第9話「トライアル」
第5章第9話「トライアル」
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__次期制式狙撃銃選定事業(SR-X)
__次期制式マークスマンライフル選定事業(DMR-X)
__次期制式軽機関銃選定事業(LMG-X)
机の上にある書類の束にはそう書かれている。現場から『7.62ミリは使いにくい!』と言われてしまったのだ。そこでDMR-XとSR-Xは6.5ミリCMを、LMG-Xは.338NMを基本弾薬とし、SCARも6.5CMにコンバートすることになった。信頼性、整備性、重量、射程、精度など様々な点からトライアルを実施して決定に至ったわけだ。この書類の束はそのトライアルの結果報告書だ。
まずは、真ん中のDMR-Xの報告書から見る。信頼性と速射性、軽量性が重視され、射程と精度に関しては300メートル程度で胴体の何処かに当たる程度で良いとされた。
AR10系のSR-25。7.62ミリNATO弾を使用する狙撃銃だが、豊富な交換パーツにより6.5CMや.338RMなどにもコンバート可能であり作動方式にダイレクトガスインピージメント方式を採用しているため、セミオートながらも高い命中制度を誇る。なお、今回のトライアルではガスバスターと呼ばれる密閉性が高く、ガスを漏らさない構造のカスタムチャーハンに換装したものを使用した。
デルタやシールズ、SBUなど各地の特殊部隊で活躍しているMSG-90A3。ドイツ連邦軍正式採用小銃のH&K G3 SG/1の携行性とPSG-1の命中精度を両立したMSG-90A2にマルチキャリバー対応改修を施したモデルとなる。
バトルライフルの王様であるMk.14 Mod3。ベトナム戦争時に取り回しの悪さから酷評されたが、アフガン紛争や湾岸戦争などで平均交戦距離が伸びたことで見直され、米特殊作戦軍の要請により生産されたもので、Mod3は米特殊作戦軍がセミオート狙撃銃用弾薬に6.5㎜CM弾を採用したことを受け、それに対応させたモデルとなる。
死に体のレミルトン社とJPエンタープライズとの技術提携で誕生したフルカスタムDMRのR11 RSASS。市街地戦を意識したDMRであり、ラピッドファイア可能な狙撃銃。弾薬を6.5㎜CMにコンバートしている。
FN SCARの狙撃銃モデルである、SCAR-H PR。射程や精度において不安はあるものの、主力小銃であるFN SCARと部品を共通化でき、先進的な設計思想により、弾薬のコンバートも容易。さらに、ガス圧利用方式とすることでボルトキャリアの汚損確率を抑制でき、ガス調整弁を備えることで作動不調に備えるなど、信頼性を向上させる工夫が施されている。兵站への影響を考えるならばこれが一番だろう。
以上、5種がDMR-Xに参加している。この計画は、高低差のあるフィールドで上を取られ、集中砲火を受けるという苦い経験から更新の声が高まったという経緯がある。そのため、R11 RSASSが優位とされていた。
予想と異なり採用されたのは、長い歴史が裏打ちする実戦証明と18インチという比較的短いバレルを持つ、Mk.14 Mod3だった。この結果には、DMRは射程や命中精度が本格的な狙撃銃ほど重視されていなかった事が影響している。後は、R11 RSASSはどこの軍隊でも採用されていないと言うのが影響したのだろう。
読み終わったDMR-Xの報告書を机に置き、右のSR-Xの報告書を手に取る。狙撃兵は単独乃至少数で行動することが多いため、携行性と射程、精度が重視され、簡単に壊れない耐久性と特別な工具が無くともマルチツールだけで分解整備が可能であることが要求された。また、6.5CMを標準弾薬とするが、.338RMにコンバート可能なマルチキャリバーであることが求められる。
短い期間で最長狙撃記録を次々と更新したカナダの精鋭特殊部隊JTF-2が採用するマクミラン製のTAC-338。ボルトアクション式であり真新しい点はないが徹底的こだわった精度は化物の域だ。最新のモデルでは6.5ミリCMに対応したマルチキャリバー仕様となっている。
イギリス陸軍の他、各国で採用されているL115A4。.338RMが標準弾薬であるが、バレルなど12のパーツを入れ替えることで使用弾薬を変更できるマルチキャリバー仕様であり、標準で固定式の大型サプレッサーを備える。候補の中では最も携行性がよく、射程や命中精度、信頼性などが高い次元でまとまっている。
レミントン社が開発したレミントンMSR。軽量アルミ合金のフレームが特徴的なモジュラー設計で、複雑・多様渡河する現代戦において、一つのプラットフォームで様々な状況に対応できる狙撃銃として設計された。数分の作業で、各種銃身と後継の変換が可能で、有効射程は1500メートルに及ぶという。狙撃銃ではあるが、フォールディングストックであるため、携行性が高い。ただ欠点を挙げるとすれば生産開始からそれほど間を置かず、レミントン社そのものの経営が火の車になったため、改良がほとんどされていないことだろうか。
50口径狙撃銃として有名なバレットM82の設計師の子供が設計したバレットMRAD。M98Bをベースに開発されたライフルであり、M98Bの機構を踏襲しているが、マルチキャリバー設計とフォールディングストック機構が追加された。使用弾薬は6.5ミリCM、.338LM、.338NMなどだ。レイルシステムによる高い拡張性と人間工学的に優れた設計をまとめた完成度の高い狙撃用ライフルだ。
猟銃のタクティカルモデルであるSIGブレイザーR93 LRS2。近未来的な外見が気に入られたのかワルサーWA2000と同じく、映画に漫画にゲームにとフィクションに引っ張りだこな狙撃銃だ。少々重いが、ストレートプルボルトにより連射がしやすい。
以上5種がSR-Xに参加した狙撃銃だ。DMRと違い、大きな路線変更はないため逆に難航した。皆優れたライフルであるためどれも素晴らしい。決めきれない! となり、時間がかかったようだが、環境試験や実践試験などを経て、バレットMRADに決定した。
SR-Xの報告書を置き、LMG-Xの報告書を手に取る。にしても、この報告書は読むのがつかれるな……書いてあることなど、『○○を採用することにしました』だけなのに、30枚程度の束になっている。まぁ、ちゃんと必要なことが書いてあるのだが……
LMG-Xは汎用機関銃であるM240と分隊支援火器であるMk.48が同じ7.62ミリ弾を使用するという状況から前々から更新の話があった。今回、DMR-XやSR-Xと同時に変更することとなったのだ。候補に挙がったのはそれほど多くない。
米特殊作戦軍制式採用のMG338。M240よりも軽量であり、.338NMや.338LMに対応し、6.5CMや5.56㎜NATO弾に対応するマルチキャリバーであり、フィードカバーが小さくなり、光学照準器に干渉しないようになった。また、フィードカバーを跳ね上げなくとも装填可能になるなど進化している。そのほか、ストックにショックアブソーバーが装備され反動が軽減されている。今回のトライアルでは米軍正式採用モデルと、ストックとバイポッドをM249パラのモノに換装した日本軍制式採用モデルの2タイプを用意した。
主力アサルトライフルであるSCARのアッパーレシーバーを交換することで軽機関銃化するシュライクLSVキット。こいつは、民間市場で販売されていた民間M4用カスタムパーツであるが、数年前にSCAR向けの各種弾薬対応タイプだ。元がアサルトライフルであるため、軽量ではあるが、その分使いにくい部分がある。
現行の分隊支援火器であるMk.48の続投。.338NMと6.5CMに対応させた独自改修モデルを開発し、トライアルに参加させたが、何方かと言うと、比較対象として参加させたきらいがある。
以上3種であるが、最初からMG338に決まっていたようなものだ。実際、MG338(の日本軍制式モデル)が採用されることとなった。やらせ疑惑が出るのも無理ないが、そもそも要求に合うLMGがほとんどないのだから仕方がない。