もいるぐらいだし……。あぁ、今現在視界の中にいたか……。
「それはよかった。一つ、なるべくルーメリア王国軍に被害を出さないこと。ただし、これは此方が明らかな敵対行動をしない場合に限る。二つ、明らかな敵対行動とは直接的な殺傷行為とする。三つ、1つ目を遵守するためにルーメリア王国軍が安全地域に退避する必要十分な時間を置くこと。…以上。何か追加要求は?」
ど、どうだ…? やばい、何かよくわからない存在感が増している。チビリそう…。
「…特には。ただ、此方が有利すぎやしませんか?」
……どこか、致命的にかみ合っていない会話。これをどう処理すべき? 目的以外何もかもどうでもよいタイプの狂人とするべきか? そう思わせる事で思考を誘導しようとしているのか? それとも、ただただ純粋に有利だと思っているのか? …もはやどれであっても答えを探す意味はないように思える。ならば、義理を果たさなければならない。
「大丈夫よ。此方の要求を呑んでいただいたことだし、此方も無線機を渡すわ。…近づきたくないから投げるけど」
投げ渡された無線機を難なく手に取り、久しぶりの兄妹水入らずの会話を楽しむ妹。ここだけ切り出せばほほえましい一コマなのだが、軍用無線機で現役陸軍中将と大量殺人者が怪しい笑みを浮かべながら今後の殺戮(巻き添え被害がすごそうだ)行動に対して話し合う。と事実を基に湾曲させてみると何ともまぁ……。な光景ではある。その光景を前にして、表向き動揺を見せない私も捨てたもんじゃないのかもしれない。