どういうつもりだよ?
食堂を出た後、すぐにある自販機の前に俺と柊はいた。
昼休みも、もう終わるので教室に戻る生徒が多いので人は少ない。
宮島達もさっき校舎に戻っていくのが見えた。
そんなことは今はどうでもよく、俺には気になっていることがあった。
「お前、どういうつもりだよ?」
解せない。こいつがここいることが本当に解せない。
基本ところ構わず机に突っ伏して寝ているこいつが、なぜ今日に限って起きてここにいるのか?偶然ではない、根拠はないが俺は確信していた。
「……とりあえず、飲み物買ってくれないかな?そのために来たんだし。喉が乾いた」
「あぁ」
ベンチに座っている柊が俺に小銭を渡す。
「上の右から三番目のやつね」
俺は言われたままの物を買う。
ってこれ水じゃねーか……。絶対ウォータークーラーで良い気がする。
なんだろう、すべてに納得がいかない。
「ほらよ」
柊にペットボトルを手渡す。
「感謝するよ、武久」
「それで、どういうつもりなんだよ?」
立ったままって言うのもしんどいので俺もベンチに座る。
「勝手に引き受けた事かい?」
「あぁ、その事だよ、その事!分かってるだろ?間違いなくあの子は……」
「フラれるだろう、確実にね」
そう、絶対に佐藤さんの恋は実ることはない。
光と仲が良いとされている俺が、今までにもこんな話を持ちかけられることがない訳じゃなかった。
もちろん、協力したこともない。
めんどくさい、というのが第一の理由だっったが、そもそも成功するというビジョンが全く見えなかったのもある。
後に聞いた話ではあるが、俺に協力を求めた子達が告白しても、尽く玉砕したらしい。
長い付き合いだが、俺は光の恋愛事情はあまり詳しくない。付き合ってた子がいたこと等は知っているが、それ以上は知らない。
「だったら?」
「意味なく、辛い思いするだけだろ」
「本音は?」
「……どうしてそんな事を手伝わなければいけない?」
癪だ。
俺には柊が何を考えてるのか、さっぱり分からない。
そのくせ、俺の建前はあっさりと見破られてしまう。
「気に食わないって顔だね。いつもより顔が歪んでるよ」
「これは元からだ。お前こそ、今日はよく喋るじゃねーか。いつもの無口キャラはどこいったんだ?」
「今日は妙に寝つきがよかったんだ。頭が起きてる」
年中寝てるやつがよく言うな……。
お前の頭寝すぎだろ。
「ちょっと興味深いことがあってね」
「あ?」
「面白いじゃないか」
柊はそう言って、水を口に含む。
「なにが?」
思ったままの疑問をぶつける。
柊はゴクッという音をさせ、含んでいた水で喉の渇きを潤す。
そして、こう言った。
「君は不細工だ」
……なんで俺は急にディスられたの?
確かに俺は自他共に認める不細工だが、いきなり言われるとさすがに少し傷つく。
「なんだよ?今さら」
自分でもこの返答は何かおかしいと思うが、今はいい。
「だからという訳じゃないが、恋もまともにしたこともない」
「まぁ、そうだな」
間違ったことは言われていない。むしろ、この虚しい事実しか言われていないので納得している自分がいる。柊は、別にバカにはしてなくて事実だけを並べているだけだ。
「面白いじゃないか」
柊がニヤリと笑って口を開く。
「だから、なにがだよ!」
「そんなのが他人の恋を協力したらどうなると思う?」
「失敗するだろ、絶対」
「普通はね」
「?」
柊がベンチから立って、んーと伸びをする。
そして、俺の方に降り向いた。
俺が座っていて柊が立っているもにも関わらず、目線は同じくらいである。
「武久、君はおもしろい」
こう言った柊の顔は至って真面目な顔をしていた。
俺の目をまっすぐ、しっかりと見て彼女は微笑んだ。
「顔がか?」
「違うよ、それもあるけどね」
「あるのかよ……」
聞いたのは俺だが、無駄に落胆してしまった。
そんなことはお構いなしに、柊が続ける。
「興味本意だよ」
「興味本意?」
「あぁ、結果が分かってることに対して、君がどうあがくのか、どう覆そうとするのか。ボクはそれに興味がある」
「随分、勝手な理由だな」
「人を睡眠から起こすことに、少々雑な友人へのささやかなやり返しとでも思ってくれればいい」
文句あったのかよ……。いや、そりゃあるか。
そもそも学校で寝るなよとツッコミたくなるが、それをこいつに言っても仕方ないだろう。
俺より柊の方が成績かなり良いし。なんなら、たまに学年一位獲ってるし。
ボクより成績上になってから言うことだね、なんて論破されるのはこっちの方だ。
「で?どうすればいいんだよ?」
「いきなりだしね、また明日にでも聞くよ。今日は、まとめなきゃいけない資料がまだ残ってるからね、ボクは忙しいんだ。それに、武久にも部活の部員勧誘という仕事があるだろ?」
「まぁ……そうだな」
正直、俺自身の考えがまとまっていない。
この件に対して自分がどう動いて良いのかが全く分からない。
「ボクも少しは手を貸すから、そんなに肩の力入れなくていいよ」
「そうさせたのはお前だろ……。それにお前も恋愛経験もないんだから、俺とあんまり変わらんだろ……」
「心外だな、勝手に決めつけないでくれるかな?」
「じゃあ、あるのか?」
「……ない」
ほら、ないじゃないか。
というか、もうチャイム鳴りそうだな……。
さっさと、戻るか。
「柊、そろそろ……」
教室に戻ろうと言おうとした瞬間、チャイムが鳴った。
五限目始まりの合図と同時に、俺には遅刻確定のお知らせでもある。
「それじゃあ、ボクは保健室で寝るとするよ」
「はぁ?」
まだ寝んのかよ、こいつは……。これで実際成績も良いわけだから、誰も文句も言えないのか。
「言うのわすれてたけど、今日は起こしに来なくていいよ。六時間目は部室で過ごすつもりだし」
いや、授業でろよ。
寝てるから一緒なのか?違うのか?知らないけど……。
「ほんと、学校なんだと思ってるんだよ」
「ただの暇潰しさ」
「即答かよ」
むしろ、気持ちいいわ……。そのキッパリした感じ。
柊は俺が向かわなければならない教室棟と逆にある管理棟の方へ体を向ける。そして、いつもあまり上がらない口角を少し上げて俺の方を見た。
「それより、武久。君は行かなくていいのかい?」
「あ!」
「じゃあボクはこれで……」
柊はそう言うと管理棟の方へ歩いていった。
俺も早く行かないと授業に遅れてしま……遅れてるんだった。
もうこの際、ゆっくり行くとしよう。
「さて、どうしたものか」
というか、どうにもできない。
……思ったより、面倒なことになった。
ここ三十分ぐらいで、自分の置かれた状況が変わりすぎて、正直まだ混乱している。
しょうがない、俺はマンガやラノベの主人公みたいに一つの目標に真っ直ぐに挑むなんてできるタイプの人間じゃない。
柊は何を期待してるんだ?いや、面白がってるだけか。あいつの目論見が不明だ。俺に何をさせたい?
成功させる?無理だろ。俺が手を貸したぐらいでどうにかなるなんて思えない。
どうすれば良い?分かるか、んなもん。