兄さん、夕飯です
5話です!どうぞ
『なるほど、それは大変だ』
部活から帰ってきた俺はそれから特にやることがなかったので、昼御飯を食べ、仮眠をとったり、読書をして過ごしていたら、いつの間にか夜になっていた。
そして、読んでいた本も読み終わってボーッとしていた頃に、バイトが終わった光から電話が来たのである。
どうやら光も部活のことが気になっていたみたいだったので、今日のことを話したところだった。
部活がないと思って、バイトのシフトを入れていたらしいし気になるのは仕方ないか。
『それで?どうするの?』
「明日から勧誘しまくるらしい」
今んとこ、それしかないしな。
『来ると思う?』
「来ないな、絶対」
『絶対なんだ……』
光があははと呆れたように笑う。
この笑い方はこいつの癖だ。長い付き合いなので分かるが、ごまかしや相手の調子に合わせるときに使うことが多い。
「あの部活に入部するメリットがあると思うか?」
『ないね』
……聞いたのは俺だけど、即答するこいつもどうかと思う。
「はぁ……どうしたもんかね……」
新入生なんて、特に高校の部活に期待を抱いているはずだ。そんなやつらが、何をするかわからない文芸部になんて、入りたいとはまず思わないだろう。
「そうだ、お前が勧誘したら、女子部員増えんじゃねーの?」
『そんな子が、部長に耐えられると思うかい?』
お前、部長をなんだと思ってんだよ。同感だけど。
俺も言ってみただけで本気にはしてない。
「だよなぁ」
さすがに無茶だよな。
にしても、こいつには謙遜というものがないのか。
『まぁ何をするにしても、対策は考えないとね』
「それ考えるのって、先輩たちの仕事なんじゃ……」
なにか思い付く自信もないし。
ひたすえあ勧誘!っていう誰でも思い付きそうなものしか出てこない。
『ヒョロ先輩はともかく、部長や沙織先輩がまともなこと考えると思う?』
部長は絶対無茶なこと言うし、椎名先輩は笑顔で無茶なこと言うな。
あ、どっちも無茶だ。
「じゃあ、ヒョロ先輩に任したらいいと思うけど」
『あの人、絶対部長に任せようって言うでしょ』
「だよなぁ……」
ヒョロ先輩は基本、文芸部のことを部長に委ねている。
「立夏が作った部活なんだから、立夏の思うようにやればいいんだよ」という、保護者みたいな方針らしい。
『何をするにしても、俺たちが今考えてもしょうがないか』
そう言った後、光は、んーと伸びをしたような声を上げる。
こいつも、働いて疲れているのだろう。俺も今日は、色々あって疲れた。
「じゃあ、明日にするか……」
『そうだね、じゃあまた明日』
「おう」
切られた電話を机に置いたら、ふとあくびが出た。
寝すぎて、逆に眠いな。夜寝れないよりかはましか。
っと一息ついたところで、コンコンとドアがノックされた。
「兄さん、夕飯です」
「おう、わかった」
十川結実、俺の4つ年下の妹だ。
「志田さんとはもういいんですか?」
「……もしかして待ってたか?」
だとしたら悪いことしたな。
「いえ……」
そう言って、結実は少し顔を伏せる。
……悪いことしたな。
「おにぃ、遅いよー!」
「あー悪いな」
リビングに行くと、幼女が食卓に座っていた。
この出された食事を前にうずうずしてるのが、もう一人の妹の可鈴だ。
小学三年生である。
「親父は?」
「仕事、遅くなるって」
「そっか」
そして、母親の十川理恵子……これ以上説明しようがないな。
俺を生んだ親であるが、ビックリするほどなにもかも、俺に似ていない。
息子の俺が言うのもなんだが、年よりは若く見える。
なににしても、俺の母である。
「じゃあお母さん、また出ないと」
「おかーさん、おしごとなの?」
「えぇ、だから可鈴、お兄ちゃんたちと良い子にしてるのよ」
言っても、もう飯食って風呂入って寝るだけだけどな。
「はーい」
そんなことを可鈴は考えているはずもなく、元気よく返事をする。
我が妹ながら、実に愛くるしいものだ。
「武久、結実、お願いね」
「はい」
「あいよ」
俺たちがそう返事をすると、母さんは仕事に出ていった。
母さんは、いわゆる、キャリアウーマンというやつで、一年中忙しくしている。
親父も忙しいらしいので、食事はこうやって兄弟3人でとることが多い。
「じゃあ、食うか」
「いっただきまーす」
俺がそう言った瞬間、待ってましたと正面にいる可鈴が食べ始める。
どうやら、余程腹が減っていたらしい。
「いだだきます」
可鈴とは対照的に、結実も食事にありつく。
隣り合わせの二人が食べ始めたのを確認して、俺も揚げたての唐揚げに箸を伸ばす。
……ちょっと冷めてるけど、うまい。
やっぱり大皿に、唐揚げがいっぱいあったら幸せになるよなぁ。
唐揚げが世界平和に、繋がる気がする。
「おにぃは、おへやでなにしてたの?」
勢いよく食べて、少し空腹が満たされたのか、一端落ち着いた可鈴が唐突に聞いてくる。
「どうしたんだ急に?」
「おねぇがおにぃ呼びに行ってから、かりんずっとまってたから」
「どれくらい?」
「えっとね、じゅ……「ほら可鈴、お野菜も食べないと」……え、あ、うん」
結実が可鈴の声を遮るように、声を被せる。
俺に気を遣わせたくないのか。あるいは、嫌われているのか、真意は分からない。
「光と電話で話してたんだよ」
渋々と結実の言われるまま、サラダをむしゃむしゃと食べている可鈴に、諭すように言う。
可鈴は光に割となついている。多分、俺より。
「ふぁりんもふぁなひたはったー」(訳:かりんもはなしたかったー)
お前は草食動物か。ちょっとずつ食えばいいのに、なんで口いっぱいに含んじゃうんだ。
フグみたいになってるぞ。あと食べながら話しちゃいけません。なに言ってるか、分からんし。
「ほら、マヨネーズついてる」
「んー」
こんな面倒見の良い姉と世話のかかる妹の図を目の前にして、何故だが癒しを感じてしまう。
毎日のように見ている光景のはずなのに、妙な距離を感じる。
「結実、あんま俺に気を使うなよ」
「……はい」
こんなことを言っても、意味はないと分かってながら、それしか言えない自分に嫌気が差す。
結実とはこんな感じでぎこちない。
これは、結実が中学に上がった頃からだ。
俺と結実は血が繋がっていない。
具体的に言うと、母さんと親父が九年前に再婚した時、親父の連れ子が結実だった。
もう一人結実には、姉がいるらしいが、親父の前の奥さんが引き取ったらしいので、会うことはないだろう。
結実も姉のことは記憶になかったらしい。
なので、可鈴だけはれっきとした母さんと親父の子供ということになる。
この事実を、結実が知った。いや、母さんが結実に伝えた時から、俺から距離を置くようになった。
敬語もその一つだ。
まぁ、どこの兄妹もこんな距離感な気もするので、不満もないんだが。
かくいう、俺は母さんと親父の再婚のことを覚えていたので、結実みたいにショックはなかった。
仮に覚えてなくても、気づいていただろうとは思う。
……顔、死ぬほど似てないしな。
「じゃあ、洗い物は俺がするわ」
「いいです、私がやります!」
晩飯を三人とも平らげたので、食器を台所に持っていこうとすると、案の定、結実が俺の手を止める。
こうなるとは思ったが。
「昨日はお前がやったろ?」
一昨日もその前もだけど。
「だから、たまには俺が……」
「大丈夫です。私がやりますから」
結実はそう言って、食器を台所に持っていく。
「あ、そう」
そう言った、俺の声は聞こえてないだろう。
「すぅーすぅー」
「……お前は自由か」
可鈴の方を見ると、空腹が満たされて眠くなったのか、それはそれは気持ち良さそうに寝ていた。
……部屋、戻ろう。
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