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第6話「パーフェクトゲーム」

第8章第6話「パーフェクトゲーム」

……………



「居ました!距離13000! 戦艦3隻!」


 そんでまぁ、現状はきはきとしゃべっていることから分かる通り、乗船しているのは彼らであり、麻薬も消費されていない。もちろん、見張り員としての仕事をこなすためにまともな思考力も存在する。当然、反乱を企てたことも一度や二度ではない。そして、わざと発見報告を黙っているということを考えたことも一度や二度ではない。ただ、その場合被害を被るのは自分も同じだということに気づき、実行に移したことは無い。反乱に関しても、企てることを前提に服務環境を整えているため成功できないとして諦めている。


 そんな背景がありつつも、見張り員たちはシッカリと仕事をしていた。だが、致命的な間違えをしていたことには本人含め誰も気づかなかった。


 敵艦との距離は、マストの一番上に設けられた見張り所にいるエルフ族の見張り員によるものだ。先述の通り、エルフ族は距離感覚に優れるため、測距儀を使わずとも距離が分かるため見張りには重宝される存在であった。というよりも測距儀と言うモノがない。ただ唯一存在する弩級戦艦は武装の配置をパクったものであって、射撃管制は相変わらずエルフの視力と距離感覚に頼ったであった。


 当然、艦隊旗艦に配属されるような人員は奴隷のエルフ族含め熟練のモノであった。それはつまり、見えたものをの距離を簡単に推測できるのだが、今夏はそれが致命的なミスを呼んだ。


『見たものとの距離を推測する』

 こう書くと何を当たり前のことをと思うが、手の届く範囲ならともかく、ある程度距離が離れると人は知っているものとの大きさを比較して距離を測っている。


 例えば、100メートル先に段ボール箱が置かれたとき、それだけだと大きさや距離はいまいちわからないが、その横に白と黒の多面体のボール……つまり、サッカーボールだ。が置かれていた時、サッカーボールそのもののサイズ差と大きさでおおよその距離と大きさを判別する。


 その後、段ボールだけ置かれて距離を聞かれたら、ほとんどの人は同じ大きさに見えれば100メートルと答えるのではないだろうか?






 ……それが例え、200メートル先に置かれた倍の大きさの段ボールだとしても。


 その程度な気付けよと思うかもしれないが、(都会の体力自慢たちは一駅(十数キロ)ぐらい歩けよ。等と妄言を平気でのたまうのだから、その程度の差は一目瞭然であるはずだ)10キロ以上離れれば? そのぐらいの距離になってくれば夏場の都会であればヒートアイランド現象で色々と見えずらくなってくるはずである。(実際修学旅行ぐらいでしか都会に行ったことないので知らないが。え?名古屋県?まだ、引っ越してきて1カ月ぐらいしかたってないからよくわからないのだ)よくもまぁ、そんな地獄で生活しようと思うよな。と思わずにいられないが、重要なのはそこではない。


『戦艦の全長は120メートル前後だ。あれは敵の戦艦だ。つまりあの大きさに見えるということはだいたい13キロぐらいである』


 彼らが距離を導き出した計算式はそんな感じであった。ただ、ランドルフ級戦艦は改設計や近代化改修の影響で180メートルにまで大型化していた。つまり、実際には50%程サイズを間違えていたのだ。本来の正しい相対距離は19キロぐだいであった。


 そして、さらに致命的なこととして、ルーメリア王国が、というよりも王国の召喚者たちが本気を出さなければランドルフと同形式の(ドレッドノート級)戦艦の就役は10年以上先であった可能性が高いのだ。それはつまり、ピストルショットが主流の時代であり、戦艦の最大射程は10キロ。有効射程は7キロぐらいが限界である。それ故、艦橋の高さもそれに準ずる見通し距離を有する程度のモノであった。まぁ、人間様を基準に作られているのでエルフが見張り員をしている限りもっと遠くを見通せるのだが……(あれ、もしかしてエルフ族はOTH視認能力を持っているのか?)それに対して、ランドルフ級戦艦の最大射程は射程の長い軽量砲弾(ロングシェル)で22㎞であり、威力の大きい重量砲弾(ヘヴィーシェル)でも15㎞であり、有効射程は重量砲弾でも10キロであった。戦艦から飛び立った急造傑作機(OSF-1)や陸上基地より飛びだった司令部偵察機が第15戦隊所属の6機の戦闘機に護衛されつつ弾着観測任務を行うことで遠距離砲撃戦の命中率は高い。さらに、弩級戦艦では前提条件であり当たり前以前の事ではある射撃管制装置の搭載が、騎士王国軍の前弩級戦艦にはされていないのである。また、主砲仰角引き上げ工事もされていない。


 さらに、蒸気レシプロの騎士王国軍と最新の重油専焼蒸気タービンでは発揮可能な戦闘速力がまるで違う。


 ワンサイドゲームは最初から決まっていたのである。


「距離を一気に詰め、全門一斉射撃だ!陸軍の連中に我らは違うと言ってやるぞ!」


「全艦、右逐次回頭!」


 2人の艦隊司令官が命令を下すのは同時であった。


「は?」


 それを見た艦隊の全員が一瞬、何をしたいのか理解できなかった。


 __敵前大回頭。まだ射程外だとは言え、何のための戦術艦隊行動なのかよくわからなかった。


「さらに敵! 右前方、距離12キロ! 巡洋艦多数!」


 だが、恐らく、此方の目を右に向けることで左から迫る水雷突撃部隊を隠す意図だったのであろう。そう理解した。だが、それは間違いであったらしいことに気が付く。いや、脳がそれを理解することを拒んだ。なぜなら、それとほぼ時を同じくして、旗艦の周辺に轟音と共に4つの水柱が立ったのである。


「至近弾だと……? この距離で?」


 何とか声を出すことに成功したのだが、それでも意味のある言葉であるもののこの状況でそれを言ったところで意味がある発言ではなかった。


 初弾で至近弾を出すのは並大抵の練度でなければ不可能で、さらにそれを可能とするためにはすさまじい豪運が必要である。もっと言えば所詮は至近弾であって夾叉したわけではない。まだまだ修正弾が必要とされた。結局、夾叉を出したのは第14射であった。この時、相対距離は9キロメートルとなっていた。


 この時点で、騎士王国軍も距離がおかしいことが分かってきた。なぜなら、既に有効射程(相対距離7キロ)に入っているはずなのにまるで射程外であるかのように全てが近弾であるためだ。とはいえ、やっと遠弾が出始めた。恐らく運が悪かったのであろう。ということになった。


 だが、この時、騎士王国軍にとって致命的な決断がされれた。重量砲弾への弾種変更である。


 修正データを引き継いだ射撃は第3射目にして再びを夾叉引き出し、交互撃ち方から斉射に切り替えた。


 第5射目にして7つの水柱がバルチック艦隊の旗艦の周辺に生じた。つまり、1発は命中した。


 当初、僚艦達は再度夾叉したものの、また外れたと思った。しかし、命中した1発はいともたやすく主砲天板装甲と装填機構、揚弾機構、主砲弾薬庫、主砲装薬室天板装甲を貫通し、160発分の大量の装薬を巻き込みそのエネルギーを開放した。


 その威力は、全部主砲塔直下でキールをへし折り、船体横隔壁に亀裂を生じさせ、ボイラーを破損させた。また、キールをへし折るほどの衝撃であるため、大量の浸水を生じさせた。それだけではまだ何とかなる。数千機の空母艦載機に襲われて前方主砲より前を切断されても生きて帰ってきた日本の駆逐艦があるぐらいだ。まだ何とかなった。問題は加圧されて100度以上になった水とそれどころではない高温の水蒸気が、浸水で流れ込んできた20度にも満たない海水がぶつかったことだ。


 __水蒸気爆発。発生した現象を説明するのは一瞬だが、それによって発生した光景を説明するには私の能力は足りていないとしか言えない。以後半世紀にも及ぶ騎士王国海軍不遇の時代はここから始まったといえるだろう。


 この後、司令官不在のバルチック艦隊が降伏に思いいたるまで、或いは火事場のバカ時からで拘束を解き、艦を制御化に置いたエルフ族たちが必死にシーツを振るまでに戦艦9隻と巡洋艦22隻が犠牲となった。


 このような大戦果に対してルーメリア王国側の損害はゼロであった。これは、ランドルフ級戦艦(弩級戦艦)を生み出したルーメリア王国海軍が初めて行う本格的な戦闘言うこともあり各国に注目されていたが、トラファルガー海戦以来の、いやそれ以上のパーフェクトゲームとして驚愕させた。


 何はともあれ、騎士王国海軍はバルト海での作戦能力を完全に喪失し、ルーメリア王国海軍が制海権を完全に掌握したのである。この先にどのような洋上作戦を行うかは想像するに難しくないだろう。


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