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元侵略宇宙人セイナの日常物語

作者: アル


 平和だった地球に突如出現した巨大怪獣、次々と飛来する侵略宇宙人。

 それらに立ち向かってくれた巨大ヒーロー、彼のおかげで今も地球は平和な惑星であり続けられる……。

 

 特撮ドラマの話かって? 違うよ、まだ私が生まれてもいなかった頃に本当にあった事だよ。

 私に名前は円谷英子つぶらや えいこ、どこにでもいる普通の中学生です。

 中学生なので平日の朝はもちろん制服に着替えて登校、そのために家を出た直後の私に「おはよう、英子」と良く知った女の子の声が掛けられ、それに対して私も「うん、おはよう星奈」と返した。

 私と同じ制服姿の藍色の髪の女の子は久能星奈くのう せいなっていう私の昔からのお隣さん……まあ、正確に言うとお隣さんっていう設定にされたっていう方が正解かな?

 というのも彼女は本当は地球人じゃなくて、かつて地球侵略を企んだアクノー星人だったりするの。 もっとも、今はもう地球侵略目的じゃなく単に地球が気に入って観光気分で暮らしているらしいんだけどね。

 ……で、そもそもどうしてこういう事になっているかって言うと……。

 ある日、突然に家の隣に見知らぬ家が建っていて、でもお父さんやお母さんもそれを全然に不思議に思わない……ってどころか「昔からあったでしょ?」って言ってくる始末だった。

 それからあれやこれやってあったんだけど、私は星奈さん――本名はセイナ・アクノーっていうらしい――と同居している執事みたいなグリッド・グリーンリバーって人が宇宙人だって知った。

 彼女の父親は昔に地球を侵略しようとしてヒーローのレイオスに倒されたアクノー星の王様、つまりセイナはお姫さまってわけ。 私は当然というか盛大に驚いたんだけど、これまたあれやこれやあって二人に侵略意図はなく単にお父さんが侵略しようとした地球に来てみたら気に入ったのでしばらく滞在してるんだって。

 他の人達はアクノー星脅威のテクノロジーで記憶の書き換えがされたらしんだけど、どうやら私には効かないみたいなの。 グリッドさん曰く私が特異体質らしいって言ってたかな?

 私の事も口封じに殺すとかしなかったし、元々のお隣さんも別の場所でご近所さんになってただけだからか、そんなに悪い人達じゃないって思う。 だから、私も星奈の事は誰にも言わないって約束した。

 「まあ、いいや。 とにかく今日も学校に行きましょう?」

 「そうだ……ねって!!?」

 考えに耽っていた私が現実に戻った時、目の前にあった星奈の顔は誰がどう見ても地球人のそれではなかった。 

 私を見つめる大きくつり上がった目は全体が不気味に赤く光っていて、鼻らしきものなく口もバッタか何かのそれ……というか、眉間の辺りから伸びた二本の触覚や濃い緑色へと変わった肌の色も合わせればほぼバッタ人間というのがぴったりかも知れないかな……って! じゃなくて!!

 「ちょ……何やってるんですか、誰かに見られたら大変ですって!!」

 私が慌てると星奈は少し愉快そうに笑いながら元の地球人の美少女顔に戻る……いや、そもそも地球人顔こそ変装でさっきのが元の顔なんだけど。

 「しかし、あんたも驚かなくなったわねぇ……最初の頃はあたしの顔を見るとまるでオバケでも見たような反応だったのにさぁ……」

 「実際怖い顔してるって……まあ、もう慣れたけどね?」

 「失礼ねぇ……あたしはアクノー星じゃ美少女プリンセスで有名なのよ?」

 拗ねた声を出して肩を竦める星奈に「はいはい……」と答えてから歩き出す、子の子の悪戯に付き合ってたら遅刻しちゃいそうだしね

 そんなこんなで、ごく普通の女の子のはずの私は、ちょっとだけ?ごく普通じゃない秘密を抱えた生活を送っていたりします。



 「おいこらセイナ! 遅いぞっ!」

 教室に入るなり星奈に怒った男子生徒に、「何よ! 別に遅刻なんてしてないじゃない!!」と彼女も言い返す。

 「今日の日直は俺とお前だぞ? 忘れてたな?」

 「……げっ!? そうだったっけ……?」

 確認するように私を見てくるけど「……いや、分かんないけどそうなんじゃない?」と答えるしかない。 だって日直なんて自分の番くらいしか気にしてないんだよね。

 「……いいじゃん、大目に見なさいよ。 あんたはヒーローなんだし……」

 他の人に聞えないくらいの声で言う文句の意味は、多分私にしか分からないと思う。

 目の前に男子生徒、広瀬礼二ひろせ れいじ君っていうんだけど、彼はかつて地球の為に戦ってくれたレイオスの息子さんらしいのよ。 すっかり平和になった地球に来たのは研修みたいなものらしくて、そこで星奈と出くわし、やっぱりあれやこれやあって今は彼女の監視という名目で地球人の中学生としてここにいるの。

 ちなみに二人とも私よりずっと年上らしいんだけど、正確なとこは教えて貰っていなかったりする。

 「まあまあ、誰だって物事を忘れる事だってあるから……ね?」

 「……まあ、円谷さんがそういうなら今回は大目に見てもいいが……」

 「あんた、この子とあたしじゃえらい態度が違わない?」

 思いっきり不服そうに自分を睨む星奈に「当然だろう?」と返す広瀬君、確かにヒーローと元とはいえ侵略宇宙人ってまさに宿敵そのものだしねぇ……。

 星奈はまだ何か言いたそうだったけど、そこへ始業開始のチャイムが鳴れば何も言う事はしなかった。


 星奈はお隣さんだし、広瀬君も近くのアパートに住んでるのもあって三人で登下校する事は多くて、今日もまた揃って校門を出た。

 「そういえば星奈も広瀬君も部活とかしないの?」

 二人共宇宙人だけあって身体能力は私達を凌駕しているから、運動部とかに入ればたちまちエースだと思うの。 ちなみに私は単に面倒くさいから部活とかやってないんだけどね。

 「あのねぇ……言っちゃー悪いけど地球人と宇宙人あたしたちじゃ勝負にもなんないでしょう?」

 「こいつの言う通りだよ、だからって勝負事で手加減するのも失礼だからね」

 まあ、学生の部活とはいえそれなりに真剣勝負の場だしそうなるのかな?

 立場的に目立つ事を避けるというのもあって体育の授業とかだと、そこそこ運動神経がいいくらいに振舞っている二人だけど、確かにそれって考えようによっては真剣にやってる人に対して失礼なのかも。

 ただ、私には二人が少し残念そうな表情をしていたようにも感じた。 だから星奈達も”普通の地球人”として部活動を楽しんでみたいのかも知れない。

 そんな事を考えながら、いつも通りに代わり映えのない下校の時間は流れて言った……。

   

  

 私の部屋は家の二階にある畳の敷かれた部屋で、そこに勉強机とか本棚とか箪笥が置いてある。 部屋に入ると鞄を机の脇に置いて椅子に座るとノート・パソコンを立ち上げる。

 とは言ってもいつも見ているホーム・ページをささっと眺めるという日課みたいな事をしただけだけどね。

 一通り見終わったところに玄関の呼び鈴が鳴るのが聞こえて立ち上がったのは、お父さんは仕事だしお母さんは出掛けてるみたいだったから私が出るしかない。

 「はいはい~」

 玄関のドアを開くと、三十歳少し前くらいの男の人が温和な笑顔を浮かべている、白いシャツに黒いタキシードっていういかにも執事さんぽいスタイルのこの人を私はもちろん知っている。

 「グリッドさん?」

 「どうも英子さん、いきなりお邪魔して済みませんね」

 グリッド・グリーンリバーさん、星奈の世話係兼お目付け役でもちろんアクノー星人だよ。 日本人よりずっと白い肌に金色の髪の毛は十分外国人として通用するから地球でも本名で通してる……まあ、もちろんその気になれば普通に日本人の姿にもなれるんだろうけど。

 ちなみに宇宙人達の間ではこの地球人の姿を”人間体”って呼んでるらしい。

 「夕食の支度をしていましたら醤油を切らしてしまいましてね、もし宜しかったら分けて戴けないかと思いまして」

 「あ、はい。 ちょっと待ってて下さいね」

 私が台所へ向かい冷蔵庫の中を見ると、買ったばかりのものと使いかけのふたつがあったので使いかけのペット・ボトルを持って玄関に戻る。 そしてグリッドさんにこれを持っていっていいですよと告げた。

 「それはどうもありがとうございます」

 恭しくお辞儀をして醤油を受け取ったグリッドさんは、優しい瞳で私を見つめてきた。

 「それにしても英子さんは姫様の良きご友人となってくれているようで、何よりですよ」

 「はぁ……そうなんですか?」

 「はい、毎日学校へ行くのもなかなかに楽しそうでしてね? ああ見えてアクノー星では勉強は嫌いだとよく愚痴っていたのですよ?」

 ちょっと想像が付かないけど、私自身勉強が好きかっていうとそうでもないし、そんなものかなぁ……という気はした。


 パソコンのモニターの右下に映る時刻を見れば二十三時を少し回ったところだったから、「さて、もう寝ようかなぁ……」と椅子から立ち上がった。

 押し入れから布団を出そうとして、ふと何気なく窓へと向かい開くと外を見た。

 すっかり暗くなった世界にいくつも見える明かりは人の営みの証し、そのひとつでありもっとも近くにあるそれは、この遥か上空で輝く星々のどこからかやって来た人達のものだ。

 宇宙人……お祖父ちゃんの子供の頃はほとんど空想上の存在で、お父さんの頃には明確な敵として認知されていた。 そして今は……どうなのかな?

 分かっていたつもりでいて、でも今はよく分からなくなっている気がした。

 そもそも、宇宙人と地球人ってどこがどう違うんだろう?

 「……ん?」

 ふいに向かいの窓が開いてバッタ人間の顔が私を見てきた、こんな夜中に知らない人がホラーだろうけど、私にはごく日常の光景だったりするから「星奈、おやすみ~」と手を振った。

 「うん、おやすみ英子。 また明日ね」

 手を振り返してきた彼女の顔は、笑っていると私には分かった。

 

読んでくれてありがとうございました。

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