第9話「焼き肉パーティーをしよう」
第3章第9話「焼き肉パーティーをしよう」
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いい事の準備を終えた俺は、真っ暗な路地を警戒しながら進む。エレヤ要塞は物資集積場の防衛施設を無計画に増改築していった結果、いつの間にか要塞が出来ていた。という経緯で誕生した要塞であるため、まるでスラム街の様に細い路地が入り組んでいる。ここまで来るともはや市街地戦だ。攻城戦では無い。市街地戦では前後左右だけでなく、上階や足下にまで気を配らなければならない。
突破された城門を守るために近道をしている敵兵3人組が出てきたが、構えをとっていない。恐らく俺がここまで浸透しているとは思ってないのだろう。
「ーーー!」
〔ダダン! ダダン! ダダン!〕
敵兵が声を上げる前に引き金を引く。CQBの対応するべく、どうしても取り回しが悪化してしまうサプレッサーを外していた銃口からけたたましい雷鳴に似た銃声が聞こえる。こういう時に.300BLKの様な亜音速弾と短いサプレッサーの組み合わせがほしいと思うが、最初から打ち上げの狙撃をするつもりだったから選択肢から消えていた。
要塞内部に入ってからというもの交戦距離は50メートル程度と非常に短くなっている。この程度の距離なら標準的な超音速弾よりも高い威力を発揮する.300BLKの様な亜音速弾にすべきだったかと後悔しながら、前へ進んでいく。
セミオートの高速ダブルタップで、敵兵の胸部に弾丸が命中しごっそりとえぐり死体にクラスチェンジした。所要時間は3秒足らず。
敵兵が何事かと飛び出てくるが、気づかれるに始末する。それを繰り返す事数回、ついに会場に到着した。
会場は要塞内部の兵舎棟だ。4階建ての石造りであり、騎士王国の国土に合わせた独特な建築様式を採用している。その特徴は建物の中央付近に木炭などを燃やし、その熱をシャフトとダクトを通じて、建物全体を暖かくする、という暖房システムだ。この特徴は豪雪地帯ならではの生活の知恵だが、今回ばかりは牙となる。
まず、裏に回り、調理場に入る。食料庫からウォッカを貰い、リネン室から石鹸とシーツを貰う。
それら物資を手にボイラー室に入り、酒樽の中におろし金のようなもので削った石鹸を入れ火かき棒でかき混ぜる。酒が石鹸と混ざりドロドロになるまでかき混ぜる。それはもう黒糖をドバドバ入れて次の日に筋肉痛になることが確定するぐらい硬くなるまで混ぜる。
かき混ぜたら樽の中にシーツやらテーブルクロスやらを入れ、十分に浸してから取り出し床にひいていく。ひき終わったら、隣の石炭庫から石炭をかき出し床にまんべんなく引いていき、最後に樽に残ったウォッカと石鹸の混合液をドバドバかけていき、裏口から外に出る。
兵舎から十分に離れた俺は早速DIYを始める。用意するのは門兵が飲んでいたらしい飲み掛けの酒瓶とリネン室から借りてきた石鹸、ナイフ、メモ用紙、ライターである。
まず始めに、石鹸をナイフで可能な限り細かくする。次に石鹸の粉を酒瓶に入れ、メモ用紙を飲み口に突っ込む。そしたら軽くシェイクして出来上がりだ。
メモ帳にライターで火を付け、投げる!
そうしたらブオゥと音を立てガソリンに引火、リネン室のシュートシャフトを通じて火が兵舎の全体を包む。後は数分間放置するだけで焼き肉は完成する。
「火事だ! 逃げろ!」
「ギャァァ! 燃える! 消してくれ!」
後は突然の火災から着の身着のまま逃げ出してきた兵士たちにダブルタップで銃弾を叩き込んでいくだけの簡単なお仕事だ。まぁ、消火するために駆けつけた兵士たちを警戒し、始末する必要があるからしんどい事は事実だが。
モグラ叩きを10分もすればおかわりが来なくなった。一人でこの要塞のすべてをクリアリングするなど不可能だ。ここは盤面をひっくり返すことにしよう。
やる事が決まれば準備をするだけだ。必要な物を揃えて、無線で接続する。後は要塞の外に出て、起爆ガジェットをカチカチするだけだ。
「さらば、また逢う日まで…」
〔カチカチ……ズドォォォーーーン!!!〕
自転車のブレーキのように握るタイプの起爆ガジェットを二回握ることで起爆信号が要塞内部に仕掛けた10個の1000ポンド爆弾を一斉に起爆させ、要塞を構成するあらゆるものを吹き飛ばした。ここにエレヤ要塞は完全に破壊された。
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2年後
ルーメリア王国
王都シロンクス
中央行政区画
兵部省統合参謀本部会議室
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「この商業統計からわかるように、騎士王国領内での穀物、鋼材、魔石など軍需物資の先物相場が徐々にではありますが高騰しています。また、大規模な軍事演習や通信量、部隊、物資の移動などが急増しています。これは戦争準備であると考えています。可及的速やかに騎士王国に対し、情報収集と妨害を行い、本格的な防衛戦争の準備をするべきです」
この2年で、ルーメリア王国軍の人員不足は大きく改善した。将校充足率は103%。下士官の充足率は120%を先月超えたばかりだ。一般兵に関しても87%と動員前としては高水準を保っている。これに加え、動員令を発令すれば2カ月以内に兵員充足率は164%と一線級部隊を完全充当しつつ、後方警備専門の二線級部隊をも創設可能になる。もちろん装備も最新鋭の物が配備されているし、兵站を支えるトラックは各師団に600両が配備され、火砲も第一陸軍編制の師団砲兵75㎜野砲36門編制から旅団砲兵隊に75㎜砲が6門と37㎜対戦車砲12門、師団砲兵連隊に122㎜榴弾砲72門、149㎜加農砲36門に増強されさらに各軍団に1個独立砲兵旅団が新編された。各歩兵大隊の戦力も3個歩兵中隊と重機関銃32挺を有する機関銃中隊からなり、各歩兵中隊は3個小銃小隊を基幹に支援部隊として対物ライフル1挺が配備された重狙撃分隊と大隊から移管された81㎜迫撃砲4門を有する迫撃砲小隊と独軍精鋭部隊レベルの火力を持つ部隊が出来上がった。
ただ、まだまだ急造でしかない。30カ月前の将校充足率が3割を割り込んだときに優秀なものから順に最大で師団長にまで特進させた結果、4階級特進をさせられた者すらいた。さらに中隊級部隊指揮官充足率4割、小隊級部隊指揮官充足率1割以下と悲惨なことになったし、本来小隊長(少尉又は中尉)小隊下士官(ベテラン曹長)分隊長(軍曹)×4副分隊長(伍長)×4一般兵×32名の合計42名でもって小隊を編成することになっているが、小隊長未配備、小隊下士官は任官2年目の新米軍曹を強引に曹長に昇進してから配備、分隊長は新米伍長が2名のみを後期教育期間が終了直後に有無を言わせず軍曹に昇進させ配置、副分隊長は配置されず下士官勤務上等兵で急場しのぎ、一般兵も8名のみ配備、合計11名という中国内戦介入前のまだ自衛隊だった時代の国防陸軍を笑えないレベルのハイパー人員不足が起こっていた。
まぁ、編制未了の部隊に赤い津波ならぬ青い津波がブチ当たり、何とか大損害を出しつつもしのいだところに3回に及ぶ陸軍大軍拡(27個師団の増強、師団定数の増強、各種支援部隊の増強などなど)をしていれば当然だろう。もはや危機的状況と言う言葉すら生ぬるいほどの深刻な人手不足に直面した王国軍はこれまで以上のなりふり構わない採用と昇進が行われた。『君は数カ月前に4階級特進をしたらしいね。それだけ君が優秀だと言う事だ。さらに昇進させようじゃないか?もちろんうれしいよねぇ?』などと言われて結局半年で7階級も昇進したものがいるとかいないとか……
さらに、下士官の充当を早急に行うため第2師団と陸軍教導学校を統合し、中央教導師団に再編成し、1期(教育課程は5週間)あたり80名に過ぎなかった下士官養成課程は1期辺り940名に拡大された。将校も同じく、促成栽培がおこなわれたし、中央教導師団とともに幹部候補生課程……つまり下士官からの前線将校の登用だ。が大々的に実施された。これだけやり、何とか帳簿の上では先の充足率を達成できたが実際には経験不足も甚だしい。訓練や演習、図上演習を頻繁に行っているが、そう簡単に解消できる問題でもない。
装備に関しても問題だらけだ。東部総軍隷下の一線級近接戦闘部隊(つまり各師団の歩兵部隊だ)には最新鋭のM1891ライフルが配備されている。東部総軍隷下砲兵隊や工兵隊、東部総軍隷下以外の一線級戦闘部隊(中央配備や西部配備など)は帝国から輸入したGew78ライフルが配備され、後方支援部隊にはドライゼ銃の口径変更タイプを、後方警備部隊には帝国製SMGのMP86が、一線級近接戦闘部隊の一部や一線級車両戦闘部隊にMP86の改良型のMP88A1(MP90なのだが、量産性の向上意外に大した違いがないためMP88の改良型と判定された)が配備されている。さらに騎兵隊の流れをくむ師団捜索連隊や主に槍騎兵などの偵察専門の機動兵科流れをくむ情報収集部隊にはカービン銃であるKM1891やGew78Kなどが配備され、101特務歩兵大隊や102混成機動旅団ではHK416が配備され、教育部隊には結局少数配備で終了した連合王国製のシングルカラム8連マガジンのリーメンフィード銃が配備されている。極めつけに駐屯地業務部隊には独立前にコツコツと輸入していた連合王国製や帝国製、又は国内の騎士王国軍基地から鹵獲した黒色火薬を使用したり、単発式だったり、前装式だったりのライフルを無理やり無煙火薬連発式後装式に改造した雑多なライフルを使用している。教育訓練整備補給運用全ての面において体系が複雑すぎる。特に教育部隊と一線級の戦闘部隊の装備が違うとかベトナム戦争になりそうでいやだ。
あぁ……フランス軍は偉大だったんだな……第二次世界大戦で一方的にボコられたとは言え、速攻で退場したとはいえ、ドイツと日本を戦争に引きずり込んだりしたとは言え、ドイツ連邦軍が没落ぶり(陸軍戦車運用数では2010年代において陸自の半分、2028年以降は4分の1以下だ)に比べてフランス軍は伝統ある欧州最強陸軍を維持している。(その上で、小型とは言え原子力空母を保有し、外人部隊と言う世界有数の優秀な緊急展開部隊を維持し、米ソ両国に次ぐ核作戦能力をも独自に整備している)装備体系の圧縮による教育訓練整備補給運用の合理化という野心的な装備調達計画を完遂できている。国防軍の様にただただ新しい兵器を少数だけ導入して装備体系を混乱させているわけではないのだ。ちゃんと新型装備を全面導入することで装備体系の合理化を遂げている。第二次世界大戦のポンコツぶりが印象に強く残っているだけで現実のフランス軍は大変優秀な軍隊だ。これはヘタリアなどと馬鹿にされているイタリア軍にも言えることだが、日本もそうであることを考えると第二次世界大戦でポンコツだった国は自らを反面教師にして改善することが出来たと言う事だろうか?その代償にドイツ連邦軍は蛆虫に失礼と言うレベルのクソ具合だが……
まぁ、色々と最悪だが、帳簿の上では人員、装備ともに完全充当できているのだから2年前よりは全然ましだ。なぜなら大隊規模以上の模擬戦闘訓練を行えるからだ。2年前は『編制未了に付き実質的に増強中隊規模でしかない大隊を指揮するという想定の机上演習』しかできなかった。と言えばどれだけひどかった変わるだろうか。『大損害を受け』ではなく『編制未了に付き』だ。お互いにお互いを笑える状況じゃない陸自ですら部隊対抗演習の時は他の部隊から人員の増強を受けてフル化編成部隊を作るというのに。