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第13話 戦士の意味

「おぉ、ハツォットか……。お前が来たと言うことは、外から来た者たちとの話し合いは終わったと言うことか?」

 

 家の中に入って来たハツォットの顔を見て、ウラガがそう言った。

 面識がある、というのは事実らしいとそれでわかる。

 カリハも彼を特に警戒していないことから、ハツォットはやはり信用に足る人物なのだろうとも。

 しかし、ウラガの言葉にハツォットは微妙な表情で話し始めた。


「概ねはな。まず、彼らについてだが、やはり外……【永久の断裂】の向こうにある大陸から来た、ということで間違いないとのことだ。ただ、獣人と、そうでない方……彼らの言葉で言う人族ヒュームとはそもそも所属が違うらしい。獣人の方はガレイズ連合、人族ヒュームの方はモーゼ帝国、という国の者だと言う話だった」


「あれだけ言い争いをしてればな。仲間ではないのは推測していたが、やはりそういうことだったか」


 ハツォットの言葉にカリハが頷く。

 そう言えば、飛空艇同士、拡声器みたいなもので言い争いをしていたのだったか。

 まぁ、それがなくとも、カシャームはウラガや俺を見て、人族ヒュームとは相いれない、というような台詞を口にしていた。

 仲がいいはずがないな。

 ハツォットは続ける。


「それで、彼らがここに来た目的だが、獣人ではない方……人族ヒュームたちに関しては、この島でしばらく調査をさせてほしいとのことだった」


「調査? このような何もない島を調べても面白いことはないと思うが……」


 ウラガが首を傾げるようにそう言う。

 実際、確かに、特別なものは何もない島である。

 わざわざ調べてもな、という気はするが、それはここに住んでいる者としての意見だ。

 俺の前世の知識を鑑みてみれば、前人未到の秘境にある植物や動物というのは貴重であるし、何かに加工するための新たな素材が発見できるかもしれないという期待をもてるだろうと思う。

 たとえば……薬品の材料とかな。

 コトネーの婆さんの知識に基づいて造られた薬品の数々は驚くべき効果を持つものばかりであるし、それが彼女の技術だけでなく、この島の素材にも由来する部分があると考えれば、外の人間がこの島を調べる価値は十分にあるだろう。

 それに、もしそういうものがなかったとしても、人間には探究心というものがあるからな。

 ただ、遥か遠くの未踏の地を自分の目で見たい、というだけでも調べる理由にはなる。

 だから、別に俺たちからしてみれば何もないこの島でも、調べる価値がないと言うことにはならないだろう。


「それで、どう返答したのだ?」


 ウラガの言葉に、ハツォットは、


「案内人付きでよければ、ということで許可した。別に見られて困るものはないが、好きに荒らされても困るからな」


「なるほど、監視をつけると」


「有り体に言えばそういうことだ。嫌がられるかと思ったが、思いのほか喜ばれたぞ。現地の人間に案内してもらえるとはありがたいとか。人族ヒュームの中でもあまり戦える雰囲気ではない者たちがいたが、そういう奴らが特にな」


 ……たぶん、学者か何かだろうな。

 そういう者からすれば、現地人の案内というのは嬉しいだろう。

 一見しただけでは分からない情報というのは多いし、そういうことをすぐに尋ねられる状況はあって損はない。

 実質は監視であるにしろ、根こそぎそこにある資源を奪っていくつもりだとか言うのならともかく、人族ヒュームたちの様子はここまで聞いた情報からすると、現地人……つまりは俺たちにそれなりに気を遣っているのが分かる。

 つまり、監視をつけられてもデメリットはあまり感じていないのだろう。

 

「ふむ? 本当に調べに来ただけなのかもしれんな。人族ヒュームの方は。問題は……」


 そこで少し難しそうな顔をしたウラガに、ハツォットは頷いて後を継いで言う。


「ああ。獣人たちの方だ。あいつらはその目的が見えんのだ。代表を名乗る者とその取り巻きが数人、港の集落にまだ滞在しているが、何を聞いても『人族ヒュームに話すことはない』の一点張りでな……」


「それはまた……」


 頑固なのか獣人と人族ヒュームの溝というのはそれだけ根深いと言うことなのか。

 外を知らない俺たちにはうまく図ることが出来ないところだ。

 ただ、とハツォットは続ける。


「……『自分と互角の戦いをした戦士と、そして自分を倒した女傑、そのどちらかとなら少しくらいは話しても構わない』と言ってるんだ。誰だかわからなかったが……その獣人は恐ろしいほどの巨体でな。あんなものと戦える女戦士など、俺には一人しか心当りがいない。お前の事だろう? カリハ」


「なるほど、それは獅子の獣人か? カシャームとか言う」


 言われて、カリハはすぐに理解したようだ。

 ハツォットにそう確認する。

 これにハツォットは頷いて、


「……やはりお前か。ということは互角に戦ったと言う戦士は……?」


「おそらくは、俺のことだろう……いや、ミズキのことか?」


 ウラガが呟くようにそう言った。

 

「……何? ミズキ……とは、こいつのことだな?」


 ハツォットは俺の頭にぽん、と手を置いてから、ウラガとカリハに尋ねる。

 すると、カリハが、


「そうだ。しかし……そうだな。確かにその可能性もあるな。ウラガもカシャームと互角に戦ったと言うことだが、ミズキもしばらく戦っていたわけであるし……」


 と言い、ハツォットとコトネーに経緯を軽く説明した。

 けれどこれには俺が首を振った。


「いや、それは……違うんじゃないかな。だって、俺は毒を使ったし、罵倒するだけ罵倒したからね。戦士なんて呼ばないと思うよ」


 カシャームの言葉には若干の敬意のようなものが感じられる。

 が、俺とカシャームの戦いはそう言ったものが生まれるようなものではなかった。

 お互いにかなり醜かったからな。

 片や毒を使いなりふり構わずに戦い、片や自分の痛いところを突かれて激高していたわけで……。

 あまり胸を張れる戦いではなかった。


「そうか? 別に毒なんてひっかかるほうが悪いと私は思うがな。まぁ、そこは本人に聞いてみなければわからん。ともかく、私が行けば何か聞きだせると言うことか」


 カリハが軽くそう言う。

 確かに……カリハには毒も効かなそうではある。

 その辺りについてはその場にいた男三人は疑問に思ったが、無言のうちに特に突っ込まないことで一致した。

 カリハについてその辺をどうこういうのは間違いだと正しく認識しているが故だった。

 コトネーは、俺が毒を使ったと言うことに対して、


「……ミズキ、お前、死蜻蛉の毒を使ったのかい。武器に塗れ、なんて教えてないはずだがね……」


 と若干ブチ切れ気味で指摘した。

 普段から、毒は他人に対して使うなと言われていたからな。

 それなのになぜ教えるのか、と言えば、毒の効果を知らなければ自分がそれに侵されたときに対処できないし、また毒も使いようによっては薬になると言う真理からだ。

 そんなコトネーのポリシーを穢してしまったわけで、申し訳ないと思うも、コトネーは首を振り、


「……いや。そのお陰でお前はここにいるんだ。なら、いいさ。まぁ、おかしな使い方さえしなければいいだけだしね……その辺りの分別はあるだろう」


 と許してくれたのだった。


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