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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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愛の狂気

作者: 虎馬チキン


 俺は孤児だった。

 貧乏で、弱くて、醜く生きるので精一杯の奴だった。

 

 食う物が無いからと、飯を盗めばボコボコにされて。

 凍え死にそうだからと、薪を盗めば半殺しにされて。

 仲間の孤児が毎週一人は死んでいく。

 そんな毎日だった。




 そんなある日、人生の転機が訪れた。


 俺の住んでいた街が魔王軍に襲われた。


 俺が為すすべも無くボコボコにされた兵士がプチッと言う音と共に殺された。

 俺が飯を盗んだら、鬼の形相で追って来て、犯殺しにされた冒険者の頭がパアンってなって殺された。


 人類の敵と言われる魔王。俺はその姿をこの眼で見た。


 綺麗な女の人だった。


 凄くかっこよかった。

 俺が何も出来ずに虐げられていた世界を簡単に壊して行った。

 蹂躙と言う言葉が相応しかった。

 魔王と言う言葉に相応しかった。


 その人と眼が合った。


 俺の心臓は鳴りっぱなしだった。

 それは恐怖からの鼓動だったのかもしれない。 

 それは吊り橋効果と言うやつだったのかもしれない。

 それでも俺は……、




 ……俺は彼女に恋をした。



*****



 奇跡的に襲撃を生き延びた俺は、数が減って人員を募集していた兵士になった。

 もちろん街の為とか人の為とかではない。

 強くなる為だ。

 そして彼女の配下に加えさせてもらう為だ。




 最初は雑用係りだった。

 当然だ。戦闘能力の無い孤児がいきなり兵士になれる訳が無い。

 

 強くなる機会は週に一回の訓練のみ。

 俺は必死に学んだ。

 雑用が終わった後も毎日鍛え続けた。

 兵士や魔法使いに「街を守れるように強くなりたい」と大嘘ついて学んだ。

 剣の振り方と魔法を覚えた。




 訓練で良い成績を残して、正式に兵士になった。

 彼女がどこに居るのか、世間知らずの俺には分からないので、確実に会えるだろう最前線に出る為に精鋭を目指した。




 何年もの時間が掛かったが、ついにその時がやってきた。

 勇者と共に魔王討伐に出掛ける、精鋭騎士団三十名、精鋭兵士五十名、その精鋭兵士の一人に抜擢された。


 嬉しかった。

 これでやっと会える。

 向こうは俺の事など覚えていないだろう。

 でも、そんなのは関係無い。

 愛しているのだ。

 下僕でも捨て駒でもなんでも良い。あの人の役に立ちたい。

 俺にあるのはそんな想いだけなのだから。


 


 でも、そんな想いは踏みにじられた。




 戦場は乱戦になり、部隊は散り散りになった。

 俺は一際大きい戦闘音に向かって走った。

 その先にあの人が居ると確信したから。


 通り道にいた兵士や騎士は、一切の躊躇無く切り捨て、立ちはだかる魔族は、剣の腹で殴って押し通った。

 当然だ。

 あの人の戦力を減らす訳には行かない。

 そしてここまで来た以上、あの人の敵は同僚だろうが友人だろうが関係無く殺す。


 体中傷だらけになりながら走った。

 かつての友人を殺し、師匠を殺し、先輩を殺し、後輩を殺し、そいつらの憎しみと怒りの籠もった傷を負いながら、ひたすら走った。


 そしてたどり着いた。

 そこに居た。心の底から求め続けたその人が。




 でも、ほんの少しだけ遅かった。




 彼女は倒れ伏していた。

 胸を剣で貫かれて。


 後少し早ければ、身代わりになれたかもしれない。

 後少しだけ俺が強ければ間に合ったかもしれない。


 最期に眼が合った。


 その眼の意味を、俺は理解できなかった。

 彼女を理解する前に、彼女は死んでしまった。


 


 俺は満身創痍の勇者を殺した。


 でも心は晴れない。

 喪失感だけが身体を支配した。


 途端、今まで感じていなかった傷が痛みだした。

 かつての仲間達に負わされた傷だ。

 裏切りの代償に負った傷だ。

 

 そんな傷を負ってまで追い求めたものは消えてしまった。

 傷ついた意味も無くなってしまった訳だ。




 俺は彼女の亡骸を抱き上げる。


 どこか穏やかな場所に埋葬しようと思った。

 それが俺にできる唯一の事だから。

 俺が頑張ってこなければできなかった唯一の事だから……。

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