第5章「決戦前」
第8話第5章「決戦前」
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「そろそろのはずだが……」
現代戦において索敵とは人間によるものよりも機械によって行われるものが主である。レーダーに赤外線探知装置、軍事衛星、無人偵察機など、地上や海上、空中などではそのようなものが主でり、先進国の軍隊では夜間の歩兵戦闘においても赤外線などを可視化する暗視装置が大々的に活用されている。また水中においてもいまだソナーマンがヘッドセット付け、音紋を聞き取ることをしているが、高度にバイマルチスタティックソナー化するとともに徹底的なシステム化がなされ、戦闘管理用サーバーに保存された音紋データーベースと機械的に照合されるようになっている。(尤も、機械だけではわからないことがいまだに存在するためソナーマンは少なくとも今世紀中に淘汰されることは無いとされている)
このように高度に機械化された索敵システムと目標補足情報すら共有可能なデータリンクが各国軍に配備されているため、一国の軍隊が、或いは多国間共有データリンクを整備できている国家間でセンサークラウドが構築されている先進国の軍隊においては人の目による監視というのは完全に淘汰されているわけではないにしろ、その役割はクラッキングなどによりシステムに深刻な障害を受けた場合の予備。という地位でしかない。
さらに、電離層による電波の反射現象を利用した超水平線レーダーの一般実用化により、日本の防空レーダー監視域が新ソ連のウラル以東、旧中華人民共和国領、統一亜細亜同盟機構、インド・ペルシア連合にまで広がった。これは西アジアを除くアジアほぼ全域の航空機の動向を常時監視できるものであり、ICBMやIRBMの警戒用として配備されたものであり、その対象は第3次世界大戦時のやけっぱちで発射されてしまったDF-21対艦弾道弾やその後の韓国崩壊時のどさくさで、『少しでも日本を害することが出来れば』という身勝手な理由で拡散した玄武Ⅳ型IRBMなどであった。
こういった、技術力の成果は判別能力や認識能力はともかく、遠隔探知能力においては人間の追従を全く許さず、艦橋見張り員何て代物は気象観測や自爆特攻ボート対策以外ではもはや意味がなくなってきている。その、自爆特攻ボート対策もAICICでエリコン35㎜を乗せたRWSのオペレーターが行うことになって、ついでに操舵手も艦橋から先進統合型戦闘指揮所に移って、艦橋がレーダーと通信装置、電子戦装置を置くだけのものになり下がった事もあり、艦橋は小型化の傾向がある。
ただ、そんなびっくりドッキリメカじみた超絶科学チート装備はこの時代には幸いながらない。そのため、Mk.1アイボールセンサーが唯一存在する索敵手段である。ちなみに、そのMk.1アイボールセンサーであるが、地球のそれよりも優秀であった。少なくとも裸眼視力8.0と噂されるアフリカの某部族出身とかでなければだが……
具体的に言うと、騎士王国内部で飼育されているエルフ族の奴隷である。彼ら彼女らの平均裸眼視力は6.0であり、距離感覚にも優れるという優秀さを持つ。その優秀さはロングボウと合わせることで無類と強さを発揮し、製鉄の発明によりロングボウが無意味になった後も亡命した召喚者提供されたコンパウンドボウによって数個軍団が血の海を形成した。そのため、一時期エルフたちの間では『林道は野蛮人どもの血で舗装されたり』などと、どこかで聞いたことがある言葉が流れたという。
だが、悲しいかな。人間とは基本的に持たざるものなのである。人間は肉食獣の様に何もにも打ち勝つ牙を持っていなければ、ウサギの様に脅威から逃げる素早さも、キリンの様に早期警戒が可能な身長を有しているわけでもない。だが、その幼児生存率まで見た包括的な繁殖力の高さは他の追従を許さない。そして、直立二足歩行や道具の使用、火の使用、言語の発明エトセトラエトセトラ所謂『人とそれ以外の獣を区別』する諸要素が人間たちの武器であった。その点においてはエルフ達も有しており、また、寿命の長さという利点も有していた。否、寿命が長いのは欠点の裏返しであった。それはつまりマイペースであるということ、高々50年程度の寿命しか持たない人間と、事故死や戦死でもしない限り、300年は優に生きるエルフ族の間では技術革新のペースがまるで違ったのである。
つまるところ、コンパウンドボウだけではどうにもならないほど、騎士王国軍の装備が発展してしまったのだ。そこから先は一方的な虐殺であった。否、騎士王国軍の兵士からすれば屠殺に過ぎなかった。文明国様からすれば非文明人に対して授ける文明など獣姦で十分だという主張とほぼ同じだろうか。かくして、300年にもわたり、騎士王国を退け続けていたエルフの里は壊滅した。その後、騎士王国は優れた医療技術を駆使し、ついにエルフたちの思考力を奪い、反乱などという高度な行動が出来ないようする薬を作り、それを投与するとともにニュースピークじみた言語破壊を推し進めた。
そこまでやって、嗜好品の安定供給に成功した騎士王国であったが、海軍のとある将校が閃いた。艦橋見張り員に最適なんじゃないか?と。そのため、特別に思考剥奪薬を投与させないエルフを都合し、実際に配備を行った。それが現在でも続いているのだ。だから、水平線の向こう側からこちら側ににマストの天辺10センチほど出しただけの状態でも発見可能であった。だからこそ、騎士王国海軍は長年強い海軍であり続けた。
なお、余談であるが彼ら彼女らと言ったが艦橋見張り員として彼女らが乗船することはめったにない。理由はいつの間にか麻薬が消費され、何故か寄港直前に事故で甲板から転落してしまうのだ。その消費された麻薬の量がどう考えても一人の人間を廃人に追い込むことができる量だとしても、それが発生するのが決まって彼女らが乗船するときだということも関係ないことだとして放置されるようになっている。




