第5話「やっぱり王子様は柄じゃ無い」
第3章第5話「やっぱり王子様は柄じゃ無い」
……………
≪アルファ、ディスイズ、シエラ。そちらの状況は?≫
「……現在、4分の1を消化。今のところステルスだが天幕の周辺に兵士が多すぎる。適当に注意を引いてくれ」
≪……了解。とりあえず反対側で適当に悲鳴を上げさせるわ≫
「……わかった。始めてくれ。Out」
無線で狙撃チームと交信しつつ、兵士に気付かれる前にCOMP M2のダットを頭に合わせ、トリガーを絞る。その瞬間、4.7㎜弾がMP7より発射され、また一人、地獄に旅立った。既に5人目で1人あたり、3発使っているから残り25発。
「一先ずここまでは来れた。後はレシアを救ってその後は……ここの兵士を皆殺しだ」
倒した兵士を物陰に隠し、レシアが連れて行かれた中央のテントまで突き進む。M202ロケットランチャーの攻撃で燃え盛るテントの消火作業で人手を割かれ、警戒が甘くなっている今のうちに攻め、レシアを取り戻しに行く。
途中、気づきそうな兵士に銃弾を叩き込みながら進むが、あまりにもお粗末すぎる。消火用水は爆風で簡単にひっくり返るようなバケツだけ。明らかに攻撃を受けているのに、警戒体制が引かれていない。特に変装しているわけでもないのにやり過ごせていること。敵ながら騎士王国軍の未来が心配になってくる。敵国領内で特殊コマンド作戦なんて普通、精鋭部隊がやる仕事だろうに。精鋭部隊がお粗末なのか、精鋭部隊が消滅したのか……どちらにしろ敵の明日が心配になってくる。
そして1マガジン撃ち切る頃には中央のテントまでたどり着いた。ここまで来るのに殺した人数は11人。そして、シエラチームが18人。まぁ、最後には皆殺しにする予定だからあっているかどうかは関係ないことだったりするが……
テントに入る前に残り2発となっていたマガジンを新品のマガジンに交換し、腰の多目的ポーチから取り出したフラッシュバンを投げ入れ、勢い良く突入した。
「ん?何だこ」
[バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン!]
「動くな!」
突入と同時に叫び、内部にいるであろう人間の動きを牽制する。1つのフラッシュバンから9回の大音響と強烈な閃光が、テント内部の人間を襲った。俺は聴力保護機能を持つT5ヘッドセットを使用しており、ほとんど効果がなかったが、下半身丸出しの明らか高校生が3人とおそらく貴族であろうルネサンス期を連想するようなデザインのゴテゴテした服装の中年男が1人、そして服が無残に咲かれ、両手両足を拘束されたレシアが居た。
レシアは何とか目と耳を防御できていたが、それ以外の4人は完全に伸びている。別に叫ばなくてもよかったかな?と思ったが結果論だ。とりあえず、ジャケットのポケットからタイラップを取り出し、伸びている4人の腕を後ろに回し、親指同士を結んで置く。
「レシア、迎えに来たよ。随分と戦場的な姿になっちゃって……こいつらに何もされてなさそうだね。間に合ってよかった。さあ、これを着て」
両手両足の拘束をほどき、ファーストエイドキットの包帯で傷口を治療し、ジャケットを着させた。
「家に帰る前にやらなきゃいけない事が有るから少しだけ待っててくれ」
シロウはレシアにそう言うと、今度はフラッシュバンをまともに食らい伸びているの4人に目を向けた。
「さてとお前たちは俺の大切な婚約者を誘拐したばかりか、人として一番やってはいけないことをしたわけだが、なにか弁明があれば聞くが?」
「なにが弁明だ! 我が国の領土を不当に占拠する人間が何を言うか! 曲者だっ——」
他の兵士を呼ぼうとしたらしいがそれを許す筈がなく、言い切る前にMP7A1から銃弾が放たれ、その銃弾は貴族っぽいやつの肩を撃ち抜いた。
「があッ! 肩がッ! 貴様ぁ!、何をしたぁ!」
ついでに無事な法の方と両肘、両膝を打ち抜いておいた。多分出血多量で死ぬだろ。せいぜい苦しんで死んでくれ。
「閣下! チャイコフスキー閣下はご無事か!」
「あ…… シエラ、ディスイズ、シロウ。天幕に敵兵が入ってきたんだが……」
≪……天幕周辺は攻撃禁止って言われたんだけど≫
「貴様ッ! よくも閣下をっ!」
「せめて報告して欲しいんだけど……それで、どのくらいいるの?」
≪……天幕周辺に敵歩兵が60名。攻撃禁止解除許可を≫
「何を言っているのか知らないが黙れ! 閣下の仇、取らせてもらう!」
「攻撃禁止解除準備。ところで何できた?近くにスパキャットはあるか?」
目の前の敵兵よりも、無線交信に集中したシロウに激高した敵兵はもがき苦しんでいるだけで、未だに生きているチャイコフスキー閣下とやらの仇を討とうとする。兵士は剣を抜いて切りかかろうとする。
[プキキ]
≪え?あるわよ。20メートルぐらい後ろに≫
一歩目を踏み出そうと足を出した時には兵士の体に4つの穴が開き、そこから血が流れていた。
「は?」
ここに来るまでの道中に遭遇したほかの兵士同様、この兵士も自分の身に起こった事が分からずに突如として複数の穴が開き、なぜか地面が横に見えた。
サプレッサーの効果によりMP7A1の発射音は抑えられ、自分が何をされたのかわからぬまま、殺害されていく。改めてサプレッサーの便利さとありがたさをかみしめたが、フラッシュバンを使っているためあんまり関係なかった気がする。
「じゃあ、オレが安全圏に逃げたらアレを頭上に落としてやれ……それとレシア。これを貸すから」
「は?えぇ……」
シロウはUSP-コンパクトをホルスターから取り出し、左側のコントロールレバーを操作しデコッキングしてから渡す。
「弾薬は9×19㎜パラベラム弾で装弾数は13+1発。予備弾倉は……この2つで合計40発。でるぞ」
外にはいつの間にか沢山の兵士が取り囲んでおり、このままでは脱出できそうには無かった。その兵士の中で「敵襲だ」や「見つけたぞ、敵だ」などの声がちらほら聞こえてきた。
「はあ、参ったな……シエラへ。狙撃で邪魔な奴を排除してくれ。それとアレの準備はどうなっている?」
≪狙撃準備了解。既にいつでも撃てるわ。弾薬は10発≫
「わかった。攻撃禁止解除する。 それとレシア、強行突破するからちゃんとついてきてくれよ」
シロウはベルトポーチから最後の一つである手榴弾を取り出し、安全装置を外す。
5……
振りかぶる。
4……
そして投げる。
3……
そのまま倒れるように伏せて頭を守る。
2……
「先に教えてやる。やめた方がいい」
1……
なぜか知らないが、うつ伏せになった奴を拘束しない理由はない。兵士たちは一斉に走り出そうとした。だが、やっぱり忠告を素直に受け取った方が良かったと、思った兵士が少なからずいた。全員ではない。
[ズドォォン!!]
手で投げられる爆発物など、鉱山で使用されるダイナマイトぐらいしかなない世界で、鉱山技師でもない兵士たちが手榴弾を変な投げ方をする投石程度にしか見れないのは仕方ない面がある。そんな訳で、兵士たちはほぼ全滅と言っていい。
では、あとは呑気に歌でも歌いながら帰れるかというと、そうもいかない。何故なら、手榴弾が少数で多数を撃破できるOP武器だ。と言ってもその炸薬量は164グラム。学校給食の牛乳パックよりも軽い。また、前任のパイナップルと比べて、科学的知見から設計されたこの手榴弾は必要以上に遠くに破片を飛ばさないように計算されており、15メートルも離れれば効果は薄くなる。それでも、突破口を開くには十分な殺傷力だ。
「走るぞ!」
「ええ!」
走りながら、前方の邪魔な敵を撃ち殺し、突破する。行程の半分を過ぎたあたりで、狙撃による支援がなくなり、弾薬の消費が激しくなる。
「止まr[プキキ]」
大盾を構えた雑兵に銃弾を浴びせ、そのまま突破する。残弾を確認。残り8発あるが、走りながらスピードリロード、これで残弾は41発。予備マガジンは0、つまり最後のマガジンだ。
「あの二人をねr[プキキ プキキ] バタン」
弓兵4人に対して合計9発。残弾は32発。
「ハァ——ッ![パァン!パァン!]グベァ!」
レシアが剣士に対してUSPで2発、残弾は1発。こちらもタクティカルリロードし、予備マガジンが1つ。
ちょっときついかなぁ~というのが、正直なところ。現在の武装は銃が2丁とナイフが一振り、あとはその辺に落ちている鋳造のブロードソード。——騎士王国の冶金技術は世界最高峰であり、戦場で酷使したとしても半日ぐらいなら壊れることは無い。かなり重いがフィクションの鋳造製の剣の様に日本刀にバッサリというようなことはありえないと言える。まぁ、武器としては重い以外にこれといった欠点はない。——手榴弾は使い切っている。その他、武器として使えなくもないものとして、メディックシザーやツールナイフがあるが、こんなものを使っている時点で負け確である。まぁ、そろそろかな?