大体、言いたいことは分かった
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「それで……用件は?」
というか、何だこの状況?
当初の予定通り、食堂に来たのは良い。
しかし、どうして俺が女子三人に囲まれて座ってるんだ?
「その前に紹介しとくね!」
俺の隣には、宮島が座っている。
この女子三人の中で、唯一接点があるのが彼女なので気を使ってそうしたのだろう。
「こっちが田所愛奈。今は私と4組でサッカー部のマネージャーなの」
宮島がそう言うと紹介された俺正面に座っている女生徒が、愛想よく手をひらひらとする。
「よろしくね。十川くん」
「よ、よろしく」
これは俺がコミュ症なわけじゃない。男なら誰でも、初対面で見てくれの良い女子に愛想よくされたら少し緊張してしまうはずだ、多分。
それよりこの子、どこか椎名先輩みたいな雰囲気を感じるな。
ん?サッカー部?
「十川くん。緑中のサッカー部だったんでしょ!」
田所さんがずいっと俺の方に身を乗り出す。
「あ、ひゃい!」
その勢いに負けて、思わず変な返事になってしまう。
あれ?なんかこの人怖いぞ?
「ねぇ、サッカー部入らない!?大丈夫!君ならすぐレギュラーになれるよ!一緒に頑張ろ!」
田所さんが俺の手を握って目で訴えてくる。
「えっと、あの……」
なんだこの子?どうして俺の手を?しかもこの潤んだ瞳、まさか俺のことを……ついに俺にも春が……っていかん、テンション上がって思わずYESって返事しそうになった。んなことしたら部長に殺される!
あと前言撤回!この人、椎名先輩感がない!
「なぁ、用ってこれなのか?」
手を握られたまま、上半身だけ仰け反って宮島に助けを求める。
ていうか、もっと早めに助けろよ。
「あはは、まさかー。もーう、愛奈ったら今回は勧誘なしって言ってたでしょ?」
宮島がそう言うと、田所さんは我に返ったように俺の手を離す。
女子から手を離されて解放感があることはそうはないよな。
「あ、そうだった!ごめんねー」
「い、いや」
田所さんが胸の前で両手を合わせる。
「それで、こっちが十川くんにお願いがある、佐藤莉乃」
「ちょっ、結子……別にお願いって訳じゃ……」
俺のことをブサイク呼ばわり(間違ってはないが納得はしていない)したやつがそっぽを向く。
やっぱりこの人が俺に用って訳か。
「莉乃が言わないなら私が言うね。実は、莉乃が志田くんに……」
「あーわかった、自分で言う!言うから!」
ほうほう、大体読めたぞ。ってことは……。
「だって莉乃、焦れったいんだもん。ってあれ?なんで十川くん顔隠してんの?」
「いや、ちょっと自分のアホさにへこんでるだけだ。気にしなくて良い」
そりゃあ誰だって第一声にブサイクって言われたら、悪口言われると思うじゃん?まさか自分に相談とか来ると思わないじゃん?面食らわせたと思ったけど、面食らうよな、当たり前だよな。だって目の前でブサイクが急に訳のわからないこと口走り出すんだもん。
「ふん、まぁ思ってたことだし、あまり気にしなくて良いと思うけど……」
佐藤さんはそう言って、手に持った紙パックのカフェオレを飲む。
高校生好きだよなー、それ。
「……ありがとう」
思ってたのかよ……。じゃあ、救われたかな。
「莉乃ちゃん、フォローになってないよ……。十川くんもお礼を言うとこじゃないし」
「というか、そろそろ本題に入って欲しいんだけど……」
この状況に、困るというかほぼ飽きれ気味で宮島が言う。
あぁ、忘れてた。その話で俺はここにいるんだった。
「ほら、莉乃。」
「えっ……あの……」
そう宮島に促されている佐藤さんは、いかにも言いにくそうなことを言うときの顔だった。
先ほど、人にあれだけ正面切って、ブサイクって言ったやつとは思えないほどだ。俺は決して根に持ってはない。
「その……」
ふむ、あれだな。今までの流れから考えたら、話の大体察しはつく。これだけ言いにくそうにしていて、話すまで待つっていうのは、言い方は悪いが時間の無駄な気がする。俺はせっかちなのかもしれない。
「莉乃ー。早く言わないと、昼休み終わっちゃうよー?」
「分かってるって!今言おうとしてたんだから!」
「でも莉乃ちゃんずっとそんな調子だよ?」
「……分かってるって」
ここにもっとせっかちな人たちがいるから、微妙なとこだが……。
とは言ったものの、宮島たちの意見にも同感だ。
このまま待っていると、俺はなにも食えないまま昼休みを終えてしまう。
宮島たちは個人で弁当を持っていて、自販機で飲み物などを買っていたが、俺はなにも持っていなかったし、菓子パンとかを購買で買うのに女子たちを待たせるのは気が引けたので、飲み物だけ買って席についた。
「お願いっていうのは……その……」
田所さんが言った通り、さっきからずっと佐藤さんはこんな感じだ。
それも仕方ないだろう。よし、ここは俺が一肌脱いでやろう。佐藤さんの印象は決して良くはないが、女の子が困ってたら、助けてあげようと思うのは男の性だ。
俺は悟ったように、対角線上に座っている佐藤さんに向かって右手を出した。
「……どういうつもりよ?」
俺も行動に、佐藤さんだけではなく宮島と田所さんも不思議そうな顔をする。
「大体、言いたいことは分かった」
「まだ何も言ってないんだけど」
「あれだろ?佐藤さんは光の事が好きでーー」
俺のこの言葉を口にした瞬間佐藤さんの顔が赤くなる。
人から言われると余計恥ずかしいのだろう。
「ーー俺には光と佐藤さんをくっつけるのを手伝えと」
佐藤さんの様子を見る限り、ビンゴみたいだ。
……が、なぜか、微妙な空気になっている。
俺はなにか悪いことをしただろうか?
「十川くんさすがにそれは」
「デリカシーないんじゃないかな?」
女子二人の視線が痛い。
話が進まなそうだったから、進めただけなのに。
「ゴホンッ。とにかく、そういうことでいいか?」
「まぁ、そういうこと。ね?莉乃」
そう宮島に振られても、佐藤さんは顔を伏せた状態で小さく首を縦に振るだけだった。
どんだけ恥ずかしがり屋なんだ。この人。
「っで?どう引き受けてくれる?」
「引き受けるって俺にやれることが特にない気がするんだけど……」
恋愛経験もないし、正直なとこめんどくさい。
「十川くん、志田くんと仲良いじゃん!」
ほんと、ガツガツ来るなぁ。
女子が他人の色恋沙汰にこんなに協力するのはなんなんだろう?やっぱり、おもしろいからか。
「長い付き合いではあるな」
友達だから幸せになって欲しい?
そんな純粋でご立派な理由なのだろうか?
「だったら色々、便利……じゃなくて、協力してくれると助かるなって」
「すっげー聞き捨てならない単語が出た気がするんだけど……」
「気のせいだよ!」
さすがにそんな笑顔で言われると、これ以上言及できない。女子のこういうところは、恐ろしいな。にしても、どうしたもんかな……。さっきも言ったが、すごくめんどくさいし、手伝う義理もない。
それに加えて、俺に全くと言っていいほどメリットもない。
「私は別に……手伝ってもらわなくても……」
「もー、またそんなこと言ってー」
よし、グッジョブだ、佐藤さん。これで俺は断りやすくなる。
やっぱ俺にできることないよー。無理無理ー、この顔で恋愛も手伝いとかできるわけないじゃーんとでも言って断ろう。
「そういうことなら俺にでき……」
「引き受ける」
ファッ?
「……話は聞かしてもらった。その話引き受ける」
「柊さん?」
「お前、何でここに?」
いつもは昼休みなんて爆睡してるくせに。
「喉乾いたから、ここ来たのはいいけど自販機に手が届かなくてね」
おう、なんだろう?すごく虚しい。
「そこに武久を見つけたわけだけど……」
「おう」
「女子に囲まれているから、ただ事じゃないと思ってね」
……否定できない、虚しいの二乗。
「柊さん、志田くんと仲良いの?」
「部活、一緒だからね、知り合いではある」
「……ッ!!」
立ってるのが疲れたのか、空いていた俺の右隣に柊が座る。
そうかここ俺以外全員クラスメイトなのか。4組だっけ。
一応、知り合いってことか。
柊は基本的にずっと寝てるから、気づいてないかもしれないが。
「部活?柊さん部活やってるの?」
「まぁね」
「ちなみに何部?」
さすが宮島、佐藤さんが気になっているのを察したのか。
そんなに興味ないだろうに。
「……文芸部」
「文芸部?」
あぁ……言葉がそのまま返ってきちゃったよ……。
見事に女子三人がキョトンとした顔をしている。
「そんなことはいいとして、ボク達は失礼するよ」
「え?あ、うん。それじゃあ、よろしくね」
しかし考えものだな……。文芸部の知名度ってこんなになかったのか。
これは、新入生を勧誘するの骨が折れそうだな……。
「行くよ、武久」
「あ、あぁ」
柊に促され、席を立つ。
あれ?ちょっと待てよ?
新入部員勧誘もしないといけないわ、人の恋路の手伝いもしないといけないわって……。
いきなり、新学期からイベント二つも起きちゃったよ。おかしい、普通最初はどちらか一つだろ!
とういうか、超めんどくさいじゃん。