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第9話「撤収」

第6章第9話「撤収」

…………


 兵士たちが炎上する物資の山に迫ってくる。


 敵の数は1個小隊40名。位置関係を考えると、国境で敗退した懲罰部隊の生き残りだろう。


 対するこちらは車両隊や強襲B班、狙撃班まで含めて40名。強襲A班の警戒戦力は4名だけ。ざっと10倍の兵力差だ。だが、この10倍の兵力差をひっくり返す事が出来る装備がいくつかある。一つは機関銃。もう一つは暗視装置だ。この二つのアイテムは歩兵と言う存在に革新をもたらした。機関銃は騎兵突撃と言うモノを過去の遺物にし、暗視装置は歩兵を雑兵の集まりから、専門家集団へ押し上げた存在だ。さらに、その2つのアイテム以外にも、アサルトライフル、マークスマンライフル、拳銃、手榴弾、ライフルグレネードと多彩な武器を持ち、無線機やファーストエイドキット、サバイバルキットなど様々な個人装備品を全員に配備している。


 それに対して、10倍の人数を誇る騎士王国軍の装備は少ない。10人に1人の割合で、自動小銃が配備されているが、それ以外の兵にはボルトアクションライフルが配置されているのみで、拳銃や機関銃の類はない。もちろん懲罰部隊は擲弾兵(エリート)部隊ではないため手榴弾も装備していない。さらに無線機や衛生装備品は大隊ごとに配備されるものであり、防弾ヘルメットやプレートキャリア、アイプロテクションギア、防刃防炎のコンバットシャツ&パンツ、切創防止の意味もあるコンバットグローブ、ブービートラップを避けるためにあるジャングルブーツなど多彩な防護装備を持つルーメリア王国軍特殊作戦オペレーター候補生たちとは違い、騎士王国軍のそれは近衛や親衛とつく部隊ですらチェインメイルの下に来ていた鎧下(クロスアーマー)の生地を使った頑丈な軍服と、本革のヘルメットという第1次世界大戦期の装備でしかない。


「まだだ。まだ撃つな」


 敵の姿は松明の光で浮かび上がっている。暗視装置がなくても十分視認出来るだろうが、敵は、後方で燃える物資の山が逆光となってこちらのことはシルエット以上は見えないだろう。


 防具を装備していないどころか弾薬もほとんど抱えていない兵士たちは、包帯を巻いていたり、腕がぶらりと垂れ下がっていたり、肘から下がなくなっていたりといかにもな敗残兵たちが向かってくる。距離は600メートルほど。主力小銃のM4A1はゼロインの関係上、有効射程は300メートルほど。まだまだ撃ち合う距離ではない。敵は、ボルトアクションライフルを装備しているが、練度の低さから射撃を開始するのは350メートルほど、だが実際には200メートルまで近づかないと命中を期待できないという。


 よって、この距離で弾丸をばらまくのは得策ではない。無駄球が増え、戦闘継続時間に悪影響が発生する。この状況を確実に切り抜けるには適切な弾薬消費量で戦闘を終わらせなくてはならない。



距離500メートル。  後方で火炎瓶が割れる音がする。



距離400メートル。  敵の足音がはっきりと聞こえてくる。



距離350メートル。  もう少しだ。緊迫した空気が流れてくる。



距離300メートル。  ……今だ!!


「射撃、開始!!」



 敵を完全な射程に収めてから命令を下した。命令と同時に4つの銃声が爆ぜた。敵の胸に複数発弾着するとともに崩れ落ちていく。だが、彼らもここまで生き残ってきた連中であるらしい。一部が数少ない遮蔽物に身を隠し、残りもすぐに姿勢を低くして、こちらに向かって全力で突撃してきた。


 M4A1のセミオートが闇夜を貫き、MG338のフルオート射撃が静寂を打ち破る。さらに、09式小銃擲弾の残弾もここですべて投入してしまう。どうせ、隠密作戦では使い道がない。ならばここで使ってしまうのが良いだろう。


 曳航弾と小銃擲弾の爆煙が辺りを包み込み、それらが一斉に敵兵たちに襲い掛かる。それらは確実な殺意をまとい、兵士たちに牙をむいた。


 ライフル弾が体組織をめちゃくちゃにしながら貫き、薙ぐように掃射された.338NMが腹部を、腰を、肩を、腕を、抉るように粉砕しながら人体を破壊し、マークスマンライフルの弾丸が遮蔽物に隠れ、援護射撃をする狙撃兵を確実に仕留め、小銃擲弾がまき散らした破片がなけなしの兵士たちを八つ裂きにした。


「撃ち方止め」


 射撃開始から1分もたたないうちに、小隊規模の敵兵は全滅した。多少は骨がある連中であったが、しょせんは多少でしかなかったようだ。


≪東より敵、連隊規模が接近中。物資焼却はどうなっている?≫


「あと3分掛かる! 車両部隊は移動開始」


≪了解。車両部隊は前進する!≫


 どうやら、運悪く本国方面からの増援部隊とかち合てしまったようだ。ただ、騎士王国軍には募兵管区組織としての連隊は存在するが戦闘部隊としての歩兵連隊は存在しない。だからきっと、3個の戦闘大隊と最低限の前方支援部隊の混成部隊だろう。そうすると……


≪騎兵2個中隊規模が急進中!≫


 ……やっぱりか。歩兵2個大隊と騎兵1個大隊が主力とみるべきだな。これは一気に騒がしくなる。ここいらで投入すべきか?


≪こちら強襲B班、敵騎兵の足止めを行う。早くしてくれ≫


 強襲B班の任務は『強襲A班の撤退支援』である。それを考えれば強襲B班のやったことは特段おかしいことではない。しかし、30秒と立たず物資焼却完了の報告を受けたのを聞いた最終訓練統裁下士官は『なんだかなぁ……』と思わずにいられなかった。


「物資焼却完了!」


「よし、ずらかるぞ! 強襲A班は離脱する!」


≪車両隊、現着予定時刻(ETA)120!≫


 そして、微妙に間に合わない車両部隊。『まぁ、訓練生だしな。俺の時もフォローしてもらったし……』と思ってしまう最終訓練統裁下士官は苦労人なのかもしれない。


 何はともあれ、訓練は無事終了した。負傷者が3名発生したが、負傷退役するような大けがを負った者はおらず、戦場救護もおおむね問題なかった。色々とグダグダだったが全体から見ればよくできた方であった。








 結果、合格と言う判定を出した。当然、合格を言い渡された小隊員はビアホールの警備に繰り出したが、残業手当は却下された。……解せぬ。







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