俺が本気出せばすごいですよー?
毎回ながらお久しぶりです。
投稿間隔は長いですけど、書いてる時間は数時間です……
放課後、ほとんどの生徒が部活に明け暮れる時間だ。
グランドからは野球部などの運動部の声が聞こえてくる。
土まみれになってボールに飛びつく野球部、柔道部の受け身をとるときに響く畳の音、吹奏楽部の演奏の音など、どこの高校でもありきたりな光景が部室に行く途中あった。
俺はこの学校しか知らんからイメージでしかないけど、間違ってはないだろう。
「青春だね~」
部室の窓からグランドを眺めている椎名先輩が呟く。
まだ春とはいえ、今日は気温が高い。
制服のブレザーなんてとても着てられない。
外で練習している運動部員たちはさぞかし暑いことだろう。
「部長とヒョロさん、遅いね」
「話、長引いてるんだろ」
「立夏ちゃんたちのクラスの先生、話長いから」
現在、部室にいるのは俺と光、椎名先輩となにやら作業をしている柊の4人だ。
部長とヒョロ先輩のクラスは進路のことで、担任から色々話があるらしい。
「沙織先輩は進路どうするんスか?」
「私?」
光の急な問いに、椎名先輩は少し驚いた顔をする。
星宮学園は決して偏差値は悪くない。普通だ、普通レベルの学校だ。
受験で大学進学を希望している生徒も少なくはない。
「一学期の間に成績落ちなかったら指定校推薦とると思うよー」
「へぇ、意外に手堅いんですね」
「えーそんなものだよー。私は立夏ちゃんたちみたいにすごく頭が良い訳じゃないしねー。それに受験したら夏休み塾とか予備校行かないとでしょ?それだったら、バイトとかしたいかなーって」
「あーなるほど」
「そう言う志田くんは?なにか考えてるの?」
「俺ッスか?成績悪いから、進学するにしても受験になると思いますよ」
「成績悪いのに?」
椎名先輩がクスッと笑う。
イケメンで運動神経抜群の志田光にも苦手なものがある。そう、勉強だ。
高校受験の時も苦労したものだった。秋の模試でD判定が出てから、俺と寺島(主に俺)が付きっきりで面倒を見てなんとか受かったレベルだ。
「俺が本気出せばすごいですよー?」
おまけにこの能天気だ。
平たく言えば、こいつはバカなのだ。
「そういえば、武久」
「ん?」
「五時間目、遅れてきてたけど何してたの?戻ってきてからもずっと考え込んでる感じだったし」
「え?あぁ、それは……あれだよ……」
しまった。急に聞かれたもんだから、ドもってしまった。
何か誤魔化さないと。
「……勧誘どうするか考えてんだよ」
我ながら苦しいな。
もっと何かあったろうに。
「あんなに真剣に?」
「別にそんなんじゃねぇよ」
自分ではそんなに深刻に捉えていなかったが、端からみたらそうだったのか。
佐藤さんの件はかなりめんどうだが、言ってしまえば他人事だ。彼女が光に対してどこまで本気かわからないしな。ほら、あれじゃん?JKって付き合っては別れを繰り返してるイメージあるから。
これは俺が恋愛沙汰には無縁だからなのか、乙女の恋心というやつを分かってないのかもしれない。
そもそも、これは男が考えても答えは出ないだろう。
「恋、とかじゃないの?」
「違いますよ、そんなことあるわけないじゃないですか」
「えーほんとー?」
そして、椎名先輩はどうしてこんなに勘が鋭いのだろう。
もっとも、俺の恋ではないけど。
「ないですよ」
ブサイクが恋してはいけないなどとは思わないが、その恋が叶う確率は低いとは思う。偏見だとは思うが、結局顔なんでしょうよ。みんなかっこいい男やかわいい女にまず興味を惹かれるのは当たり前のことだ。
必然的にブサイクは、自分の内面をアピールしないといけないことになる。
「待たせたな」
「ごめんよ、遅れてしまったね」
部長とヒョロさんがやっと来た。
既に二人とも疲れた顔をしている。
「やっぱり進路の話?」
「あぁ、相原のやつ今日も絶好調だった。おかげで疲れたよ」
「……立夏は爆睡してたじゃないか」
ヒョロ先輩がため息交じりでつぶやく。
二人ともそのまま足元にかばんを置いて椅子に座り、一息つく。
「それで、何するんですか?」
「とりあえず手当たり次第勧誘しようか。見学のために校内をウロウロしている一年を捕まえればいいだろう」
「この部活、見学するようなところあります?」
「まずは捕まえないと、話にならないだろ?」
「……それもそうですけど」
「んー、でもどうやって勧誘するの?ビラとか配る?」
「方法は各自に任せる」
ビラはあまり意味がないだろうな。捨てられるのがオチな気がするし。
そうなってくると、やっぱり片っ端から声かけるしかないよな。時間はかかりそうだが。
特に俺は強引に、という図々しさは生憎持ち合わせていない。
「部長たちはどうするんですか?」
「寝る」
「「は?」」
部長の驚きの発言に光とリアクションがシンクロする。
既に眠そうにあくびをしている部長は、そんな俺たちの反応を微塵も気にしない。
「それじゃ、二人とも任せたぞ」
「ちょ、そりゃないッスよ、部長。武久はともかく俺もだなんて!」
「おい待て。ともかくってなんだ……」
なんかこいつ俺の扱い雑じゃないか?
今に始まったことじゃないが。
「というか、部長はさっきまで寝てたんじゃ……」
「あぁ、さっき変に寝てしまったから眠たくてな」
「ヒョロ先輩だって我慢してるんだから、部長も頑張ってくださいよ……。ねぇヒョロせんぱ……ってもう寝てるし!」
「ヒョロくんならカバン置いてすぐ寝たよー」
どうやら抵抗も虚しく、とっくに俺たちがやらないといけないということは決定していたようだ。くそ、なんかこうなる気はしてたけど!納得はいかない。
「武久、あきらめよう……」
「そうだな」
俺の肩に手を置いた光も、諦めがついたようだ。
これ以上駄々をこねても仕方ない。
「まぁまぁ、私も手伝うから」
そんな椎名先輩の優しい言葉が、俺たちの荒んだ心を浄化していく気がした。