第7話「攻守逆転」
第5章第7話「攻守逆転」
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収容棟の地下1階セキュリティゲートにAKMSを装備した小隊が待ち構えていた。今度こそ逃がさないという意思の表れか、外に出るためには絶対に通らねばならないセキュリティゲートに陣取ることを選択したようだ。セキュリティゲートに上がるための階段を包囲するように、半円状に40名の兵士たちが立っていた。
さすがに地の利はあちらにあるらしい。どこで待ち構えれば最も効果的か、そういうことは分っているらしい。
あちらは、既に勝っているつもりなのか、指を『ポキポキ』と鳴らしている。
こちらの人数は負傷者を合わせても9名、対する敵の人数は40名。しかも全員AKMSを装備している。当然こちらの攻撃手段に関してもある程度以上理解しているはず。事実、グミが捕虜になったし、銃弾を回避されたと言っている。
まぁ、彼らが勝ったつもりでいるのも分からんでもない。数で負け、彼らから見れば質でこそ勝っているが、この圧倒的な数の優越を覆すほどには見えないだろう。それに、彼らは40名全員が火力を投射できる陣形だが、此方は通路が狭いせいでせいぜい2人しか同時に撃てない。しかも、銃を撃とうと身を乗り出した瞬間、40丁のAKによってハチの巣となる寸法だ。
〔ダダダダァン! ダダダダァン!〕
「ックソ! 頭を出せない! シロウ! ライオットシールドだ!」
インベントリーからライオットシールドを取り出し、盾にしながら階段を駆け上がる。その後ろにぴったりついてきた仲間がDP-12を撃ちまくる!
〔ダァン! ダァン! ガチャーン! ダァン! ダァン!〕
『……ッ!?』
射線上の兵士がショットシェルに反応して、半身になったり、しゃがんだししてシェルを回避しようとするが、発射された4発のシェルが合計80発のダーツの矢によけきれず、被弾してしまう。よけきれなかったことに信じられないのか息をのむ音が聞こえてくる。
ショットガン__日本語に誤訳すれば散弾銃。スラグのような一号玉を撃つこともできるから誤訳ではあるが、フラグ12やテイザー弾のような例外を除けば、対人用のダブルオーバックでも10発前後、スネークショットであれば数百から千幾つ、のベアリングが発射される。今回使ったショットガンはデュアルフィード式で装弾数は16発。余裕で殲滅できるはずだった。……そう、はずだった。つまり「そう」ならなかったのである。
〔ッガッガッガッガッガ!!〕
「やっべ! シールドが壊れるぞ! ひっこめ!」
〔ガチャ—ン! ダァン! ダァン! ガチャ—ン!〕
〔ダダダダダァン! ダダダダダァン!〕
「ックソ! あいつらがお前を捕まえたやつか!?」
「恐らく!」
最初のシェルは叩き込んだら効いた。がである。制圧射撃で、完全に縫い付けられている。このままでは迂回されて挟撃されてしまう。そんなことはよくわかっている。状況は最悪だ。
「効かなかったぞ…ッ!」
シェルの中に入っている1本当たり0.3グラムのフレシェットは厚さ5㎝以上の強化ケブラー繊維を貫通する能力を持っている。射程が短く、軽いのが難点ではあるが、通常の物よりも銃口初速が早い。まあ、物理学の計算だと17.6%増だから射程減を許容するほど威力向上しているわけでもないが、射距離20メートル強で防がれるのだから、不意を打たなければ、無理だ。
「いったん下がるぞ。……やーい! うすのろ! 10人にも満たない少数相手に蒸れなければ相対できない臆病者め!! ビビってんのか? こっちにこいよ!! ……下がるぞ」
「あんた何挑発しているのよ!? ばっかじゃないの!?」
「大丈夫だ。ちゃんと策はある」
激怒する仲間を宥めつつ。プレキャリの右側カマーバンドのLBT-9022Aモジュラーメディカルポーチのジッパーを開け、中身を取り出す。
『野郎ォォォォぶっ殺してやぁぁぁる!!』
『ま、待て! 罠だ! 止まれ!!』
『隊長! 止めないで下さい! あんなに馬鹿にされて黙ってられませんよ!』
『畜生! 仕方ない! 全員突撃!!』
「あぁ! どうするんだよ! 本当に来たじゃねぇーか!」
コロン コロコロ……BAOOOOOONNNNNN!!!!
『GYAAAAAAAAAAAA!!!』
『ヒィィィィ!! 燃える!! 燃える!! 消してくれ!』
『誰かぁぁぁ! 誰かぁぁぁ!!』
『ママァ! ママァ!!』
「何投げたのよ……?」
___M34白燐焼夷手榴弾。
白燐手榴弾に焼夷手榴弾以外の用途があるのかというと、延焼しやすくとてもとても発煙手榴弾として使えない以上、焼夷手榴弾としての用途しかないはずだが、日本では何故か『焼夷能力は無い』とされる謎アイテムだが、特定通常兵器禁止条約で名指しにされるほど威力が高い。と言うか酷い。白燐のすごいところは、水をかけても火が消えないというところだろう。酸素の供給を絶ち、白燐と接触した皮膚をすべて削ぎ落とさなければ消火できないのだが、まぁ普通に考えて無理だ。
〔ダァン! ダァン!〕
さすがの精鋭部隊も、炎上中にこちらの攻撃に反応できないらしく、呆気なく倒れた。