第6話「合流した。でもな……」
2020/02/10 1744時追記 この話に合わせて以前投稿分に若干の修正を施しています。
第5章第6話「合流した。でもな……」
………
ズドォォン! ダァン!ダダン!ダダン!
「エリアセキュア! ルームクリア! ネクストドア!」
「これで7つ目だぞ。そろそろ爆薬が無くなる」
「ビーコン情報ではもう少しだ。…と、このドアは爆薬を使わなくてもよさそうだな。ブリーチングバーで開ける。カメラを」
「了解」
正面入口以降、鉄製の頑丈な扉が続いたことと、時間が無いためエクスプロージョンブリーチングによるゴリ押しで進んだが、そろそろ爆薬が打ち止めらしい。ちょうどいい感じに木製の扉に変わったため、ブリーチングバーによる突破に改める。ビーコンとアドミンアームバンドの見取り図によると突破すべきドアの数は3つだ。しかし、僅かではあるもの銃声が聞こえることから戦闘中なのだろう。ここからは慎重にやる必要性がある。
「ドアの向こうに敵は確認できない」
「了解。僅かにであるが銃声が聞こえることから近くに敵がいると思われる。静かにやれ」
ドアの隙間に差し込んだファイバースコープで敵がいないのを確認してから、ブリーチングバーで蝶番を破壊。扉が開くのと同時になだれ込み、クリアリングをする。
「次、カメラを」
室内をすばやく捜索し、次のドアに取り掛かる。先ほどと同じようにファイバースコープをドアの隙間に、差し込み内部を確認する。中に敵兵が8人いる。ただ、警戒しているわけではなく、こちらに背を向け、奥の部屋と撃ち合いをしているようだ。
「行くぞ」
そう声をかけ、ハンドサインでカウントダウンをする。
3__ブリーチャーがショットガンを鍵に向ける。
2__ブリーチャーのすぐ後ろで待機するポイントマンが肩にストックを当て、いつでも行けるぞと示す。
1__準備万端だ
〔ダァン! ダダン!ダダン!〕
「クリア!」
「クリア!」
「オールクリア! グミ!撃つな!撃つな!」
グミとの戦闘に夢中だった兵士たちを始末するのは一瞬だった。何しろ、前の敵にご執心で背中がお留守だったからだ。それよりも、こっからが大変だと言える。味方とは言え、極限状態に置かれていた人間は扱いが難しい。無言で近づけば敵だと思われていて誤射される可能性があるし、絶対に聞き逃さないように大声で叫ぶと今度はびっくりして反射的に撃たれる可能性が出てくる。さらに、場合によっては錯乱して敵味方関係なしに動くものすべてに弾丸を叩き込んでくる可能性もある。
「2人ここに残り警戒しろ。 カミングアウト!」
「カムアウト!」
「迎えに来たぞ。…ヘリボーン中に叩き落されたみたいになっているじゃないか。負傷している! 右腕と左足だ! 今、手当する。武器は?」
「遅いわよ。この拳銃とナイフ、後は右のポケットにライフカードが1つと葉巻ケースを止血用のハンドルに使っている。…多分そのへんに釘が転がっている」
手渡されたリボルバーをスイングアウトし、エジェクションロッドでカートリッジをすべて落とす。安全になった拳銃はスイングアウトした状態のまま近くの棚に置く。同じようにライフカードとナイフを取り上げ、葉巻ケースの中身を全部抜き取る。最後に床に転がっている釘を拾い上げ同じように棚に置く。
コールとAが終わったらCABだな。循環…OK、気道も会話できているからOK、呼吸もOK。次はN、受け答えはしっかりしているから大丈夫。
「腕動かしてみろ……よし、神経系もOKだな。安全確保と状況把握はOK、止血するぞ」
左側カマーバンドのポーチを開け、中のゴム手袋をはめ、出血点圧迫止血をしていた足をどかし、まず救命止血を行う。カッチという音が聞こえるまでベルトを締め付ける。SAM-XTタニケットだから3フィンガーチェック入らない。3タッチで最終締め付けを行い、マジックペンで時間を記録。少し余裕ができたところでタイムリミットが近い右腕の銃槍にエマージェンシーバンテージを巻いていく。CA用のキットはエマージェンシーバンテージが1つしか入れていないから出来ることはここまでだ。後は右腕の雑巾と葉巻ケースの止血帯を緩めて衛生兵に任せる。どうせ戦闘は終了しているのだから止血帯の痛みに耐えられなくなる20分の内に包帯ぐらい巻き終えることができるし、本来指揮官がファーストエイドを行うのはあまり宜しくない。
……ああ、忘れるところだった、SWATタニケットがあるんだった。まず、コンバットガーゼを貫通銃創に押し込み、マジックペンで追い打ちのごとくねじ込む。その後、SWATタニケットで左足の患部に巻き、固定する。こいつは基本はタニケットと書かれているように止血帯であるが、弾性包帯、圧迫包帯などとしても使用可能となっていて、さらに骨折時の副子固定用にも使える便利な奴だ。IFAKⅡの様な官給品の軍用ファーストエイドキットには採用されることが少ないのだが、マルチに使えるため軽量化の為に試験導入したものだ。
「任された。止血は終わっているな。って、足の止血帯が解除されていないじゃないか。緩めていくぞ」
そう言って止血帯のハンドルを緩めながら止血の再評価をする。どうやら止血はできたらしい。バックパックから出したサバイバルブランケットを羽織らせれば、応急処置は終了だ。バックパックの奥からヒップホルスターとメディカルポーチ、ユーティリティポーチがつけられたリガーベルトを出し、グミに渡す。歩けるなら自分の身ぐらい守れ。と言うことだ。
「よし、これで終わりだな。……って抹消冷感じゃないか!? それに冷汗もある! どっかから漏れてるぞ! ショックの疑いあり! 俺はリンゲル注射をする! 他はトラクションロープの準備を!」
「パルス120! 早い! BPも低くなっている!」
左足から大量出血していたことと抹消冷感や冷汗があることを考えると恐らく循環血液量減少性ショックだな。低体温症になりやすい症状の一つだ。低体温症の対処法はサバイバルブランケットなどで体を冷やさないこと。……それはもうやっているからミルティックによる相対的な血液増量とリンゲルによる時間稼ぎ。
「オレがミルティックをやる」
「いや、それよりも止血帯止血をしてくれ! 腕の方だ!」
と言って、RMTタニケットを渡される。…なるほど、確かに包帯から血がにじんでいる。すぐさま指で健在な骨の位置を確認し、もっとも腕を残せる場所にRMTタニケットを通し、超音波診断装置で血流その他を見ながらラチェットをひとつずつ締めていく。
俺が、止血帯止血をしている間、セキュアーIVでIV締め付けを行い18ゲージの針を静脈にさし、IV締め付けを解除して密閉テープの上から被せてさらなる固定を行う。そこまで素早く行い、バッグから出したリンゲルの点滴パックと接続し輸液補充を行う。RMTは急ぐものではないとはいえ、早すぎではないだろうか?
「こんだけ騒いだらAK持った連中がやってくるわよ。連中かなり練度が高い。銃弾を漫画みたいに回避して懐に飛び込んでくる。ミイラ取りにならない対策はしているの?」
半ば忘れかけていたコンバットピルパックを飲ませて、軽量装備キャリア__CONDOR製のHハーネスを改造し本来ベルトキットを支えるナイロンストラップをベルトへ接続せずそのまま脇の下をくぐらせたもの__の左ショルダーストラップに付けたライフル用のフラップ式ダブルマガジンポーチから取り出したチョコレートバーをぼりぼり食いながら言ってくる。(なお、右側のショルダーストラップにはモジュラーレッグホルスターがついている。え?拳銃のマガジンポーチとダンプポーチ?装弾数17発なんだからリロードなんかしないだろ? それ以上必要ならもっとちゃんとした装備を使おう? な!?)
「なるほど、それは回避力だけか? 防護力は?」
「ライフル弾は全力回避したから効果があるはず、……でも、拳銃弾は当たってもかすり傷レベルだったわ」
うん、二番装備でよさそうだな。
二番装備は、米国スタンダードマニュファクチャリング社が開発したブルパップ型ポンプアクション式散弾銃であるDP-12だ。こいつはケルティックKSGやUTAS UTS-15などと同じ、デュアルフィードシステムを採用している。しかし、こいつの特徴はそれだけではない。なんと、水平二連式ショットガンでもあるのだ。世界的に見ても『永久不滅のオワコンジャンル』という不思議な立ち位置である水平二連式を採用することで、1階のポンプアクションで2発射撃可能となり、ポンプアクションの欠点を一部改善している。さらに、偉大なる先駆者たちよりも優れた点として3インチのマグナムショットシェルが使用可能と言うところか。全長749㎜、銃身長478㎜、重量約4.4㎏、装弾数7+7+2とコンパクトながら高火力と言える。
プライマリーの変更に合わせて、2ndラインを変更する。D3CRMチェストリグを外し、プレキャリ前面パネルに取り付けられていたガラパニアのデュアルパーパスシェルキャディーが姿を現す。それと、ファニーバッグからショットシェルを取り出し、ダンプバッグに10発ほど入れておく。また、本来はアドミンパネルを装備することが多い前面パネル上部にはウィスプウェポンキャッチ、PALスリングが取り付けられている。実を言うと直前までこのスペースにカイデックスホルスターを付けるかどうか悩んでいた。ヒップホルスターはずり上がりやすいためそれが嫌だったのだが、チェストホルスターではそれがなくなるのが一点、右側カマーバンドにポーチ類を取り付けられるようになるのが一点……と色々利点があったのだが結局、拳銃のクイックドローを捨てたため何も配置されていない。
……が、よくよく考えたら今からCQBをやるのだからドロウに時間がかかったらだめじゃないか。仕方ない、プレキャリのカンガルーポーチに入れておこう。インベントリーの中から使い道がなく死蔵していたグロック用のインサイドホルスターを取り出し、それをダクトテープで簡易的に固定することとする。ハプニングの対応が完了したところで、最後の確認を行う。それは右側カマーバンドのメディカルポーチのあるものが壊れていないかの確認だ。こいつが今週のびっくりドッキリメカになる可能性があるから使う時に壊れていました!じゃ困る。……よし壊れていないな。
それでは出発だ!(半ばやけくそ)
2020/02/10 1756時追記 ホルスターずり上がるんだったらガラパニアのベルトリテンショナー付ければ良くね?って気がするけど、それに気づいたのはたった今なので、あと出オチパートでやっとくことにします。
もう一点、デュアルパーパスシェルキャディーに関してですが、『エアガン規格だけど、実銃規格の…それもマグナムシェル何て保持できんの?』と指摘を受けました。多分あと16年ぐらいの間にマグプルとかとコラボして実銃規格をリリースしたんだと思います。