第2話「ブラックホークダウン?そのネタはもうやったので結構です」
第9章第2話「ブラックホークダウン?そのネタはもうやったので結構です」
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「諸君! 第1段階は成功した! これにより司令部は第2段階の発動を決定した。私たちの出番よ。全員忘れ物がないか確認の上、ヘリに搭乗!」
『『『応ッ!』』』
バイパー混成大隊じわじわとではあるが確実に制圧エリアを増やしつつあり、中立地帯と病院地帯の猶予時間終了により民間人はいないと断定されたエリアが有効化したこともあり、その戦闘は民間人被害に気を使ったものから怪しいものは全て吹き飛ばしてしまえと言わんばかりに揚陸したばかりの24榴を水平射撃でぶっ放したり、独立臼砲連隊を借り出したりなど都市区画ごと瓦礫の山に変換する作業が進んでいる。
また、バックス、スピア両中隊戦闘群ももっとも外側の新市街地(平民街、冒険者街、庶民向けの商店街や市場などの商業地区が存在する)をほぼ制圧し、その内側の第2城壁を超えて、旧市街地(高級住宅街や百貨店などが立ち並ぶ富裕層向け商店街、下級貴族の邸宅が立ち並ぶ王都外周貴族街等が存在する)を3割ほど制圧していた。
なお、市街地奥深くに入り込んだ混成機甲中隊戦闘群が手痛い反撃を食らうのはよくある事であるが、敵の本格的な反撃の前にすたこらっさで仕切りなおすことを繰り返しているため、そこまでの損害はない。精々が装甲版に瑕がついた程度である。まぁ、所謂スピアヘッド戦術をするためにいろいろと犠牲にした部分があるが今回は問題ないらしい。
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『降下5分前! 各員降下準備!』
第180特殊航空大隊所属のUH-60Mとそれにに分乗する特殊即応中隊は既にルーメリアの空となっているノーザンブリア上空を飛んでいた。上空に侵入しているというのに降下地点まで5分もかかるとはどんだけデカいんだ……。と思うかもしれないが、思いのほか貴族の邸宅が大きいのだ。
公爵家や侯爵家、辺境伯家の邸宅は総床面積が平均して950平米、3階建てが多く、その建蔽率は6%程度という驚きの贅沢空間が60ほど存在することやそれには劣るものの総床面積200平米、建蔽率20%前後と言う下級貴族の邸宅が400以上存在する。確かにそれだけデカい家が中心部に集中していれば同心円状に敷設された城壁もデカくなり街もデカくなるであろう。まあ、それでなぜそんなに時間がかかるのかという疑問の答えは町がでかいから。…というよりもスラム街がでかすぎるからであったりする。
実を言うと騎士王国は首都周辺の制空権を包囲された時点ではなく、ほとんど開戦と同時に失っていた。理由は第15戦隊所属の対地攻撃隊がワイバーン飛行隊を地上撃破し、わずかに生き残り、離陸に成功したワイバーンを叩き落したためである。この時対地攻撃隊の装備機はソードフィッシュであった。地球において、優れた操縦特性と離発着艦性能、空中戦以外は何でもできると評された汎用性を有し、雷撃はもちろん急降下爆撃も可能な「傑作機」と呼ばれたそれは__。
「まさか、あの超絶鈍足機に制空戦闘が出来ると思わなかったよ」
__等と言われるほどにワイバーンをバッタバッタと堕としていった。考えて見れば当然と言えるかもしれない。ワイバーンの巡航速度はおおよそ70ノットであるのに対してソードフィッシュは90ノット。十分追従可能な速度差であり、その運動性能は戦闘機以上のものを有していた。200機もそろえた戦闘機は(まぁ、騎士王国軍の航空打撃戦力は過少と評価され極めて少なかったが)速力290ノットという高速が災いし、後方を取ったとしてもフラップを最大まで展開し、主脚も展開することでかろうじて撃墜に至るまでの十分な時間を捻出していたのであるが、練度の関係上それでも機関砲弾が命中する前に追い越してしまうという事例が多数報告されているのに対して攻撃機であるはずの、しかも艦上運用のためにわざと低性能の鈍足機を選択したのに易々と撃墜してしまった。
まったく何が起こるか分かったものではない。海軍、そして空軍の将校からしたらそんなとこだろうか。戦場とは何が起こるかわからない。だからこそ実戦証明が必要なのだが、閑話休題
ゲームの様に制空権確保というのは本来あり得ない。航空偵察とは地上偵察を比べ物にならないほどの速度を有しているからこそ強力なのであって、本気で隠蔽された目標を見つけ出す能力はそれほど高くない。一応、無人偵察機には赤外線捜索装置があるものの、発見された赤外線放射が隠蔽された軍事目標なのか、狩猟などで野宿中の民間人によるものなのか、それともゴブリンやオークの村落であるのかは判別できない。
米軍ですら開戦直後に巡航ミサイルと圧倒的航空戦力によって防空レーダーと防空指揮所、空軍基地を破壊し、ほとんど全ての第一戦機を地上撃破に成功したのに『圧倒的な航空優勢』としか言えなかったのである。それよりも質量ともにはるかに劣るルーメリア王国軍が例え、一都市とはい絶対的な制空権確保を宣言できるかと言うと神をも恐れぬ傲慢というほかない。
<<こちらスーパー4-3、方位1-1-5より竜騎兵。数4。正対!>>
『こちらSRC! 作戦司令部へ! 竜騎兵1個小隊がこちらに向かっている。直ちに要撃してくれ!』
<<此方作戦司令部。SRCの要請を確認した。直ちに戦闘空中哨戒中の1個飛行小隊を向かわせる。コールサインは“フェアリー”現着までおおよそ600。幸運を祈る>>
ふざけるな! 600などカップラーメンを作って食べて手片付けるまで掛かるではないか!? 頭に血が上るのを自覚しながらも深呼吸をし気持ちを落ち着かせる。……よし。多分大丈夫。やっとナノマシンの戦闘状況制御システムが効いてきたのか落ち着いた。
「パイロット! 回避は可能なの?」
「無理です! 位置が悪く、どう飛んでも容易にブロックされてしまいます」
速力70ノットは複葉機よりも遅いとはいえ、兵員や武器弾薬類を満載したヘリコプターにとってはかなり早い。__1ノットはい時間に1マイル(1852メートル)を進む側であるため、ノットを時速何キロに換算する際はおおよそ2倍弱と覚えておけばいい__70ノットはおおよそ130㎞であったはずだ。対して、ヘリコプターの速力はかなり軽量な状態で後先考えずに全速で(緊急出力という意味ではない)飛行したとしても東北新幹線よりも遅い程度でしかない。まあ、端的にって複葉機となかなかいい勝負が可能な程度でしかない。その複葉機がちょうどいい速度差と言っているワイバーン相手に滞空時間を延ばすために限界まで搭載した燃料と、キャビン側面上方のドロップタンク外側にハイドラ70ロケット弾19連ポッドやヘルファイア対戦車ミサイル4連ラックなどを搭載したうえで、追加の装甲版と、歩兵用の弾薬を多数積載したブラックホークは離陸重量ギリギリであった。これは、開戦直後に上空の絶対的な制空優勢を獲得している。という慢心によるものだったがともかく、過加重状態のヘリコプターが振り切れるかと言うと微妙なところであった。
「なら仕方ないわ。全機、右に回頭! ワイバーンをぶちのめすわよ」
「まさか、こんなことになるとは!」
「はん! アンタ、空軍から引き抜かれたときには俺はエースになりたっかのだ! と駄々をこねてたじゃない。世界初のエースヘリパイロットよ。何が不満なの?」
イエロー3隊が装備するブラックホークは汎用ヘリコプターであり、地上目標を積極的に撃破するために多数のミサイルやロケット弾を搭載した攻撃ヘリコプターでなければ、対低速目標撃破用にサイドワインダー等を装備する偵察観測ヘリコプターでもない。だが、ブラックホークのドアガンとしてM134Dが搭載されている。創作物の中ではハインドすら倒すこいつは、降下地点確保のために搭載されているものであるが飛行生物如きなんとかなるであろう。
「目標、飛龍! 機関砲射程内、射撃開始!」
「発砲発砲発砲!」
左側のガンナー、交戦資格を持つロードマスターがM134Dミニガンの射撃ボタンを押し、発砲。
それに合わせるように、イエロー3各機がほぼ同時にミニガンを発砲する。数十発に1発の割合で紛れ込む曳光弾が飛龍に吸い込まれるように命中し、____
___硬い鱗にはじかれる。この世界の住民からすれば半ば常識の様なモノであり特に不思議の思わないものであるが、地球生まれ、地球育ち、当然地球の生物学的常識をもつグミからすればおかしいというほかない現象であった。ミニガンの射撃は樹齢何百年の大木すら伐採可能(それこそ、世界で最も美しいロケット打ち上げ場の隣の島にある大木すら可能だろう。そんなことをしたら世界中から非難されるだろうが)である。では、重力と言う枷から解放されることのない飛行生物が(骨の内部が空洞になっているなどゼロ戦以上の軽量化に腐心しているのが鳥という生物である)よもや3000ジュール以上の膨大なエネルギーを持つ銃弾の連続射撃を防げるはずがない。と考えるのは無理もない。
「クソ! やっぱり効かねぇーぞ! ガトリングを用意しろ!」
「了解!」
もし、騎士王国が戦車を用意した時の備えとして、7.62㎜以上の火器を用意していた。保険であるためその弾数は少なかったが、こんな時のためのものであるため、その使用に躊躇はない。
「発砲!」
瞬間、イエロー3-7の右側ドアガンがM134Dとは比較にならないほどの火力を吐き出した。
___GAU-19。3銃身のガトリングガンから吐き出される12.7×99NATO弾の暴風は、無慈悲に飛龍の鱗を綱抜いていく。
グォォォォァァァァアア!!
飛龍は悲鳴を上げた。銃としては最大級の暴虐性を有するそれは麻薬取締用にも使用されるらしいが、さすがに密輸しようとするプロペラ機を撃墜したことは無いだろう。恐らく初の対空目標の撃破であるはずである。
ミニガンよりもさらに重い銃声が信じられない速さで響きわたり、まだ熱い空薬きょうが床に転がる。だが、飛龍に対して有効打を与えうる攻撃性を有しているのはイエロー3-7。ただ1機のみであった。当然であるが、生き残りの3機はそれに対して集中砲火を浴びせる。
「うぉ! アブねぇーなおい!」
『プー!プー!プー!』
「こちらイエロー3-7!左エンジン不調! 右エンジン緊急出力! 悪いが積み荷を降ろしたら全速で帰るぜぇ!」
その弾速はひどく遅いとは言え、異なる方向から3条もの射線の十字砲火を浴びれば熱でエンジン異常が発生するぐらいのことはある。15カ月かけてみっちりと緊急対応手順の練習をしていなければ、そのまま墜落していただろう。東側ヘリコプターを参考に改修した最新鋭の高強度改良型ギアボックスでなければ、緊急出力が発揮可能な時間は精々が15分ほどであった。だが、このブラックホークはなんと47分の発揮が可能であった。任務を十分に果たしてからの帰投でも十分な時間が確保されていたのである。
12.7×99NATO弾は飛龍の頭を食い破り、ミニガンの7.62×51NATO弾は、竜騎士を引きちぎり、力尽きた飛龍は龍騎士とともに地上へと墜落した。
「ふう……」
空戦が終わった直後イエロー3-7のパイロットが額に付いた汗を拭いたのは言うまでもないことだ。何度練習しても緊急出力と言うモノにはなれないな。そう思ったが、後は積み荷を降ろすだけだ。さっさと終わらせて、いつ墜落するかわからない彼女を地上に卸してあげる事にしよう。そう思ったのだった。
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バラバラバラバラバラ……とローター音と吹きおろしを起こしながらイエロー3各機がタッチダウンしSRCのオペレーターたちを地上に下す。この時が一番無防備であるが、上空にはリトルバードとそのスキッドに足を乗せた狙撃兵が周辺警戒をしている。此方に向けて銃を撃とうとする騎士王国軍を遮蔽物のはるか上からズタボロにしてくれるだろう。