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第2話「ドレッドノート」

第7章第2話「ドレッドノート」


 もともと、陸軍国のくせに世界第2位の海軍を持つ帝国から分離したという過去を持つルーメリア王国海軍はもともとそれなりに大規模な海軍を持っていた。さらに、独立時に騎士王国の駐留艦隊をほぼ無傷で鹵獲したこともあり、バルチック艦隊を相手取るだけなら不足はないと言い切れるだけの戦力を有している。


 前弩級戦艦6隻、装甲巡洋艦17隻、防護巡洋艦9隻、装甲帯巡洋艦2隻、偵察巡洋艦8隻、水雷艇駆逐艦6隻、艦隊水雷艇9隻、砲艦9隻、通報艦9隻、沿岸水雷艇22隻、特設巡洋艦8隻、特設水上機母艦1隻、特設敷設艦2隻、特設病院船1隻、特設給炭船4隻、その他雑役船11隻、合計124隻と4つの軍港、7つの海兵大隊それがルーメリア王国海軍が所有する全戦力だ。基本的にバルト海から出ることのない内海海軍としては世界最強クラスなのではないだろうか?(聖教国(イタリア)海軍? 地中海は内海にカテゴライズするほど小さくないだろ?)この数字は日本が1896年から1905年にかけて推進した対露戦備拡張計画、六六艦隊で建設された艦隊は戦艦6隻、装甲巡洋艦6隻であり、その後計画で戦艦5隻、巡洋艦9隻を追加建造しているが、基本的に外洋海軍へ変貌を遂げようとする日本海軍に対して、どこまでも沿岸海軍の延長線上でしかないルーメリア王国海軍は燃料搭載量が少なく、より小型の艦艇が多く、武装と装甲の面で若干劣るものの、速力や運動性能では勝っている。


 この時代の戦艦の性能はどこも似通っている。305㎜連装砲クラスと5インチ以下の火砲が大量にメクラ撃ちする。という戦い方には変わりないし、役に立たない衝角や危険極まりない艦首魚雷発射管を備えていたり、おおむね20ノット以下の速力しか出ない点が共通している。それに対して巡洋艦は各国の特徴が出ていた。ルーメリア王国海軍は貧弱な経済力に対応すべく、出来るだけ使用弾薬の数を整理する傾向があり、それが結果的に射撃指揮装置の搭載を容易としていた。経済的に、そしてバルチック艦隊との戦力格差的に砲弾一発すら無駄にできないルーメリア王国海軍は早期より命中精度を高める努力をしていた。だからこそ、同一諸元に基づいた主砲の斉射という試みは行われていなかったが、副砲群の同一目標同時発射用の射撃統制装置を一部に搭載していた。英仏海軍(ワンツー)でもない限り引き撃ちに専念すれば負けることは無い。


 ちなみにであるが、砲弾備蓄は3会戦分+訓練用弾薬として各砲370発しか用意されていない。理由は『3回も全力で戦えば、全滅するだろうから』である。陸軍の15榴(全備重量約3300㎏ 24.8口径 最大射程11900m)が各砲6000発(10会戦分)を定数としているのと大違いではあるが、砲兵1個中隊と大型戦闘艦艇1隻とでは製造時間やコストが全く異なる。戦力の再補充にかかる労力を考えればこれが妥当なのかもしれない。


 ここまで1200字も使って長々と説明したのは前提として知っていなければ話についていけなくなる可能性が高いからである。


 ルーメリア王国海軍は連合王国海軍に先駆け、『ドレッドノート級戦艦』を就役させた。


 ちなみにだが『史実』におけるドレッドノートの就役は1906年である。この『斉射』行うための戦艦は海戦版カンナエの戦い(ワンサイドゲーム)である1905年の日本海海戦の戦訓を基に計画された。…という俗説があるがそれは嘘である。おそらく『実戦証明がされておらず、机上の空論でしかなかった斉射が日本海海戦で確信へと変わった』というのが事実だろう。


 現在、1891年である。当然であるが、日本海海戦はおろか、日露戦争すら始まっていないこの時代にドレッドノートが建造できるはずがないのである。だからこそ、世界に先駆けて、『ドレッドノート級戦艦』を就役させられたのである。


 先月の対艦攻撃試験と合わせて連合王国では、今頃大騒ぎだろう。なぜなら、航空機に無理やり搭載した寿命を使い果たし、廃棄されるはずだった15榴の砲身に爆薬を詰めた地中貫通爆弾が1875年建造の旧式前弩級戦艦の甲板装甲と主砲弾薬庫天板装甲を突き破り、内部の装薬を巻き込み大爆発したのだ。ここで、世界に冠たる最強海軍を持つ連合王国の会議室にスポットを当ててみよう。




==========

==========


「…で? どうしてこうなったのかね?」


 怒りに震え、今にも心筋梗塞でこの世を去りそうな、或いはやかんの様になっている老紳士が列席者を見渡す。……いや、睨め付けている。この男は連合王国の首相にして、宰相である。宰相がコンコンと叩き示すロンドンタイムスの朝刊。いや、それはもはや原形をとどめていない。もはや文字を読むことはかなわず、精々火口ぐらいしか用途は無そうである。


――甲板装甲が脆弱なため、最新の戦艦であってもルーメリア王国軍の新型爆弾に対抗不能――

――加えて、戦艦同士の遠距離砲戦でも貫通可能――

――加えて、我がロイヤルネイビーの戦艦群はルーメリア王国海軍よりも射程距離の面で劣る――

――加えて、我がロイヤルネイビーの艦艇群はルーメリア王国海軍よりも戦闘速力の面で劣る――

――加えて、我がロイヤルネイビーの艦艇群はルーメリア王国海軍よりも遠距離砲戦命中率の面で劣る――



 エトセトラエトセトラ。端的に言ってこのままだと轟沈不可避。ということである。


「我が連合王国が誇るロイヤルネイビーは張り子のトラも同然だということか……」

「海軍は今まで何をやっていた!?」

「これでは本土防衛も危ういではないか」

「早急な対応が必要だ! 対策はあるのであろうな!?」


 本日、会議室に集まった面々は海洋国家の政治家や官僚たちである。大陸国家や建国以来170年にわたり、海洋交易路の保護を軽視したり、脅かされることが海賊以外にほとんどなかったため、陸軍国並みにシーレーン防衛に無関心な日本と違い、制海権とは海上交易路を維持(国家が生存)するために必要不可欠なものである。と認識していた。いざとなれば陸路で輸入したり、自民党を叩けばいい陸軍国家や日本とはわけが違う。


 口々に批判してくる面々に対して、艦政本部の面々はやるせない気持ちを見え隠れさせながらも反論した。


「我が国の……(いいえ)、恐らくどこの国の戦艦も『砲弾が上から降ってくる』とは思ってなかったのです」


「どういうことかね少将? わかるように説明しろ」


 ようやく静かになった面々に内心ため息をつきつつ、艦政本部長である少将は端的に答えた。


――砲戦距離の飛躍的進歩です。


 そもそも、連合王国という国が地球の約3%を領有していた時代。(こういうと、大したことのないように感じるが、『海だった場合はやり直し』というルールでダーツの旅をすれば10回に1回は連合王国領に行くことになるのである。ちなみに国内でダーツの旅をした場合、岩手県であった場合、25回に1回である)海軍の主力は戦列艦やフリゲートと言った帆船であり、現在の戦艦(前弩級戦艦)以上に大量の砲を装備していた。特に戦列艦では1隻に何と144門も装備した例があるほどである。


 そうして、このような艦艇の場合、砲戦距離は極めて短く、所謂ピストルショットと言われるものであった。ライフル砲も射撃指揮装置もない。それどころか最速の通信手段が軍鳩や腕木通信という有様で、マイクロフィルムすらない時代であった。そのため、各砲は砲ごとめいめいに狙いをつけて、射撃号令の下、文字通りピストルが届くレベルの至近距離で撃ち合っていたのだ。だからこそ、艦隊司令官が敵兵からの狙撃によって倒れるという事態が発生したのである。


 さらに言えば、炸裂弾なんて気の利いたものはなく、砲丸投げで使用されるような本当に丸い鉄の塊を投げ合っていたのである。これでは射距離が伸びるはずがない。(ある意味でMADというのは戦列艦同士の砲撃戦に近いものがあるかもしれない)しかも、一時期防護力向上に追い抜かされ『砲撃では敵戦艦を沈められない』と言われたためそれに代わる攻撃手段として再びラムを装備する艦艇まで現れた。


 その後、ライフル砲などの技術的進歩によって射程距離も威力も向上したが、黄海海戦すら発生していないこの世界の人間に長距離砲戦の可能性を検討せよというのは無茶ぶりもいいところである。


 そして今回、ルーメリア王国海軍が各国より(騎士王国にすら招待状を発送していた)大手新聞社からフリーランスの個人ジャーナリスト。果ては各国海軍や情報機関関係者も招いた(完全に隠匿できていると思っていた情報機関の本当の住所に直接に郵送したことからルーメリア王国の諜報能力に恐れを抱いたという一幕があった)対艦攻撃実験と新型戦艦の竣工式には度肝を抜かれたのである。




常備排水量 16500トン

満載排水量 19200トン

全長 160メートル

最大速力 23ノット

機関 重油専焼ボイラー16基+高圧蒸気タービン&魔力再加圧式中圧タービン

最大出力 27000馬力

航続距離 10ノット/4200海里

兵装 30.5㎝連装砲4基8門(最大射程22000メートル)

   10㎝単装砲8基8門

装甲 舷側最大260ミリ

   甲板最大120ミリ

航空艤装 カタパルト1基

     水上観測機1機


 この新型戦艦において特筆すべきは、全ての主砲塔が中央線上にあることと、世界に先駆けて重油専焼ボイラーを導入したこと、魔力再加圧中圧タービンの導入である。蒸気タービンとしての型式は反動式・軸流式・復水式・多段式・減速式と奇抜な面はない。だが、この蒸気タービンの構成は高圧タービンと『低圧』タービンである。


 ん?さっき中圧タービンて書いてあったような……と思うかもしれない。ここには最新の魔術研究の成果がある『風属性魔法(・・)は魔力によって熱膨張を促進しているらしい』と言うモノだ。この研究成果を利用することで、高圧タービンを通過したことで、低圧にまで下がった蒸気を中圧にまで再加圧することに成功した。これが大幅な熱効率の向上に、そして、機関出力増強につながったのだ。




 ルーメリア王国海軍は内海海軍であるがために小型で航続力の劣るが、長距離砲戦のために作られた戦艦の登場は一夜にして全世界の戦艦群を無用の長物にしてしまったのである。当然だが、ルーメリア王国海軍が誇る6隻の戦艦もそうである。だが、それ以上に被害を受けた国がある。それは連合王国である。当時、57隻の戦艦を保有し、世界最大最強の海軍であった連合王国が誇る、ロイヤルネイビーは世界で最も多くの旧式艦を保有する海軍に成り下がった。


 一夜にして、世界唯一の戦艦保有国となったルーメリア王国に危機感を覚えるなというのは海洋国家には不可能である。主砲こそ、従来から存在する30.5㎝砲であるが、仰角が大幅に引き上げられ、舷側装甲に比べると紙としか言いようのない程の薄さを誇る甲板装甲に命中することを考えると、18インチ砲弾が直撃するようなものである。事実上の威力増大に他ならなかった。


 これは全世界の格差が一時的にリセットされたことを意味し、帝国による連合王国への挑戦(艦隊法)を招き、伝統的に二国標準主義を敷く連合王国に大きな経済的負担を強いることになり、最終的には海軍休日期間につながるのだが、バルチック艦隊を撃破できればそれだけで大満足なルーメリア王国海軍にはどうでもいい事であった。



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 視点を再び連合王国に移す。


「まさに盲点だったとしか言いようがありません。王国がやらなくても最終的にはどこか別の国がやっていた。というのが我々の見解です」


 『地球』においてやったのはあなた方です。と言われたらどういった反応を見る事が出来るのか気になるところである。


「……なるほど、想定外とはこのことだな。それで? 対策はどうなっている?」


「現在、改良図面を引いているところであります。決定次第、順次主力艦の改造を行うとともに、新造艦の予算要求を行う予定であります。……ただ」


「……ただ? なんだ? 言ってみろ」


 装甲を強化し、重心上昇を抑えるためにバルジの設置を行い、水中抵抗の増大によりそのままでは速力の低下を招くことから、その対策として機関出力の強化……つまり、上部構造物をすべて引っぺがし、既存の機関を交換する大工事を行うことになる。を行い、さらに出力増大に伴い悪化する燃費に対応するべく、燃料搭載量を増加させ、そうするための石炭庫増強工事を行い、射程不足を補うため、主砲仰角引き上げ工事を行い、砲戦距離の長距離化に対応するべく、より高性能な測距儀を搭載し、それを行うための艦橋強化及び大型化工事を行い、それによって押し出される形になり、さらに更なる排煙増加に対応するべく、煙突の大規模工事を行う必要がある。さらに、ついでだからとダメージコントロール能力の増強(具体的には水密扉やスプリンクラーの増強、ダメコン用資材固定用ラックの設置、窓の削減などである)や通信能力の増強が行われることとなっている。


 まぁ、極めて楽観的な想定をするのであれば、設計開始から工事完了、そして完熟訓練完了までの期間は3年と言ったところである。10年以上かかってもおかしくないだろうが……





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