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第15話 島の建築

「……まぁ、見物もいいが、今はあれのことはいいだろう。それよりも……」


 カリハがふい、と飛空艇二隻から視線を外して、ハツォットに水を向けると彼も頷き、


「そうだったな。子供がいると色々と教えたくなってしまってな……そう、外から来た者たちの方だ。こっちだ。集落の集会場に集まってる」


 そう言って先導して歩き始める。

 集落の中は破壊された建物の瓦礫や戦闘によって築かれたと思われる穴などがそこら中にあって、歩きにくい。

 しかし、カリハもハツォットもすいすい進んでいく。

 俺もそこまで苦にせず歩けてはいるが、これはこの世界で生きてきて、様々な技術を叩き込まれ、山を歩きとおしてきたがゆえに出来ることで、普通の人間であれば難しいだろう。

 なにせ、跨げば通れる、程度の穴ではなく、人が数人入ることも出来そうな大きさのものもあるのだ。

 それをカリハとハツォットは簡単に飛び越える。

 この島の住人であっても、戦士と呼ばれる者たちでなければ出来ない芸当だ。

 逆を言うなら、この島で【戦士】と呼ばれる者たちはみんな出来ると言うことだが。

 改めて考えると恐ろしい話だ。

 まぁ、俺も出来ているわけだし、人のことは言いにくいが。


「……ここは、無傷なんだね?」


 辿り着いたその場で、俺は感心してそう言った。

 港の集落では、多くの建物が傷つき、また倒壊しているのだが、ハツォットが案内してくれたその場所――つまりは、集落の集会場は全くの無傷だったからだ。

 木造りの骨組みに、この島の森や周辺の海の魔物たちの毛皮が被せられて造られていて、モンゴルの移動式テントであるゲルを想起させられるような作りだ。

 とは言え、それよりも丈夫そうと言うか、移動することが前提ではないからかどっしりとした感じを受ける。

 素材そのものが、普通の木材や毛皮とは異なると言うのも大きいだろうな。

 魔素の濃い森で採取されるそれらの素材は、金属より強度が高いものも少なくないのだ。

 この辺りは地球で常識を育んできた俺にはまだ馴染めないところだが、そういうものとして受け入れるしかないだろう。

 まぁ、当然ながら加工するには技術者の高い研鑽が必要なのだが。

 つまり、この集会場はこの島においても最高の技術で作られているものだ、ということだな。


「そうだ。見れば分かるだろうが、精霊虎(ルアッハ・ナメル)の毛皮やら、方舟海老(テバット・ハシュロン)の甲殻やらと高価かつ貴重な素材の大盤振る舞いで作られているものだからな。並の戦士の腕では傷一つつけること叶わんぞ」


 ハツォットが胸を張って集会場の出来を自慢する。

 その気持ちはよく分かる。

 他にも素材は色々使われているのだろうが、今、ハツォットが挙げた素材だけでも相当貴重なものである。

 どちらも森と海において強力な魔物の一つとしてよく挙げられるもので、前者の方はその素早さや力の強さ、牙の鋭さから森の王者の名で尊ばれているし、後者の方は海老の癖して船よりも巨大であることからその名が付いたと言われる大物である。

 海老の方はまだ海に出たことがないから動いている現物を見たことはまだないが、虎の方に関しては遠目に一度見たことがある。

 睨まれただけでも、あぁ、勝てないなと思ってしまうような、およそ魔物とは思えない強大な空気を放っていた。

 そのときはカリハが隣にいたから死を覚悟することはなかったが、一人で出遭っていたらもう諦めていただろうな……。

 

「こういった技術は港の集落の者たちの方が我らアジールよりも遥かに優れているな。我々はどうしても、あばら家というか、簡単な建物にしがちだ」


 カリハがそう呟く。

 確かに、これと比べると俺たち家族の家や、アジール族の集落の家々は普通の木造建築という感じだからな。

 と言ってもそこまで捨てたものではなく、しっかりとした作りではある。

 ただ、強度は比べるべくもなく、こちらの集会場の方に軍配が上がるだろう。

 しかしハツォットは首を振って、


「アジール族は立て直しが簡単なようにああいった作りの建物にしているだけだろう。森は港よりも守りにくいし、魔物も頻繁に来るからな。変に強度が高いと立て直しも面倒だ」


「確かにな。海の魔物は強力になればなるほど、沖合に行かなければ見ない。森はそうもいかん」


「一度、アジール族にその技術の粋を集めて何か建造物を一軒作らせたいものだが……」


「それは大工のガットスたちに言ってくれ」


 ガットスは、アジール族において、大工仕事のすべてを請け負っている集団の棟梁である。

 見るからに頑固オヤジで、実際に頑固オヤジなのでひどく扱いづらいが、その腕は確かだ。

 俺たちの家程度なら、一晩で作り上げてしまうからな……。


「あのオヤジには交渉が通じんからな……商人泣かせだ」


「そこをどうにかするのが良い商人なのだろう? 前にお前自身が言っていた……ともあれ、そろそろ中に入るか。あまり待たせすぎるとあの獅子頭の男が怒りだしそうだしな」


 獅子頭はとは、カシャームのことに間違いないだろう。

 まぁ、結構短気だった印象がある。

 それとも俺が地雷を踏みまくったからそう見えてただけかな?

 ウラガと話しているときはむしろ堂々とした軍人然としていたし、その可能性は高い。

 カリハの性質はウラガよりも俺みたいにガンガン地雷は踏み抜いていくタイプなので、短気だ、と認識しておいた方が正しいとは思うけどな。


「おっと、そうだな……。ただ獣人の方はどれだけ話してくれるかわからんからな。まずは人族ヒュームの方だ。幸いこちらはかなり友好的だし、理性的でもある。十分な会話が可能だ」


 そう言ってハツォットはゲル状建物の入り口の織物を暖簾のように開き、中へと入っていく。

 俺とカリハもそれに続いた。


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