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第16話 外の人々

「……貴様ッ!」


 港の集落の者で作られた、集会場。

 そこに入ると同時に、獰猛なうなり声のような、そんな叫びが俺に対して向けられる。

 見ると、そこには見覚えのある顔があった。

 あまり人の顔や名前を覚えるのが得意ではない俺をして、まず一度見たら忘れないなと思ってしまう顔。

 それはつまり、人の顔ではなく、獅子の顔である。


「……カシャームだったっけ? 相も変わらず見た目通り獣みたいな振る舞いだね。同様に、人間の礼儀も身についてないようで残念だよ」


 獣人国家ガレイズ連合、という国の将軍であるというカシャームがそこにはいた。

 俺と、父ウラガ、それに母カリハと戦った恐ろしい武威を誇る獣人。

 敵ながら尊敬に値する武人であるが、しかし、なんというか、向こうの方から喧嘩を売られているのが常なのでこの対応になってしまうのはご愛敬である。

 人……つまりは、俺が思うような一般的な人間の容姿を持った種族と何らかの禍根があるからこそ、カシャームはああいう態度なのだろうが……それを俺にぶつけられても困る。

 そういうところから来る苛つきを、鏡のように返したところでいったい俺のどこに責められるところがあるというのだろう?

 いや、ない。


 ……とまで言ってしまうのは大人げないだろうが、俺は一応、まだ外から見れば子供だからな。

 これくらいの直情さを見せておいても別に問題はないだろう。


「……毒を使う卑怯者が言いよる」


「一対一の戦いだったのに伏兵を使って勝利を掴んだ情けない武人が卑怯者ではないと? へぇ、なるほど。獣人の公正さというものを僕は今学んだよ。なるほど、獣らしいね。狼が似たような狩りをするのをよく見たよ」


「……っ!!!」


 口の減らない俺の態度に、カシャームはさらに額に青筋を立てるも、これ以上言い合いをしても自分の方が負けると、まさに獣らしく察したのかもしれない。

 最後には言葉を飲み込んだ。

 普通に対等な立場だったらまだ口げんかしてもよかったかもしれないが、俺は子供だし、カシャームはカリハに負けていて、さらにその伏兵がいなければ父にすら負けていた可能性があるわけだからな。

 そこで黙るだけ、まだ誠実なのかもしれないな、とは思った。

 まぁ、そんな俺の心の内がカシャームに伝わるわけもなく、俺の方を憎々しげににらんでいるが……。

 なんだか、聞き分けの悪い犬に見つめられているようでそんなに悪くない気分である。

 また、カシャームが黙ったのはそういう心理的な部分のみならず、集会場に他にいる人物による取りなしもあった。

 

「カシャーム殿。ここで我々がすべきはそのような口喧嘩ではありますまい。そもそも、戦いという面においては……正直なところ、容易にこの《龍海の島々》の住民たちに勝てるとは思えませぬ。それを、誰よりもその身で味わったのは、カシャーム殿では?」


 そう言ったのは、一人の壮年の男性だった。

 かなり鍛えられた体型と精悍な顔立ちをしており、高価そうな鎧を身につけている。

 聞けば、モーゼ帝国、と呼ばれる国家の、同じく将軍であるファルカスク・ナイゼルという人物だった。

 モーゼ帝国はガレイズ連合と同じく、外の世界の国々のひとつであり、かなり巨大な国家であるという話をハツォットが俺とカリハの耳元でしてくれる。


「……人族ヒュームになどなにが……いや、今回ばかりはあんたの言うとおりか。俺は、負けた。そこの女に、完膚無きまでにな。それが事実だ。敗者は勝者の言うことに従う。それが戦士の掟だ」


 意外なことに、カシャームはファルカスクの言葉を反芻するようにうなずき、それから同意をする。

 やはり、俺が初めに受けた印象よりは潔い人物のようだった。

 俺とは単純に相性が悪いのだろうな。

 便利な現代社会で口先ばかり成長してきた俺と、弱肉強食の世界で、おそらくはなにかしら差別的立場に置かれているのだろう獣人という存在として生きてきたカシャーム。

 話がかみ合わないのも至極当然かもしれない。

 出会いが悪かったな。

 これから先、他の獣人と知り合えれば、このような関係にならないで済むようにしたいところだが……減らず口は封印した方がよさそうだ。


「……ふむ。場が落ち着いたようだな。それで? 人族ヒューム……この言葉を私たちはほとんど使うことはないが、あなたたちはそうだと思っていいな? 外の人族(ヒューム)だと」


 カリハが席につき、ファルカスクたちに向かって口を開く。

 ファルカスクたちの隣には、幾人かの文官とおぼしき人々もいるが、代表はファルカスクのようで、彼がカリハに向かって返答した。


「その通りだ。我々は飛空艇……外に浮かぶ船に乗って《永久の断裂》を越え、ここにやってきた。我々にはあなたたちと敵対する意志はなく、ただ、調査に協力していただけないか、と思っている。もちろん、相応の謝礼は払うし、他に何か必要だというのであれば協力することも出来る……」


 彼の返答を鑑みるに、俺の前世的価値観で言うなら、アフリカの秘境を調べに来た先進国の調査団、という感じに近いだろうか。

 この場合の協力は金とか設備投資とかそんなことになるな。

 ただ、モーゼ帝国、という国から来ているところを考えると、百パーセント健全な調査とも言い切れないかもしれない……。

 ただ、問題があるならカリハには武力があることが、前世におけるアフリカとか発展途上国とかとの違いだろうか。

 その気になれば、力ずくで拒否できるというのは強いなと思う。

 ともかく、カリハはこちらについてはさほど問題を感じていないようだ。

 ファルカスクの言葉にうなずき、


「ふむ、細かい点は後で詰める必要もあるだろうが、そのような話であれば案内人を出す、くらいのことはこちらとしてもやぶさかではない。前向きに検討しよう」


「ありがたく……」


 カリハの言葉に安堵したように頭を下げたファルカスク。

 けれど、カリハの言葉はそこで終わりではなかった。


「しかしだ」


「……?」


「こちらの獣人たちについてはその限りではない。彼らは我々に問答無用で戦いを挑んできたからだ」

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