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第4話「狙撃兵とは支援兵科である」

第3章第4話「狙撃兵とは支援兵科である」


…………


――1401時




「チキショ――!! なんだよこれ。何をしやがったらこんなになるんだ!!」



「口を動かしている暇があるなら水を汲んで来い!」



「それよりも敵襲に備えろ!」




 テントが燃え、消火活動も始まったばかり……消火用水の確保などしていない騎士王国軍特殊コマンド支援部隊はなかなか進捗しない消火活動をよそに警戒中の兵士は悪態をついた。まぁ、ぼやきたくなるのも無理はない。


 騎士王国軍の精鋭第3親衛軍団より2個大隊(1587名)と国王直轄の特殊部隊であるメルキャッツや王国軍の暗部である各種特殊部隊、簡単に乗せる事が出来た勇者たちで構成された部隊がいるこの「王国暴動鎮圧軍団」の前方展開部隊が展開する野営地は世界最強の軍隊である騎士王国軍の中でも最強の部隊であることは疑いようがない!だからこそ、少し位気を抜いても問題ないだろう。


 しかし、戦場とは何気ないことが死につながる場所を指す。その油断の……不注意の代償は大きい。そのことをいくつの科の実戦経験から知っている彼は、気を引き締めて警戒を強めた。その成果か森の中を高速で移動する影をとらえた。危ない危ない。油断していたら死んでいたかもしれない。と考えながら仲間に知らせようとしたが、そこで意識が途絶えた。




…………


  同時刻

  野営地南東580メートル地点



 騎士王国軍のコマンド作戦支援部隊が野営する貿易商向けの野営地を見下ろせる小高い丘に発破の塊のような迷彩服――ギリースーツ――を着た狙撃兵の姿があった。


「……おや? 始まったみたいですね。なんか気ぃー抜けているくせに直前で気付いたようですよ?」


「でもさすがに声を出される前に処分できているわね。それはそうと、高付加価値目標(HVT)がたくさんいるわね。普仏戦争の時代なわけだから狙撃への警戒は甘いのかしらね」


 地球の普仏戦争においてプロイセン軍のドライゼ銃はその連射速度で猛威を振るったが、命中精度においてはまだまだだった。この時代の小銃には光学照準器というもの自体がほとんどない時代で狙撃銃にカテゴライズできるものであってもアイアンサイトが装備されていた。アイアンサイトで狙えるのはせいぜい200メートルほど。そして、野営地から300メートルほどの地域には頻繁にパトロールがされていた。さらに300メートル程度離れた580メートル地点など想像の埒外であった。戦国時代に日本や冬戦争のフィンランドではマスケット銃やアイアンサイトしか載っていない銃で長距離狙撃を成功させたがそいつらが化け物なだけである。


「かもしれないですね。にしてもコストが高そうなハイバリューターゲットばかりですね。ここは思いやりを発揮する(一思いに殺してあげる)のと、個人的感情を優先する(地獄の苦痛を与える)のどちらにします?」


「どちらも同じ(痛めつける心算)でしょ。あの立ちションをしている派手な軍装(原色レッド)の指揮官から行きましょう。……殺さないように足を狙いなさい……」


 この『殺さないように』という言葉そのものがスナイパーが殲滅兵科ではないゆえんである。スナイパーは接敵前に敵主力小銃の射程外(安全な場所)から指揮艦や機関銃兵(ガナー)狙撃兵(スナイパー)、対戦車特技兵を殺傷、通信機や弾薬類、食料、火砲、車両等物品の破壊などによる組織的戦闘能力の漸減し、接敵後は狙撃兵対策(カウンタースナイプ)地上阻止(足止め)を行う支援兵科だ。


了解(ラジャー)……」


[ダン!]


「右ひざに当てました……」


「OK.…確認したわ……」


「まだ動いていますね……」


「殺さないようにね? 左ひじを打ち抜きなさい……そうすれば這いずって逃げる事も出来なくなるわ……」


[ダン!]


「ヒット……!」


「あ…肘から先が吹き引き飛びました……やっぱり.338(ラプアマグナム)は大きすぎますね……」


「そうね、ギャーギャー騒いで助け(生贄)を呼べるように、悲鳴を上げる程度の体力を残してあげるのが理想よ? そういう用途だと.338は強すぎるわね….226(5.56㎜)精密射撃用(マッチグレード)弾薬(アモ)とかが理想ね」


「次から小さくします…… それはそうと、仲間(生贄)が集まってきたみたいです」


「…7人いるわね。貴女は一番右の、私を含めた残り3人は2人ずつ撃つ。全員レーザーを使って重複しないようにして……いい?」


「スリーカウント  3…2…1…撃て(ファイヤ)


[[[[ダン!]]]]


「第2射……撃て(ファイヤ)


[[[ダン!]]]



「……………OK. グッキル…これで8人ね。ちょっと待って。  アルファ、ディスイズ、シエラ。そちらの状況は?」


≪……現在、4分の1を消化。今のところステルスだが天幕の周辺は兵士が多すぎる。適当に注意を引いてくれ≫


「……了解。とりあえず反対側で適当に悲鳴を上げさせるわ」


≪……わかった。始めてくれ。Out≫


「というわけよ。あの生餌(ライフペイト)も大分グッタリしているし、もう少し気を遣えば長持ちしたのに……」


「あぁ……撃たれても声を上げないガッツのあるやつとか、疲れて叫ばなくなったやつとか居たら、もう1発、致命傷を避けて弾を当てる……そして、叫び声に吸い寄せられた間抜けが来なくなるまで撃つ。たとえ来なくても聞き続けるだけでストレスになる……」


「そう。だから一撃の威力が低い小口径弾薬(.226)が役に立つ。…狙撃って、もっと繊細な作業であるべき。って言う人も多い。スナイパーってどれだけ悪魔が多いの?って話よね」


 あえて生かす狙撃手段のことを友釣りと言う。あえて殺さず、悲鳴を上げる程度の元気を残していくことで、仲間(マヌケ)をおびき出す。……そういうパターンで狡猾かつ残忍な狙撃手段だ。だが、それでもシッカリと止血をする事が出来れば戦傷勲章をもらってセカンドライフを送る事が出来る。まぁ、カウンタースナイプが間に合えばという注釈がつくが。


「まぁ、愚痴を言っても仕方ないわ。腎臓の位置は分る?」


「あー……腎臓を撃たれると血の循環が出来なくなって、どんなに止血をしても10分間、地獄の苦しみを味わって死ぬって聞いたことがあります。わかりませんけど……可哀そうに………」


「たかが10分でしょ。シロウを見なさい。エリカさんが殺された後、いったい何ヶ月悲しんでいたのよ? それに、どうせ地獄に行くのだし、先に体験しておけば覚悟も決まるでしょ?ツアー参加前に閃光体験版を用意してあげるなんてどれだけ優しいのかしら私……」


 友釣りも敵味方双方の士気に大きな打撃を与えるが、腎臓はさらにヤバい。というか惨い。


「……一思いにヘッド・ショットをして上げるのが優しさ。だと思っていましたが、そういう優しさもあるのですか……」


[ダン!]


「まぁ、私も今回の件はカチンときたので手加減してあげるつもりはないのですが……」





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