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第2話「レンジャー」

第6章第2話「レンジャー」

…………


訓練2日目 0630時

東部総軍第46演習場隊員宿舎跡


ズガァァァン!


 無事選抜過程をクリアした(なお選抜課程も体力強化課程も第1段階訓練としている)候補生たちのモーニングコールは起床ラッパではなく、隊舎が全壊するほどの爆発音だった。1日目の体力訓練がきつかったこともあり、当直の者以外は皆ぐっすりだったが爆発の直前に強力な魔導反応を探知し、慌てて自分と近くの身辺具を魔導障壁で守り切った。


 中には、魔導障壁が間に合わず、大怪我を負うものや身辺具以外の防衛に成功したものもいたが、殆どの候補生たちが自分自身と身辺具だけしか守れなかった。ただ、一つだけ共通していることは爆発を防げても上から落ちてきた瓦礫の下敷きになるということだ。



 彼らが瓦礫の下から這い出てきたのは10分後のことだった。異常なほど早い気がするが……


「諸君、おはようと言っておこう。モーニングコールは刺激的だっただろう? 早くしないとお替りが来るぞ?サッサと整列したまえ」


 このようなことを言われてしまったら全身全霊で整列するしかないだろう。…なお、お替りは2回来たという。


「本日の訓練を説明する。各行動班は指定されたチェックポイントを通過し、本日1800までに最終集合地点に集結せよ。あぁ、一応言っておくが、長距離浸透訓練であることを忘れるな?」


 そう言って、行動班ごとにチェックポイントと最終集合地点が書かれた地図とミリタリーコンパスが渡される。ただ歩くだけなら簡単だ。などと考えるアホはいなかった。彼らはレンジャー持ちが多く、想定訓練で悲惨な目にあったものが多かったからだ。


 そもそも、食料や水すら欠乏しているのだ。地図を見る限り、5時間もあれば最終集合地点に到着できるだろう。だが、まだ7時にもなっていないのに18時までに到着しろと言う。2倍以上の時間がかかる様な障害が用意されているという事だろう。それを考えたら呑気に『歩くだけとか楽だな』とはならない。



訓練2日目 1800時

東部総軍第46演習場 訓練2日目最終集合地点

とある特殊作戦オペレーター候補生視点

…………


「時間だ。諸君。私の想定以上に3日目以降も訓練に参加できる候補生が多かったことに喜びを感じている。さて、残念なお知らせだが、本日までに188名が訓練より脱落している。……本日の訓練は終了だ。テントを設営し、順番に食事を受け取る様に」


 本来の起床時刻よりも2時間程度早く下されたモーニングコールによる負傷者や宿営地に到着するまでの、王国随一の精鋭である山岳旅団ですら突破困難とされるルートがもっとも消耗が少ないルートされ、そのルート上には内務省の特別行動部隊や爆弾やロケット弾などの対地兵装を実装した攻撃機、101の作戦分遣隊などが捜索中であり、時に身を隠し、時に迂回することが要求され、時間に間に合わなかったものがいる。


 さらに、悪条件を追加すれば、前日までの環境が劣悪すぎた。訓練前日10時まで最後の晩餐と称してどぎつい蒸留酒をたらふく飲み込み__だって、いつもは高くて手が届かない高級酒が飲み放題だったのだ__、就寝したわずか5時間後。つまり午前3時に叩きこされ、そこから貨物用の乗り心地など一切考慮していない荷馬車で4時間ほど移動した(尻を蹴り上げられた)のち、13時までに鬼のような……それこそ、レンジャー候補生を間引く為に行われるレンジャー選抜課程よりもさらに厳しくした(再チャレンジ可能であるからして随分と良心的ではある(悪意に満ちている)が)体力選抜試験を行い、わずかに残された時間で昼食をかき込む。……何故か、油ギトギトの肉料理と揚げパンしかなかったが。


 午後より始まった筆記試験は通常ならば簡単な問題だ。試験時間も盛大に余るはずだった。だが、訓練などにより疲労困憊状態であり、昼食を取り満腹になったばかりであり、問題も割と簡単かつ単調であり、さらに試験場の室温が春先のうららかな……と言う文言がつきそうな心地よい暖かさだったことが居眠りを誘発させた。眠気をねじ伏せつつ、単調な筆記試験を行うというのは精神を著しく疲弊させた。さらに、その後の採点時間中に行われた体力錬成訓練は疲労と眠気と胃もたれとさらなる負荷のクワットパンチにより初日からボロボロになった。


 そうして、泥の様に。或いは、死屍累々と言う表現がぴったりなほどの熟睡(当然眠りの質はよろしくないが)していたところに、突然のモーニングコール。これで200人も脱落していないのだから「素晴らしい」のだろう。……逃げたくなってきた。


 ああ、まだ疲弊する材料があったようだ。2つある。1つは、宿営用のテントだ。元居た部隊――東部総軍所属第38師団――は基本的に塹壕戦ばかりしている部隊だから野営用のテントなどほとんど使わない。そう言う事情もあっても旧式の使いにくいテントから更新されていないのだが、――隣の2/188歩兵大隊では最新型が支給されている(クッソ!! 差別反対!!)――今回使用したのはさらに旧式だった。ところどころ、生地に穴が開いた後があり(むろん修復しているがその修理パッチがはがれかけている)、たぶん廃棄寸前の駐屯地業務隊に配備されていたものなのだろうな。あとメチャクチャ重い。


 2つ目は、夕食だ。MCIレーションという缶詰だった。マズい……


「ああ、お前ら。ちょっと来い」


「だれd……失礼いたしました!」


 ヤバい……中将だ。ペナルティはなんだ? 腕立て伏せか? それとも……


「次から気を付けろ」


 ――良かった。


………数分後


「この箱にウォーターボールを数発叩き込め」


 中将殿に連れられて来たのは、木の箱が置いてある崖だった。絶景だな。ウォーターボールなんてほとんど威力もないのに……と言うか、なんでこんなところに木の箱が?


〔ドン ドン ドン〕


「よし止めろ。次はファイアーボールを…まずは1発叩き込め」


 言われた通り、ファイアーボールを叩き込む。当然だが、ウォーターボールで水がなみなみと注がれた木の箱に着弾してもブシュ―と言う音がして鎮火する。それを確認した中将殿が水に手を突っ込む。何がしたいのか意味不明だが、どこか満足気な顔をして『もう1発撃て』とおっしゃった。言われた通り、再びファイアーボールを叩き込む。すると手を入れ、満足いく結果だったのか、チョコレートをくれた。食べている間に中将殿が服を脱ぎ、木の箱の中に入る。なみなみと注がれていた水——いや、湯気が立っているからお湯か——が中将殿の体に押しのけられてこぼれるが、そんなことを気にしていないようで気持ちよさそうに声を漏らす。


 ようわからんが、『立っているものは親でも使え』とのことだ。用は発想なのだろう。中将殿はどこからその発想を持ってきているのだろう……?




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