第8話「やられたらやり返す。百倍返しだ!!」
第3章第8話「やられたらやり返す。百倍返しだ!!」
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闇に染まる深夜の森から、騎士王国国境側のエレヤ要塞が見える位置まで移動した。
エレヤ要塞はかつてこの地がルーメリア王国だった時代に偶然にも地球のE77とほぼ同じ経路をたどる街道上の宿場村の跡地に建てられた西進を続ける騎士王国軍を食い止めるために編制されたルーメリア王国陸軍北東方面軍の後方物資集積地がいつの間にか要塞になった。という珍しそうに見えて案外ありふれている要塞だ。
かつて宿場村があった時代に村人たちの胃袋を支えていた田畑は荒れ果て、8度にわたるエレヤ要塞攻防戦の影響で2277年のコロンビアを連想させるような荒野となっている。この地域は数多の国々が栄え、同じだけの国々が滅んでいったヨーロッパであっても多数の血を吸った地だ。
この地は『77号街道は騎士どもの血で舗装されたり』などと言われるほどの激戦地であり、第一次から第七次の7回すべてにおいて侵攻側の騎士王国軍が軍事的な意味ではなく文字通り全滅しているという203高地もかくやと言う激戦を繰り広げ、止めに第八次エレヤ攻防戦において騎士王国軍はB-17やB-29による地域爆撃の如き長距離重戦術級魔法の乱れ撃ちを行い、要塞周辺に存在するすべてのものを焼き払って占領したという経緯からぺんぺん草一本すら生えていない状態だ。
この要塞は相当に見通しがいい。今は森の中にいるが要塞から500メートル程度離れており、そこから先はもう半世紀以上前のことだというのに第八次エレヤ攻防戦の傷跡が残っている。
エレヤ要塞は高い石壁に囲まれた箱型要塞だ。外壁の高さは刑務所の倍程度……10メートルぐらいだろうか?石壁の向こう側には、更に高い監視塔が建っているのが見える。
サーチライトを使っているところを見ると、24時間体制で監視しているのだろう。だが、妙に暗い。反射板の反射率が恐ろしく低いのだろうか?それとも光源に松明でも使っているのだろうか?
荒野に身を屈め、HK433のブースターで監視塔の様子を窺う。監視塔には4人。監視塔の内部に大きな鐘のようなものが見える。敵などを発見した場合、鐘を鳴らして要塞全体に警報を鳴らすのだろう。しかし、監視塔の兵士は真面目に監視している様子はない。深夜という時間、いくら壊走したとはいえ、騎士王国軍の最精鋭部隊がつい数時間前まで前方展開していたのだ。まだ来ないだろうと油断していてもおかしくはない。
視点を他の場所に移し、攻撃目標を選定していく。しかし、高い壁と監視塔以外にこれと言ったものが無い。つけ城や出城のようなものも無い。
偵察に見切りをつけ、攻撃の準備をする。今回は遠慮なく殲滅できる個人的な八つ当たりだ。しかし、もしこの要塞襲撃の情報が伝わったら騎士王国はルーメリア王国による本格侵攻だと受け取るだろう。そうなったらルーメリア王国は装備、人員とも充当が完了できておらず、将校充足率も低く、当然部隊として動けるほどの訓練も出来ていない暴徒乃至群勢(ルーマニアよりはましだと信じたい……)で悲惨な防衛戦を行うことになるであろう。騎士王国の暴動鎮圧軍による進行による傷跡はそれほどまでに大きい。
だから、一兵たりとも逃がすわけに行かない。本格的な攻撃開始前に敵の退路を塞ぐ必要がある。エレヤ要塞から騎士王国に向かう道は必ず川を通る必要がある、その川にかかる橋の数は3つ、この3つの橋に爆薬を仕掛け、無線式の起爆装置をセットする。
よし。これでいい。マウンテンバイクに跨がり、要塞北側の茂みまで移動する。茂みに自転車を隠し、装備を準備する。まずヘルメットを取り、NVGとカウンターウェイト、ストロボライトを取り付ける。ランヤードがNVGをしっかり固定しているのを確認してからメットを被り、あご紐をしめる。
装備の次は武器の準備をする。まずは拳銃だ。マガジンが入っていることを確認してスライドを引く。安全装置をかけてホルスターにしまったら次はアサルトライフルの確認だ。一度全体をサーチしてから照準器とライトデバイスの確認と行い、最後にマガジンを差し込み、初弾を装填する。
最終確認を終えた俺はATVの荷台に標準で搭載されている防水ポンチョを身にまとい、スキルを操作、M72LAWを2本召喚する。こいつを背負い、姿勢を低くして要塞に近づいた。距離は200メートル程。射程距離ギリギリだが、これ以上近づくのは難しい。
「ふ〜 はーー」
〔プッシュ!プッシュ!〕
アサルトライフルを構え、監視塔の兵士たちを狙った。久しぶりのアサルトライフルによる狙撃でさらに打ち上げだったが体が感覚を覚えていたようだ。しっかりと頭部に命中した。無論、気づかれていない。
監視塔を無力化した俺は、要塞に近づき、背中に回していたM72LAWを構えた。こいつは対戦車ロケットランチャーの一つだが、第二次世界大戦に続き戦後も恐竜的進化を遂げた主力戦車の正面装甲を貫けない。だが「歩兵一人が運用可能な爆薬を数百メートル投射できる武器」と言うのは便利なもので、他のロケットランチャーや無反動砲よりも軽量かつ安価なためかつての歩兵砲の様に便利に使われている。主な用途は装甲車の攻撃や防御火点の制圧、ウォールブリーチングなど……まあ、今回のような使い方にはぴったりな武器の一つだ。
それを2発。着弾と同時に爆発……分厚いとはいえ、所詮は木製。簡単に大穴が空き、要塞内部に向かって倒れた。
役目を終えたM72LAWを地面に落とし、M72を構え、城壁に向かい5発ほど撃つ。
ロケットランチャーやグレネードを何発も打てば襲撃がバレる訳で、騒がしくなる。
「て、敵襲ーーー!」
「城門が破壊された! 増援を呼べ!」
「襲撃だ! 全員城門前に急行しろ!」
しかし、城門前に集合したら各個撃破されるとは思わないのか? 普通は少し引いたところに集合してから向かうべきだろう。まあ、それはいい。敵が馬鹿な方がやりやすいから嬉しい誤算だと思うことにしよう。
そんなことを考えながら破壊された城門をくぐり抜け、目の前の敵兵に銃を向ける。
〔プキキ! プキキ! プキキ!〕
銃を右から左に流しながら敵兵と照準が重なった瞬間引き金を引き、胸部に2発づつ銃弾を叩き込んでいく。5.56ミリの弾丸は鋼鉄製とはいえ、歩兵が走れるほどの重量に抑えられたペラペラのアーマーをものともせず貫通。内部の肺や心臓を破壊し、確実に絶命させていく。
城門を破壊してから僅か40秒で城門の近くにいた敵兵は全滅した。ちょうどいい大きさの遮蔽物に身を隠し、マガジンを確認する。残弾は3発。チェストリグから新しいマガジンを取り出し、マガジンを交換する。
「なんだこれは!? 敵はどこだ! 探せ!」
増援第一陣がご到着。数は8名、装備から察するに将校1名と一般兵7名の組み合わせだ。
遮蔽物の右から銃と顔だけ出し、将校の頭に照準を付ける。
〔ップ!〕
〔ブッチャ〕
「ひぃぃー!」
「隊長が……」
突然将校の頭が弾け、脳みそや血を浴びた兵士が腰を抜かし、周りの兵士たちが唖然と将校の遺体を見て立ち尽くしている。連中は対狙撃兵戦闘の訓練を受けていないらしい。5人続けてヘットショットに成功したときやっと残りの兵士たちが地面に伏せた。
「射線が通らないな」
増援第二陣はまだ来る気配がない。俺は遮蔽物から飛び出し、伏せている……と言うか壊れている兵士たちの腕と太腿をナイフで切り裂き悲鳴を挙げさせた。殺してはいない。どんどん悲鳴を上げて仲間を呼び込んでくれ。
これで間抜けがやってくるだろう。あとは、兵士たちの周りにワイヤーを張り、そこにピンを一回抜いて刺し直した手榴弾を付けておけば簡単なトラップの出来上がりだ。
ちなみに、この簡単なトラップの簡単な探知方法は、ライフルのマズル部にカンオープナーをサバイバルキットの中に入っている釣り糸でたらすことだ。そうすることで釣り糸がワイヤーに絡まり、カンオープナーの金属音で“何かがある”事に気づける。
さてさて、次はどこに行こうかね? まだほとんど来ていないことを考えると大半の兵士たちはまだ出撃準備中なのだろう。フルプレートと言うものはとにかく着るのに時間がかかる。内側からインナーシャツ、クロスアーマー、チェインメイル、フルプレート。と言う順番でクロスアーマーまでは基本的に布の服に過ぎないから一人で着れるがチェインメイルとフルプレートにかんしては合計100キログラムと言う大重量で最低でも2人で、体力や速度を考えると4人ぐらいでお互いに助け合いながら着る必要がある。まあ、とにかく時間がかかるのだ。……いいこと思いついたぞ。必要な物は………あったあった。これこれ。後はライターと紙だが、メモ帳でいいか。