第1話「第1段階」
第6章第1話「第1段階」
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グミを救出して帰ってきてから仕事に取り掛かった。…と言うのは当たり前のことだろう。当然、これが終わったら書類の山と格闘するのかとため息をついたが現実は予想と違った。
『第101特務歩兵大隊を増強しろ』
これが上からの命令だった。新たに5個大隊を新編、作戦支援部隊などと合わせて、第58特殊作戦師団を編制することとなった。また、CIF中隊を編成する許可をもらった。訓練など編成に必要な一切合財を行う事になった。むろん、“上”が無理難題を押し付けてきた以上、全力で支援するという確約をもぎ取ったが。
部隊を組織し、訓練し、統率を確立する。そのいずれもが経験と熟達した古参兵の支援がなければ極めて難しい仕事だ。人が組織を作るが、組織は人を作らない。だからこそ、何かを組織できる人間と言うのは非常に貴重だ。その中でも“特殊部隊”という特殊な組織を作り上げた実績があるのは俺だけ。そういうことらしい。
どうも、特殊部隊の有用性をかなり間違った認識のまま認めたようだ。彼らは特殊部隊をスーパーマンの集まりか何かと勘違いしているようだ。
募集要項を作成し、各部隊に配布、志願を募った。2か月後、訓練施設の運動場に整列した志願者は6073名。想定よりもだいぶ多いがこれでも厳選した方だという。どれだけすごい部隊だと思われているのだ……
≪常に彼を導き、常に彼を見捨てず≫__常に最前線に放り込まれ、撤退時は最後に後退。
≪常に道なき道を行き、常に屈せず≫__過酷で片付けられないほどの無理難題を押し付けられ、抗命権など存在せず、実行せよと宣言。
≪常に戦場にある。すべては勝利のために。求む戦士たち、至難の戦場≫__勝利の可能性は高いし、圧制者に鉄槌を!が戦争目的である以上、やりがいもあるだろう。だが、畳みかけるように戦場は至難の場所と書いた挙句、
≪剣林弾雨の日々、たえざる危険、生還の保証なし。英霊を忘れず、生還の暁には名誉と称賛を得る≫__一寸の油断もできず、油断すれば即死と明記。生存者よりも戦死者の方が多いと示唆。生還の暁には一応勲章がもらえると入っているものの、軍功による貴族位の叙勲は禁止されている。また、正直に言って戦功勲章の年金は名誉除隊者年金よりも格段に少ない。日々の食事にケーキが追加されるぐらいだ。あれ?ギロチンフラグ立った?
どこからどう読んでも、シベリアへの片道切符です(実際進軍方向は東だ)本当にありがとうございます。と言うレベルの要項?文学な気もする……
このぐらい念押ししておけば、いくら時代的に名誉を重んじる軍人が多いと言っても多少は躊躇するだろう。おのずと、忍耐力その他が高い軍人に限定されるだろう。と思っていたが、がである。6000人もいたら絶対、忍耐力が欠落しているものがいるじゃないか!?
__第1段階訓練課程
内容は体力検定と筆記試験による選抜訓練だ。
腕立て伏せ 800回以上
腹筋 700回以上
懸垂 300回以上
かがみ跳躍 800回以上
手榴弾投擲 40m以上
土の運搬(50㎏) 60mを10秒以内
300m走 50秒以内
2000m走 8分30秒以内
各種目ごとに何度も挑戦可能で手榴弾投擲で最初7メートルという散々たる成績を出しても100回目、200回目で40メートル以上投げれればクリアと言う事になっている。順番に関しても2000メートルのハイポートを最後にやることを守ればどんな順番でやっても問題ない。と言う比較的良心的な設定となっている。
午前中に体力検定を行い、全項目をクリアした者から休憩とした。休憩時間中に昼飯を食べ、13時から筆記試験を開始する。13時までに筆記試験の会場に居なかった22名は全員失格として原隊に返された。
筆記試験は簡単な数学から始まり、階級の順番を答える並び替え問題や中隊指揮官は原則、どの階級のものが付くか?などの軍事学の基本、戦術の想定問題など全200問からなる。時間は最後まで回答し、5回も見直しをして更に昼寝することができるほど確保しているため、時間が足りなかったという言い訳は通用しない。
「ここまで。全員、筆記用具を机の上に置き、両手を膝の上に置け」
終了宣言とともに様々な感想が伝わってくる。手ごたえを感じたのか自信に満ちた目を見せるモノ。最後の最後で間違いを見つけてしまったのか、ヤバい!と焦る目を見せるモノ。全くダメだったのか、あきらめにも似たため息をつくモノ。エトセトラエトセトラ
「これより、20分休憩とする。1600時までに運動場に集合! 体力訓練を行う! 解散!」
………20分後、運動場
「これより、体力錬成訓練を行う! 行動班ごと訓練軍曹の指示のもと訓練を行え!」
テストの採点が終わるまでの2時間、ひたすら腕立て、腹筋、背筋、スクワット、懸垂、うさぎ飛び、勝利の塔などの練兵セットをこなしていく。そうして2時間後、採点が終了したという報告を受け、整列させる。
「007、047、137、988、1677、……6005、…以上のものを失格とする! 荷物をまとめ、明日、0730までに正面ゲートに集合せよ! 本日の訓練を終了とする! 解散!」
体力試験の要求が高いですが、身体強化魔法が一般的な世界なので、朝一から始めれば、疲労困憊になりつつも時間内に終える事が出来ます。