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第12話 相談

「……うぅ……ここは……」


 しばらくカリハと話していると、横に寝かせられていた父、ウラガが呻く様な声と共に目を開いた。

 

「……目覚めたか、ウラガ。体の具合はどうだ? 結構な傷だったが、処置は済んでいるから大丈夫だろうが、違和感などはあるかもしれん」


 カリハがそう尋ねると、ウラガは体を起こして自分の身を確認する。

 そんなウラガに手を貸している、背中を支えているカリハは正しく、ウラガの妻であるように見えた。

 筋骨隆々の大男、ウラガですら倒すことが出来なかった獅子の獣人カシャームを鎧袖一触で勝利し、港の集落を襲っていた獣人の集団をほぼ一人で殲滅しきったと言う点を鑑みると、妻というより兵器と言った方がいいような存在だが……。

 そんなことを考えていると、ギンッ、という視線と共に、俺に向かって殺気が飛んできた。

 息子に向けるようなものではないだろう、と思うも、俺が考えていたこともまぁ、母について思うようなことではないことを考えればお互いさまか。

 そもそも、カリハが本気で殺気を向けたらこんなものでは済まない。

 以前、魔物にそれを向けたとき、それほど強いものではなかったが、それだけで気絶していたのを覚えている。

 ……人間なのか?

 いやいや……これ以上考えると俺の命が危険である。

 やめておこう。


「概ね、問題はなさそうだな。しかし、ここに二人がいるということは……あの獣人は去った、ということか?」


「あぁ、それについては……」


 ここで、ウラガの疑問にカリハが今、この島が置かれている状況を含めて説明した。

 すべてを聞いたウラガは、


「……夫として情けないな。妻であるお前に頼りっぱなしで……」


 とがっくりと肩を落とす。

 俺からしてみれば、あんな巨大な獣人、前世の感覚で言えば化け物に勇敢に立ち向かい、互角の戦いを繰り広げた父は尊敬に値するので、そんなに落ち込むようなことはない。

 むしろ胸を張っていいと思う。

 ただ、カリハが人知を超えた化け物だった、というだけで……。

 島全体を見ても、カリハの強さは並ぶ者がない。

 島最強の存在は、彼女なのだ。

 そんな彼女と比較すれば、どんな男ですら雑魚になってしまうわけで……。

 けれどそれでも、妻と子供は自分で守らなければならないものだ、とウラガは思っているのだろう。

 カリハを守るなど、俺からしてみればまるで必要のないことに思えるが、そう思えるからこそ、ウラガはカリハを妻に出来ているのかもしれないと思う。


「気にするな。戦いというのは相性というものもある。私にとってカシャームは相性のいい相手だった、というだけだ。なにせ、女であると言うだけで油断してくれたからな……」


 カリハがそう言うも、俺は、そうだったか?と首を傾げたくなった。

 まぁ、彼女なりのフォローなのだろうから口にはしないが。

 とはいえ、父もそのことは分かっているらしい。


「……ふっ。まぁ、そういうことにしておくか。それで、港の集落にある飛空艇?とそれに乗って来た者たちだが……今後の対応はどうなるのだ?」


「それについては、港の集落の者たちに任せている。交渉事は彼らの方がうまいからな。山に住む我らアジールは、どうしても腕っぷしで物事を決めてしまうところがあるから……向かんだろう」


 カリハの言うことは事実で、主に山を活動範囲とするアジール族は、何か争いがあると腕相撲とか決闘とかで決めようとするところがある。

 港の集落に住む者たちは、物々交換という形態とは言え、他の島の集落などとの交易などを日常的に行っているため、争いについてはそれを裁定する立場の者もいるし、交渉も老練なものが少なくない。

 したがって、外から来た者たちと何か話し合いをするには、彼らが一番向いている、というのは確かにその通りだろうと思えた。

 まぁ、カリハのやったことを考えると、彼女の武力を背景に恫喝外交のようなことをやるのが効率的かもしれないな、という気もしたが、今回来たのはあくまでも二隻の飛空艇だけだ。

 どれだけの勢力を相手が持っているのか分からないし、いくらカリハが強いと言っても一万人の人間に襲い掛かられればやられるに決まっているのだから、そういうことはすべきではないだろう。

 ……やられるよな?

 分からない……まぁ、やられることにしておこう。

 

「ふむ、確かにな……ん?」


 ウラガが頷いたところで、家の扉がガンガン、と叩かれる。

 カリハが立ち上がろうとしたが、俺が先に立って入り口に向かった。


「どちら様……」


「わしじゃ。コトネーじゃ」


 即座に帰って来た老婆の声に、俺はすぐに扉を開いた。

 するとそこにはコトネーと、そしてもう一人、アジール族のものとは異なる意匠の民族服を纏った壮年の男性が立っていた。

 港の集落の者が身に着けている服だな……。


「コトネーの婆ちゃんはいいとして、そっちの人は……?」


「あぁ、こやつは港の集落の長老の一人、ハツォットじゃ。ウラガとカリハは面識がある。二人と話したいことがあるとのことでな。連れて来たんじゃ」


「ハツォットだ。ウラガの怪我については聞いた。今は休ませておきたいのだが、状況が状況でな。少し、話をさせてもらえんだろうか?」


 長い髪と髭を太い三つ編みに結んでいるその男は、戦士としての性質と商人のような雰囲気を併せ持っているように見える。

 と言っても、あくどい感じはないし、むしろアジール族の戦士に通じる誇り高さのようなものも感じられた。

 それに加えてウラガとカリハとも知り合いだと言うし、コトネーが連れてきたのだ。

 入れても問題ないだろう、と思い、俺は言う。


「うん、いいよ。ただ、父さんはちょっとまだ立つのは厳しいと思うから、許してね」


「もちろんだ。では、お邪魔させていただく……あぁ、これは見舞いに持ってきた品だ。あとでカリハにでも料理してもらうといい」


 そう言って、ハツォットは紐でまとめて括られた魚を十匹ほど俺に渡す。

 港の集落でも滅多に採れないと言われる美味い魚で、年に二度食べられればうれしいものだ。

 それをこんなにくれるとは……。

 俺の中でハツォットの評価が十段階中、九まで上がった。


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